くらしを彩る「環境のわざ」

<第1章の要約>

 現在、社会の隅々で、環境保全を目的としたさまざまな工夫が行われています。例えば、技術開発を通じて環境配慮型製品や環境配慮の事業形態が生み出されてきました。これらに見られる環境保全のための技術や、環境に配慮するための方法や仕組みを、本白書では「環境のわざ」と名付けました。この章では、「住まいと仕事場」、「余暇」、「ものづくり」という3つの場面について、さまざまな「環境のわざ」を紹介し、その効果を考察するとともに、環境に配慮した管理手法や事業形態について紹介します。



1 住まいや仕事場での「環境のわざ」の例

 日本の建築物は、これまで風通しのよさに重点をおいて設計され、北海道などの寒冷地を除き、建築物の断熱対策はあまり進んでなく、例えば、日本の複層ガラスの普及率は、欧州各国と比較すると低くなっています。
 冬の暖房時に流出する熱の58%、夏の冷房時に流入する熱の73%が窓や扉などの開口部を経ているとされています。このため、開口部に複層ガラスや断熱性能に優れたサッシなどを用いることは冷暖房に使うエネルギーの削減に有効です。また、壁などに用いられる断熱材の性能を向上させることも、建築物の断熱性能を向上させます。さらに、庇や軒を設けたり、庭に木を植えたり、ブラインド、カーテン等を活用することなどにより、夏季の日射が強い時期に涼しく快適な居住空間が創出できます。

ガラスの種類別の熱貫流率の比較


 家庭用の太陽光発電設備は、市場の拡大とともに価格も低下しています。また、家庭用の燃料電池は、平成17年の市場への導入が見込まれています。家庭でのエネルギーの使用の合理化に関しては、省エネナビや家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)などの利用も効果があるものとして挙げられます。
 事業所でも、太陽光発電施設やコージェネレーション設備が設置されています。また、ビルや工場の省エネ化に必要な技術、設備、人材、資金などを包括的に提供するサービスであるESCOが注目されています。

 家電製品については、省エネ法により、現在商品化されている製品のうちエネルギー消費効率が最も優れているものの性能、技術開発の見通し等を勘案して基準を定めるトップランナー方式を採用することで、一層の省エネ技術開発を促進しています。例えば、テレビでは、消費電力の低減を図るとともに、待機時の消費電力の低減化が図られています。また、ブラウン管より消費電力が少ない液晶テレビも急速に広がっています。

 照明に要する電力消費量は、家庭における電力消費量の約16%を占めています。電球型蛍光ランプは同じ明るさの白熱灯に比べ電力消費が約3分の1に、寿命が約6倍になります。
 エアコンで冷暖房に使用されるエネルギーは、家庭で使用される電力の約25%を占め、最大のエネルギー使用機器となっています。エアコンも、インバーター制御化などの技術の進展により、省エネ化が進み、同程度の出力のものであれば、5年前のものに比べ、消費電力は約2割少なくなりました。

開口部からの熱の流出入割合

ブラウン管、液晶テレビ、プラズマテレビの1インチ当たりの消費電力比較
エアコンの年間消費電力の推移
太陽光発電設備の価格の推移

2 余暇での「環境のわざ」の例

 「環境のわざ」は普段の生活だけではなく、余暇という場面でも発揮されています。
 エコツーリズムの定義は人によりさまざまですが、環境省では、①地域固有の自然的・文化的資源を理解しながら、その魅力を享受できる教育的・解説的要素を含んだ観光が成立している、②資源が持続的に利用できるよう環境への負荷軽減の配慮と保護・保全策がなされている、③地域経済や地域社会の活性化に資する、という3つの要素を含み、かつこれらの融合と永続的な達成を目指すものとしています。エコツーリズムによって、地域住民は地域の自然や文化の価値を再認識し、またエコツアー参加者との交流により、地域に活力をもたらすことが期待されます。

1章1節2エコツアーの写真2軽井沢
移動手段別の二酸化炭素排出原単位
 ホテルや旅館でも、環境配慮が行われています。例えば、三重県鳥羽市のある旅館では、毎日大量に使用する天ぷら油を旅館内の施設でディーゼル代替燃料に加工し、お客の送迎に使うバスの燃料にしています。生ごみは堆肥化し、自家発電の排熱は館内の給湯に利用しています。オフシーズンのプールには雨水を溜め、散水や洗車に使っています。
 旅の移動手段として何を選択するかによって、環境への負荷は大きく異なります。例えば二酸化炭素の排出量を例にとると、鉄道を利用した場合、乗用車の約8%の排出で済みます。

3 ものづくりでの「環境のわざ」の例

 私たちが普段使用する製品にも、使用している際の環境負荷を下げるだけではなく、製造段階から廃棄に至るまでの製品のライフサイクル全般で環境配慮が行われているものがあります。
 製品を廃棄する段階では、なるべく廃棄する量を少なく、かつ、再利用を容易にするための取組が行われています。例えば、あるパソコンメーカーでは、解体のしやすさを配慮して、10年前に比べて、ネジの数を約10分の1に減らしました。これにより解体時間が短くなるとともに、部品のコストも相対的に下げることができたといわれています。
 また、ある製鉄会社は、鉄鉱石を銑鉄に還元する過程で必要な原料炭の一部に代えて、使用済みプラスチックを高炉に吹き込むことで原料炭の使用を減らしています。また、使用済みプラスチックを原料として再資源化するとともに、その使用後の資材を再回収し、最終的に高炉原料として利用することによって、資源を有効に活用しています。



 「環境のわざ」は、管理手法や事業形態にも及んでいます。環境マネジメントシステムや環境報告書は大企業の多くに普及し、金融部門でも環境に配慮した取組が始まっています。

1 環境マネジメントシステム

 事業者が自主的に環境保全に関する取組を進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくための工場や事業所内の体制・手続等を「環境マネジメントシステム」と呼びます。
 環境マネジメントシステムの代表的な国際規格が、国際標準化機構(以下「ISO」という。)が定めたISO14001です。ISO14001は、計画、実施、点検、見直しを継続的に実施することにより環境配慮の取組の改善を図っていくものです。

日本のISO14001審査登録件数の推移

 さらに、中小企業にとっては、ISO14001の認証取得の負担が大きいため、環境省では中小企業も含めたあらゆる事業者の自主的な環境への取組の促進を目的として、平成8年にエコアクション21を策定し、平成15年度には、参加登録事業者数が1,000事業者を超えるまでになりました。また、平成16年度には、エコアクション21を改訂し、対外的な評価を得ることができる認証登録制度を導入することにより、中小企業における環境配慮の取組が一層促進されることが期待されます。

2 環境報告書

 環境報告書は、企業等の事業者が、自ら行う環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取組の状況などの環境情報を総合的に取りまとめ、一般に公表するものです。
 その意義としてまず挙げられるのは、事業者と社会をつなぐ環境コミュニケーションの重要な手段ということです。消費者、取引先、投資家等が、環境報告書に記載された情報を判断材料として、事業者や製品・サービスを選択するようにすれば、積極的な環境配慮の取組が社会や市場で高く評価されるようになり、これが社会全体として一層の環境配慮を促すことにつながります。環境報告書の作成・公表は、事業者自身の環境配慮に関する方針、目標、行動計画等の策定や見直しを行うためのきっかけとなります。自社の取組内容を従業員に理解させ、その環境意識を高めるためにも、環境報告書は有益な手段です。
 環境報告書を作成・公表する企業数は、着実に増加しており、21.9%の企業が環境報告書を既に公表していると回答しています。上場企業では平成14年度に34%の企業が、非上場企業では12.2%の企業が環境報告書を公表しています。
 近年、企業の社会的責任に関する議論の高まりを背景として、従来の環境面に加えて、社会的な側面を加えた「持続可能性報告書」や「CSR(企業の社会的責任)報告書」等を作成する事業者が増えてきており、環境報告書を作成・公表している事業者の4分の1を超えています。

3 金融での環境配慮

 近年、金融機関の環境への関心が高まっています。その背景としては、環境問題が金融機関の経営そのものに影響を及ぼす可能性(例えば融資対象企業が土壌汚染・地下水汚染の判明を契機としてその対策に予想外の支出を強いられ、資金繰りに窮し、返済が滞るリスク(信用リスク)などの問題)があります。また、環境問題への対応が、金融機関にとって新たな事業機会になることがあります。
 金融機関は、事業者への資金の再配分を通じて間接的に環境に大きな影響を及ぼしており、環境問題に対する関心が事業経営に織り込まれるよう融資対象企業等に働きかけることができます。
 その他、例えば低公害車の購入について、銀行の中には低金利の融資を行っているところがあります。保険会社の中には、保険料率を割り引く「エコカー割引」を行っているところもあります。
環境報告書作成企業数の推移

社会・経済的側面の記載状況



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