第2章 地球温暖化と生物多様性


<第2章の要約>

私たちの生存の基盤である生物多様性の重要性を確認するとともに、人間活動の結果によって地球上の生物多様性が受ける作用、さらにそれが生態系を通じて人間生活に及ぼす影響について、特に地球温暖化の観点から見ていきます。


第1節 地球の営みと生物多様性


1 生態系サービス

生物多様性はそれ自体も価値を有していますが、多様な生物に支えられた生態系は、私たち人類に多大な利益をもたらしています。
ミレニアム生態系評価は、国連の主唱により2001年から2005年にかけて行われた、地球規模での生物多様性及び生態系の保全と持続可能な利用に関する科学的な総合評価の取組です。生物多様性は生態系が提供する生態系サービスの基盤であり、生態系サービスの豊かさが人間の福利に大きな関係のあることが分かりやすく示されました。ミレニアム生態系評価の報告書は、生態系サービスを以下の4つの機能に分類し、生物多様性の意義について紹介しています。

生態系サービスと人間の福利の関係

1) 供給サービス(Provisioning Services)
 食料、燃料、木材、繊維、薬品、水など、人間の生活に重要な資源を供給するサービスを指します。
 このサービスにおける生物多様性は、有用資源の利用可能性という意味で極めて重要です。現に経済的取引の対象となっている生物由来資源から、現時点では発見されていない有用な資源まで、ある生物を失うことは、現在及び将来のその生物の資源としての利用可能性を失うことになります。
2) 調整サービス(Regulating Services)
 森林があることによって気候が緩和されたり、洪水が起こりにくくなったり、水が浄化されたりといった、環境を制御するサービスのことを言います。これらを人工的に実施しようとすると、膨大なコストがかかります。
 このサービスの観点からは、生物多様性が高いことは、病気や害虫の発生、気象の変化等の外部からのかく乱要因や不測の事態に対する安定性や回復性を高めることにつながると言えます。
3) 文化的サービス(Cultural Services)
 精神的充足、美的な楽しみ、宗教・社会制度の基盤、レクリエーションの機会などを与えるサービスのことを言います。
 多くの地域固有の文化・宗教はその地域に固有の生態系・生物相によって支えられており、生物多様性はこうした文化の基盤と言えます。ある生物が失われることは、その地域の文化そのものを失ってしまうことにもつながりかねません。
4) 基盤サービス(Supporting Services)
 2で述べるような、1)から3)までのサービスの供給を支えるサービスのことを言います。例えば、光合成による酸素の生成、土壌形成、栄養循環、水循環などがこれに当たります。

2 生態系サービスを支える物質循環と生物多様性

生態系は、生物とそれを取り巻く大気、水、土壌などから構成されています。地球上の様々な物質は、その生態系の中を循環しています。また、太陽からもたらされるエネルギーは、生物に消費されながら生態系の中を流れていきます。物質循環やエネルギーの流れにおいては、生物が非常に重要な役割を果たしています。
地球温暖化を始めとする近年の人間活動の増大による環境問題は、人間活動によるかく乱によって、こうした地球上の物質循環やエネルギーの流れのバランスが崩れることによるものであるということができます。ここでは、人間の生存の基盤ともなっている主要な物質循環の一つである炭素循環を紹介します。

炭素循環

地球の大気、水、土壌、生物といった生態系の中には、炭素化合物が含まれています。大気中に含まれる二酸化炭素(CO2)は、大気と海水との間で絶えず交換され、平衡状態を維持しています。また、二酸化炭素は、植物等によって行われる光合成を通じて、有機化合物として固定されます。この一部は、植物等やこれを食べる動物によって消費され、再び二酸化炭素として大気中に放出されます。動植物の死骸や排せつ物は土壌中の微生物によって分解され、やはり二酸化炭素として大気中に戻ります。この生物を経由する循環は海の中にも存在します。
また、大気と海水の間での循環や生物を介した循環のような比較的短期的な循環の他に、タイムスケールの非常に大きい長期的循環が存在します。地球上の炭素のほとんどは、動植物の死骸や排せつ物が沈殿した炭酸カルシウムや、古い時代の生物の有機物が地下で変化してできた石炭・石油などの形で固定化されているのです。
その他、生物の体を構成するタンパク質の形成に不可欠な窒素や、生命を維持するのに欠かせない水、生命の活動の源となるエネルギーなどは、短期的・長期的に地球の生態系の中を循環したり流れたりしています。


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