第4節 化学物質による環境問題にいかに対応していくか ─化学物質による環境リスクや負の遺産をいかに減少させていくか─


1 化学物質による環境問題の特質
 化学物質は、私たちの生活に利便性をもたらす一方、様々な場面において人体や環境に悪影響を与える可能性を持っています。世界中で開発された化学物質の登録機関である米国のCAS(Chemical Abstracts Service)には、平成12年末時点で約2千8百万種類の化学物質が登録されており、種類及び生産量は増加傾向にあります。
 化学物質は、日常生活のあらゆる場面、モノの製造から廃棄に至る事業活動の各段階において、環境中に放出されたり人体に摂取されたりしています。様々な化学物質による環境リスクについて、影響を及ぼす範囲と有害性との関係を整理すると、大まかに図のように表すことができます。

化審法に基づく新規化学物質届出件数

環境リスクから見た化学物質問題

化学物質の発生、移動、影響の経路

2 化学物質対策の基本的な方向
 このような化学物質をめぐる状況を踏まえ、新環境基本計画では、化学物質対策に係る目標として、「…多様な手法による環境リスクの管理の推進を図ることにより、持続可能な社会の構築の観点から許容し得ないリスクを回避」することを掲げています。今後、本目標の達成に向けて様々な施策が講じられることになりますが、化学物質の適切な管理を行う前提として、まず各々のリスクを評価することが必要となります。このリスク評価は、諸外国及び国際機関においても重要課題として取り組まれています(図参照)。また、有害物質による土壌や地下水の汚染など、環境上の「負の遺産」のうち化学物質によるものについては、これまでの蓄積も含め、将来世代に環境影響を可能な限り残さないことを目指す必要があります。

EUにおける化学物質のリスク評価の概念図

3 環境リスクの低減と環境上の「負の遺産」の解消に向けた取組
 化学物質リスクによる環境リスクの低減に向け、国内外で様々な取組が進められています。国際的には、ストックホルム条約(通称POPS条約)案について政府間交渉会議において合意がなされるなどの動きが見られるほか、化学物質のリスク評価や情報の整備などの取組が行われています。
 わが国では、環境上の「負の遺産」の早期解消に向けて、対策技術の開発・普及と修復への取組が重要性を増しています。土壌汚染については、図に見られるように近年、土壌の汚染に係る環境基準に適合していないことが判明した事例数が高い水準で推移しており、土壌汚染対策の一層の推進が求められています。このような状況を踏まえ、土壌環境保全対策のために必要な制度のあり方について調査・検討を開始したところです。また、PCBの処理促進については、平成13年度に予定される制度改正によって特例措置が講じられることとなるほか、地方公共団体が独自に処理の目標を策定する例も出ています。

年度別の土壌汚染判明事例数

 一方、化学物質による環境リスクの低減については、制度的対応、科学的知見の充実、対策技術の開発・普及、各種基盤及び体制整備、民間事業者を含めた取組の推進が図られています。例えば、ダイオキシンについては、ダイオキシン類対策特別措置法等に基づき対策が進められており、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)については、「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」に基づき、平成10年度から全国における環境中の検出状況の把握調査等が進められるとともに、平成12年度からは、ミレニアム・プロジェクトにより、3年計画で40物質以上のリスク評価に取り組むこととなっています。
 事業者の自主的な化学物質の適正管理の取組にも着実な進歩が見られます。特に、日本化学工業協会を中心としたレスポンシブル・ケア活動については、総合的な管理に加え、地域ごとの説明会開催によって直接対話を進めるなどの取組が行われています。また、化学工業界以外の多くの団体においても、平成8年の大気汚染防止法改正を受けた自主管理計画が策定され、指定化学物質の削減目標の達成に向けた取組が行われています。
 さらに、環境NGOにおける勉強会や、事業者や業界団体と地域住民とのリスクコミュニケーションも始まっています。地域住民、消費者、環境保全活動への参加者など様々な立場からリスクコミュニケーションを行うことは、社会全体からの化学物質による環境リスクを低減するために不可欠となっています。

有害大気汚染物質に係わる自主管理状況
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