第5節 地域再生・教訓の継承に向けて
わが国の環境問題の原点とも言うべき水俣病は、被害者個人の健康被害や環境汚染をもたらしたばかりでなく、被害者への差別や住民間の軋轢による地域社会の疲弊などの様々な影響をもたらしました。このため、地域社会のきずなを取り戻し、地域を再生するという「もやい直し(※)」のための取組が地元自治体を中心に進められています。また、水俣病の経験の情報発信等の取組も行われています。
本年は、水俣病の公式確認から50年を迎える節目の年にあたることから、国、関係地方公共団体、水俣病関係団体、住民等が一体となって「水俣病公式確認50年事業実行委員会」を設立し、水俣病の教訓を後世に伝えるためのシンポジウムの開催等、水俣病公式確認50年事業に取り組んでいくこととしました。
また、第164回通常国会の衆参両院において、「水俣病公式確認50年に当たり、悲惨な公害を繰り返さないことを誓約する決議」がなされました。さらに、平成18年4月28日には「水俣病公式確認50年に当たっての内閣総理大臣の談話」が発表されました。
※もやい直し 「もやい」とは、もともと船をつなぐことや共同でことを行う意味です。人と人との関係、自然と人との関係がいったん壊れてしまった水俣で、水俣病と正面から向き合い、対話し協働する取組を「もやい直し」と名付けています。
国は、これまで関係地方公共団体や関係団体とも協力しながら、健康被害の救済や地域の再生、情報の発信のための取組を試行錯誤しながら進めてきましたが、公式確認から50年を経てもなお、多数の者が公健法の認定を申請し、また、損害賠償請求訴訟を起こすなど多くの課題が残されています。これからも、地域の住民が安心して暮らしていけるようにするため、水俣病被害者等の高齢化に対応した医療と地域福祉を連携させた取組を進めるほか、環境保全や地域のもやい直しの観点から、何が必要で有効かを模索しながら、施策の推進に努めていきます。また、水俣病のような問題を二度と起こさないためにも水俣病の経験及び教訓を引き続き国内外に発信し続けていきます。

写真 水俣病慰霊の碑 水俣市提供 水俣病慰霊の碑には「不知火の海に在るすべての御霊よ 二度とこの悲劇は繰り返しません 安らかにお眠り下さい」と刻まれている。



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