平成7年版
図で見る環境白書


 第1章 文明の発展と地球環境問題

  1 地球生態系における人間の位置

  2 古代文明と環境

  3 現代文明と地球環境問題

 第2章 アジア・太平洋地域の持続可能な発展

  1 アジア・太平洋地域の環境の現状

  2 アジア・太平洋地域の21世紀の環境の展望

  3 アジア・太平洋地域の持続可能な発展とわが国の役割

 第3章 次世代から見た日本の環境ストック

  1 土に見るわが国の環境

  2 平地自然地域、里地自然地域に見るわが国の自然環境

  3 地球温暖化の環境影響

 第4章 持続可能な未来につなぐ効果の高い環境対策の展開

  1 環境対策の効果を高める視点

  2 環境と貿易

  3 環境と市場

  4 情報と環境

  5 地方公共団体、消費者、産業界等の新たな取組とその連携

  6 持続可能な未来につなぐ環境基本計画

 第5章 環境の現状

 むすび




表紙の絵は、アニメーション映画「となりのトトロ」の背景画の1枚です。太田清美さんが描きました。



読者の皆様へ
 この小冊子は、去る5月30日に閣議決定の上公表された平成7年版環境白書の総説をもとにしています。その内容をやさしくかいつまみ、また、新しい写真なども加え、多くの方に親しんでいただけるよう、環境庁で編集し直したものです。
 毎年の白書は、主に前年度の出来事を報告していますが、平成6年度は、「環境基本法」に基づいて「環境基本計画」が閣議決定され、あらゆる主体による環境保全のための取組に関する基本的な方向が示された画期的な年度といえます。
 この環境基本計画は、地球環境時代にふさわしい21世紀初頭までのわが国の環境対策全体の羅針盤の役割を担っています。計画では、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を目指し、「循環」、「共生」、「参加」、「国際的取組」を長期的な4つの目標として掲げています。この背景には、私たちの日常のライフスタイルと社会経済活動のあり方を文明論的な観点にまでさかのぼって根本から問い直し、これからの文明社会をいかに持続可能なものへと構築していくかという基本哲学があります。
 これを受けて、今年の白書では、環境と文明の関係を取り上げ、人類の進化や古代の文明などを環境の面から振り返りつつ、現代文明の持つ歴史的な意味合いや問題点を探り、併せて今後の社会のあり方について考えてみました。また、わが国と密接な関係にあり、地球環境保全の観点から、今後人類が持続可能な社会を実現できるかどうかの鍵を握っているといっても過言ではないアジア・太平洋地域について記述しています。この他、環境保全の面からの重要性にもかかわらず、これまであまり取り上げられなかった「土」について考察を加え、さらに、これからの環境対策をこれまで以上に効果の高いものにしていくための視点について整理しています。これらを通じ、人類が持続可能な経済社会とそのシステム作りに向けその知恵と創造性を発揮することにより、これまでの文明とは質的に異なり、豊かで美しい地球文明を構築していくことの必要性をメッセージとしています。
 この小冊子が読者の皆様一人ひとりの環境保全に向けた具体的な活動への一助となることを願っております。




第1章 文明の発展と地球環境問題


1 地球生態系における人間の位置

 地球に生命が誕生したのは約35億年前とされています。約6億年前になると、現在生存している多細胞生物の主要なグループ(動物門)が一斉に現れ、約6,500万年前恐竜をはじめとする巨大は虫類の絶滅後、哺乳類が繁栄を見せます。霊長類の祖先が生まれたのは、約7,000万年前と見なされています。
 人類は今から約500万年前に誕生したとされています。原初人類は道具(武器)の使用と協同行動によって生活様式を確立し、二足直立歩行、家族の形成、言葉の獲得、制度の形成等、ヒトとしての特徴を備えていき、完成の方向に進展してきました。
 生物は数々の絶滅をくぐり抜け、進化をしてきました。大規模な絶滅の中には環境の変化、例えば大規模な寒冷化などが要因となったものが多いと推測されていますが、現代の気候変動は過去のものよりも速く進行しているとされています。
 ヒトも一つの生物種にすぎませんが、現代の人類は、環境に対してはきわめて特殊な存在になっています。人類と生物を環境の観点から比較しながらその違いを浮き彫りにしてみましょう。

個体数の変化と寿命
 生物の個体数は増加し過ぎると、各種の制限要因が働き、それが減少するよう調整されます。人類はこれを克服し、結果として、一生物種として予想される個体数の上限値をはるかに越えて増加を続けています。その寿命も延びつづけ、個体総数の減少率が低下しています。

生命の進化と絶滅
生命の進化と絶滅
(備考)スタンレー「生物と大絶滅」
    太線部は大規模な絶滅の時期を示す


世界人口の増加曲線
世界人口の増加曲線
(備考)江上信雄/飯野徹雄編「生物学下」


生存曲線出生者1,000人あたりの生存者数
生存曲線出生者1,000人あたりの生存者数
(備考)1.〔日本(太線、男・女)昭和52年簡易生命表、他は、Colin Clark(1967)Population Growth and Land Use, Macmillan により作図〕
    2.資料:江上信雄/飯野徹雄編「生物学下」


標準代謝量及びエネルギー消費量から見た人類
 恒温動物の標準代謝量と体重との間には一定の関係が見られますが、人類はこの関係とは桁違いに多量のエネルギーを消費しています。移動の効率を例にとってみると、一人で乗用車に乗って移動する場合、同重量の動物と比べ約40倍のエネルギーを消費します。

移動方法の経済性の比較
移動方法の経済性の比較
(備考)本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」


 また人類の住みか、とりわけ現代の巨大化した建築物は機能的に多量のエネルギーを必要とし、自然の中にとけこんでいる他の動物の巣とは趣を異にしています。

シロアリの空調装置
シロアリの空調装置
●シロアリ(Macrotermes)の空調装置、巣内6カ所の温度変化と炭酸ガスの濃度変化
 (f→c方向に温められた空気は上昇し、C02濃度も増加するが、d→eの外壁付近の細いダクトで急速に冷却され、CO2濃度も減少する)
(備考)長谷川堯「生きものの建築学」


食料
 人類は他の動物には見られない採食行動を獲得しました。農耕・牧畜により安定した食料の確保を可能にしましたが、その一方で地球上の植物生産量の非常に多くの割合を消費しているといわれ、他の生物のシェアと比較すると、特異な状態にあると考えられます。

陸上生物の食物連鎖
陸上生物の食物連鎖
(備考)科学全書 星野貞之「ヒトの栄養 動物の栄養」より改変


生息密度・生息域
 人類の一生物としての生息密度は、1.4人/平方キロメートルと予測されますが、実際には39人/平方キロメートルと20倍以上の数値となっています。また世界中の地域に生存し、他の生物では見られない広範な生息域を有しています。

人類の生息域拡大
人類の生息域拡大
(備考)「科学」1990、VOL60 N02 根井による


 多くの生物種は長い時間をかけて環境の変化に身体の形態を適応させてきました。しかし、人類による環境の改変は、こうした生物の適応に必要な速度をはるかに上回って行われています。
 全ての生物は生態系の一員として、系の均衡と調和の中に身をゆだねています。しかし、人類はこの系から抜け、自ら築いた社会・文明に依存し、その活動は、回復不可能な環境破壊をもたらす力を持つまでに至っています。今に生きる我々が、何をすべきか、自らの存続がかかるその問いかけに、私たちはどのような答を用意できるのでしょうか。

2 古代文明と環境

 古代文明の盛衰と環境の関係については、必ずしも明確に分かっている訳ではなく、種々の見解が必ずしも一致する訳ではありません。しかし、環境の変動が文明の成り立ちに影響を及ぼしてきたこと、文明の活動が環境に影響を及ぼしてきたこと、そして少なくともいくつかの文明において、文明自身が及ぼした影響による環境の変化が文明の滅亡の有力な原因となったことがわかってきました。
 すなわち、文明は、気候、降水量、利水条件、土壌、森林などの環境条件に依存して存立していたのです。例えば、エジプト文明はナイル川の水、肥沃な泥土といった恵みに依存していたのであり、メソポタミア文明はチグリス川ユーフラテス川の水の恵みと、それを利用せざるを得ない乾燥した気候によってそのような文明のあり方や盛衰が左右されてきたのです。
 ナイル川の毎年の大氾濫による土壌の更新という極めて恵まれた自然条件下にあったエジプト文明などでは、文明を築くための環境の利用の程度は相当の規模であったと考えられますが、それはナイル川の自然が受容し得る範囲内にとどまり、直ちにその文明による環境への影響が自らの文明を衰退させることはなかったようです。
 しかしながら、シュメール(メソポタミア)文明においては、文明の発展に伴う人口の増加等により、文明を生み出し支えた灌漑農業の持続性が確保されることなく生産を継続せざるを得なかった結果、土壌の塩類集積による土地の不毛化を引き起こし、それによって文明が衰退していったようです。また、クレタやギリシャなどの文明においては、木材資源の使用や農地の確保などのために森林を非持続的に利用し続けたことによって森林の減少、土壌の流失などを招き、それが文明の衰退の一つの要因となったと考えられています。
 特に、イースター島では長い間謎と言われた巨大な石像(モアイ)群が、祭礼の対象物としてかつての祭礼が非常に盛んであった文明の象徴であると同時に、島内各地の祭祀場への運搬などのために島の限られた森林資源を使い尽くしたことで、それが土壌の流出・荒廃と食料生産の減少を招き文明の滅亡の原因となったことが、近年の花粉分析などの研究成果によって明らかにされてきています。
 これら古代文明の事例からも、文明が存続するための一つの条件として、その基盤としての環境に重大な影響を及ぼし環境を損なうに至らしめることなく、文明と環境の間に持続的かつ安定的な関係をつくり上げ維持することが必要であるということが挙げられるでしょう。

花粉量の変動
花粉量の変動
ラノカオ火山湖の堆積物に含まれる花粉量の変動を示した。かつてイースター島には、ヤシなどの森林が広がっていた。しかし1300年前ごろから、ヤシ属など樹木の花粉は減少し、イネ科など草本の花粉が増加してくる。このころから森林が破壊されはじめたらしい。1000年前になると森林破壊が大規模になり、樹木の花粉は姿を消し、草本の花粉が大部分を占めるようになる。(出典:J.R.フレンリーら1991)
(備考)安田喜憲「森林の消滅とともに消え去った文明」Newton 1994年11月号


ギリシャ=スニオン岬 ポセイドン神殿B.C.440年頃大理石
ギリシャ=スニオン岬 ポセイドン神殿B.C.440年頃大理石
床面13.47×31.12m ドーリア式 現存する神殿はB.C.5世紀後半に再建されたもの
周囲は一部の灌木を除き、ほとんど禿山の状態である。

3 現代文明と地球環境問題


現代文明の地球的限界
 西欧近代文明に由来する現代文明は、経済の規模等の拡大を推し進め、大量生産、大量消費、大量廃棄を基調とする社会経済システムや生活様式を広めています。そして、活動の規模を地球上のほぼ全域に持ち、地球上のあらゆる場所から資源を求め、地球全体の環境に影響を及ぼすに至り、資源の面でも環境の面でも地球的規模での限界が見えつつあるところにまで至っています。西欧近代文明は、新たな地に資源と環境を求めることや技術革新により化石燃料を活用することなどによって、西ヨーロッパ文明が行き着いた資源や環境の制約を乗り越えてきました。しかし、既に世界全体に拡大した現代文明は、地球という制約をこれまでのようなやり方で乗り越えることはできなくなっています。

主要地域別人口:1950~2025年
主要地域別人口:1950~2025年
(備考)1.UN,World Population prospects:1992による
    2.厚生省人口統計資料集1994


持続可能な開発の考え方の進展
 限られた資源及び環境の中で持続可能な活動を行っていく必要があるということについては、「持続可能な開発」という言葉を鍵として地球サミット等において国際的な合意となっています。
 問題は、その考え方を具体化し実行していくことです。そのことによって、私たちの文明が、人類共通の生存基盤である有限な地球環境を将来にわたって維持し、環境の恵沢を将来の世代が享受できるようにしていかなければなりません。
 わが国では、環境基本法に基づく環境基本計画が策定され、1)循環を基調とする経済社会システムの実現、2)自然と人間の共生、3)公平な役割分担の下での環境保全に関する行動への参加、4)国際的取組の推進を4つの目標とし、これらを通じて環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会の実現を目指すこととなりました。

今後の展望
 私たちが持つ文明そのものが環境の利用を拡大することによって発展してきたという性格を歴史的に持っているため、このような拡大を前提として形成されてきた経済社会の仕組みを真に持続可能な仕組みに転換していくことは、容易ではありません。
 しかし、我々人類が生存し続け、子孫にも我々の生存基盤たる環境を引き継ごうとするなら、困難であっても、我々は持続的発展が可能な社会の実現に取組まなければなりません。
 このままいけば人口は増大し続け、資源の消費量や環境への負荷量も増え続け、問題はますます解決困難になっていくことでしょう。このような事態を避けるためには、我々はこれ以上の環境への負荷の増大を厳しく抑えて、持続的発展が可能な社会を構築していく必要があります。そして、大量生産、大量消費、大量廃棄型の現代文明を見直し、自然と人間とが共生して、循環を基調とする経済社会システムを持つ持続可能な文明に変えていくことが必要なのです。

イースター島の現況(1992年)
イースター島の現況(1992年)
(写真提供:(株)タダノ)





第2章 アジア・太平洋地域の持続可能な発展


 アジア・太平洋地域は、わが国と地理的・歴史的に密接な関係にあり、今後の急速な経済成長とそれに伴う環境への負荷の一層の増大が予想される地域です。

1 アジア・太平洋地域の環境の現状

 アジア・太平洋地域の特性としては、1)「世界経済の成長センター」と言われる経済の高成長性と歴史・文化・民族などの多様性、2)経済・社会の様々な面での高い域内相互依存性、3)急速な工業化に伴う公害問題、4)都市への人口集中による環境悪化、5)貧困と環境の問題、6)地球規模あるいは地域にまたがるような新たな環境問題、があげられます。

アジア地域の主要都市と人口
アジア地域の主要都市と人口
(備考)国立環境研究所


アジア・太平洋地域各国の環境の現状
 大気汚染では、都市の深刻な交通渋滞のため、自動車排出ガスによる汚染が大きな問題であり、工場による大気汚染も進行しています。酸性雨では、例えば、中国の一部地域でその影響が見られています。温室効果ガスである二酸化炭素の排出量については、近年急激に増大し、西欧の排出量を超えるほどになっています。騒音では、都市の建設工事や自動車などの騒音問題が起こっています。水質汚濁では、都市周辺の河川や湖沼が、処理のされていない生活排水や工業排水で汚染されています。未処理の廃棄物が、都市効外で堆積していたり、河川等へ排出されたりしていますし、産業廃棄物には重金属や有毒な化学物質が含まれていると言われています。森林は、1981年(昭和56年)からの10年間で著しく減少しています。土壌劣化・砂漠化では、アジア地域諸国の土地でその影響が出ています。地下水のくみ上げなどによる地盤沈下は、中国・タイなどの都市で報告されています。森林火災や洪水などの自然災害により、自然や環境への影響が出ています。海洋環境の悪化は、海洋汚染、マングローブや珊瑚礁の破壊、エビの養殖及び爆発物を使った漁法などによって起こっています。野生生物は、開発による生息地の減少や貧困に起因する密猟等により、絶滅の危機に瀕していると言われています。

中国重慶市周辺部の開発と大気汚染の状況
中国重慶市周辺部の開発と大気汚染の状況
(提供:社団法人海外環境協力センター)


市街地の慢性的な交通渋滞(タイ・バンコック)
市街地の慢性的な交通渋滞(タイ・バンコック)
(提供:財団法人日本環境協会)


アジア地域の主要都市における1987~1990年の大気汚染の状況(年間平均濃度)
アジア地域の主要都市における1987~1990年の大気汚染の状況(年間平均濃度)
(備考)World Bank; World Development Report, 1992.


1981~1990年のアジア・太平洋地域諸国の年間森林減少面積
1981~1990年のアジア・太平洋地域諸国の年間森林減少面積
(備考)Forest Resources Assessment 1990, Tropical Countries. FAO(1993).


2 アジア・太平洋地域の21世紀の環境の展望


アジア・太平洋地域における社会経済活動の高まり

(1)人口の増大と都市集中
 1990年現在、約31億人であるアジア・太平洋地域の人口は、国連の中位推計によれば、2025年には49億人に達し、この間の同地域の人口増加数は世界最高であると予測されます。また、人口の都市集中が一層進展し、アジアでは2025年には全人口の約6割が都市居住者になると見込まれます。都市への人口集中は、大気汚染や水質汚濁等の環境問題の一層の深刻化をもたらすとともに、環境悪化の影響を受け易い貧国者数の増加を招くと考えられます。

アジア・太平洋地域の人口の将来予測
アジア・太平洋地域の人口の将来予測
(備考)国連


(2)経済規模の拡大
 世界銀行及び気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、1990年現在、約20兆ドルである世界のGNPが2025年には約55兆ドルに拡大し、その中でアジア・太平洋地域が占める割合は2割強から3割に増加し、南北アメリカと肩を並べる経済圏に成長すると考えられています。

地域別GNPの現況/予測(1990/2025年)
地域別GNPの現況/予測(1990/2025年)
(備考)世界銀行、IPCC


(3)エネルギー消費量の増大
 人口増加と経済成長はエネルギー消費の大幅な増加をもたらすと予測されます。IPCCの推計によれば、現在のエネルギー政策の枠組みが不変とすると、アジア・太平洋地域の2025年の一次エネルギー消費量は1990年の消費量の約3.2倍になり、世界に占める割合も23%から36%に拡大すると考えられます。さらに燃料別で見ると、単位当たりの炭素含有量が高い石炭が最も増加すると見込まれ、二酸化炭素排出量増大の原因となります。

アジア・太平洋地域の一次エネルギー消費量
アジア・太平洋地域の一次エネルギー消費量
(備考)IPCC


アジア・太平洋地域における環境負荷の高まりとその影響
(1)二酸化炭素排出量の増大とその影響
 特段の対策をとらなかった場合、将来の二酸化炭素排出量は、いずれの推計でもアジア・太平洋地域からの排出が最も大きな割合を占めています。
 地球温暖化による影響については、例えば、温暖化による農業生産の変化を国立環境研究所等による「アジア・太平洋地域温暖化対策分析モデル
(AIM)」により推計して見ると、小麦やトウモロコシについては世界的な産地である中国やインドなどで大幅な生産量の減少が見込まれ、世界の食糧供給への影響が心配されます。

地域別二酸化炭素排出量
地域別二酸化炭素排出量
(備考)環境庁作成
    IPCC及びAIMの予測には化石燃料の燃焼以外の排出(セメント生産及び森林減少)を含む


気候変化に伴う2100年のアジア各国の農業生産の変化の推計
気候変化に伴う2100年のアジア各国の農業生産の変化の推計
(備考)―:現在、生産がほとんど行われていない地域
    …:生産がほとんど行われていないが、将来に熱帯性栽培種が生産可能な地域
    AIM(国立環境研究所、名古屋大学)


(2)二酸化硫黄排出量の増大
 地域的な大気汚染及び酸性雨の原因となる二酸化硫黄については、特段の対策をとらなかった場合、アジア・太平洋地域からの排出量は、1990年から2025年の間に3.8倍程度増加する可能性があります。中国における単位面積当たりの排出強度を見ると、2025年には北京等の主要都市における排出強度が軒並み高くなると考えられます。

二酸化硫黄の排出強度(1985年、2025年)
二酸化硫黄の排出強度(1985年、2025年)
(備考)AIM(名古屋大学・松岡譲、国立環境研究研)


(3)熱帯林の減少
 熱帯林の減少には数多くの原因がありますが、これまでの研究からは、人口密度の増加と熱帯林の減少とは、強く関係していることがわかっています。そこで、この点に着目し、将来の熱帯林の減少割合を推計すれば、1990年から2100年の間にアジア地域の熱帯林賦存量は4割強減少するとされます。熱帯林の減少には大規模開発等、人口増加と直接結びつかない要因も大きく作用することから、実際の減少面積は更に広大なものとなると考えられ、その保全が急務です。

予想される熱帯林減少量の地域別比較
予想される熱帯林減少量の地域別比較
(備考)AIM(国立環境研究所、名古屋大学)


3 アジア・太平洋地域の持続可能な発展とわが国の役割


アジア・太平洋地域諸国の取組の状況
 環境問題の原因として、上・下水施設等の未整備や環境技術の不足が指摘されています。各国の法律などの制度や組織は整備されつつありますが、技術、資金及び人材の不足などにより、有効に働いていないことが多いと言われています。環境行政は、一般に、公害対策を中心とした中央政府の管理や規制が行われ、環境行政機関には必ずしも十分な権限が与えられていないとの調査結果もあります。今後、この地域の環境分野の対処能力向上が大きな課題の一つとなると言えます。

わが国のアジア・太平洋地域における環境協力等
 国民がわが国の今後の国際的取組について期待することは多く、わが国の能力を活かした積極的な役割を果たすことが求められています。

開発途上国の環境問題
開発途上国の環境問題
(備考)環境庁、平成5年度環境モニターアンケート


(1)ODAによる支援
 平成5年の二国間ODAの59.5%(約5,400億円)がアジア地域に向けられ、この中で環境分野の援助も実施されています。タイ、インドネシア、中国では、研究・研修などを行う環境センターを設立し、研修員受入れや専門家派遣を行っています。
(2)環境保全に関する取組
 アジア・太平洋環境会議(エコ・アジア)をはじめ、環日本海環境協力会議、ESCAP/北東アジア地域環境協力会議、地球温暖化アジア・太平洋地域セミナー、オゾン層保護セミナー、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク、北西太平洋地域海計画、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク構想、東アジア~オーストラリア地域湿地・水鳥ワークショップ、グリーンエイドプランなどの環境技術協力、が行われています。
(3)地方公共団体、企業等の取組
 アジア・太平洋地域からの多様なニーズの中で、わが国の地方公共団体は様々な環境協力を行っています。その推進のために、環境庁ではアジア地域地方自治体環境イニシアティブ推進事業を行っています。また、企業の環境協力活動として、環境技術移転や熱帯林保護活動などが行われています。さらに、多数の民間団体においても、環境協力に積極的に取り組んでいます。

タイ環境研究・研修センターにおける日本人専門家による技術移転の様子(騒音測定)
タイ環境研究・研修センターにおける日本人専門家による技術移転の様子(騒音測定)
(写真提供:国際協力事業団)


(4)わが国の役割
 アジア・太平洋地域は、持続可能な発展を達成する上で極めて重要な時期にあり、環境問題への取組によって、人類が持続可能な発展ができるかどうかのカギを握っている地域です。
 わが国は、都市における環境問題、産業公害及び地球環境問題など各国の環境問題の多様性を十分認識し、環境協力の必要性を的確にとらえて、各国の技術に対応した協力を行っていくことが重要です。また、持続可能性を確立するため、環境と開発の両立における域内の協調、環境と経済などの政策の統合も必要とされます。このため、わが国は、各国の組織や人材等の適応能力を向上させていくことが必要です。
 環境技術の移転では、各国の産業育成にも役立つことが必要で、わが国企業の地域協力や研究協力も期待されます。地方公共団体では、経験を持つ人々が参画し、姉妹都市などのネットワークを通じた環境協力を進めることも重要です。民間団体でも、ネットワークにより現地とのコミュニケーションを持ち、環境協力を行うことが重要です。
 本年11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会合等では、本格的に環境問題への検討が進められていくこととなっており、その経済政策にも環境配慮が進むことが期待されます。
 以上のように、アジア・太平洋地域の持続可能な発展に向けて一致して取り組むべき課題は多くあります。アジア・太平洋環境会議(エコ・アジア)では、同地域の2025年を見通した長期展望も開始しており、環境協力を推進していく上で、わが国のイニシアティブの発揮が必要であると言えます。




第3章 次世代から見た日本の環境ストック


1 土に見るわが国の環境


土のなりたちとわが国の土壌の特色
 土の生成には地質学的な時間が必要であり、単位面積当たり1年で0.01mmしか生成されないとされます。土は地球が長年にわたる営為の中で生み出してきた貴重な資源です。また、わが国の土壌は、多雨のため酸性になりやすい等の特徴を持っています。

岩石から土へ
岩石から土へ
(備考)「科学の事典 第3版」、岩波書店(1985)


人間活動と土との関わり
(1)土からの豊かな恩恵
 土には、1)我々の生活を支える資源としての側面、2)水質浄化・保水等のはたらきを持つという側面、3)多様な生態系を形成し、分解・浄化作用を有する側面、そして4)それ自身の性質を安定に保つはたらきを持つ側面があり、我々は、土から様々な恩恵を受けています。
(2)土への負荷
1)沖縄をはじめとする南西諸島では、1972年頃から別荘地、レジャー施設等の建設に伴い、赤土が急速に侵食、流出し、社会問題化しました。
 大規模都市開発等の地形改変により生じた年間総移動土量は、自然条件での平均的削剥速度の数十~百数十倍に相当すると言われます。
2)産業活動等による土壌汚染の特徴としては、一定の浄化機能を超えて有害物質が負荷されるとこれらが蓄積され、汚染状態が長期に持続し、汚染の影響は一般的に局所的で多様な態様をもって現れる等が挙げられます。
3)熱帯での森林の伐採や非伝統的な焼畑耕作、乾燥地での家畜の過放牧などに起因して世界的に土壌侵食が懸念されています。

エネルギーや物質の流れと土
エネルギーや物質の流れと土
(備考)前田正男、松尾嘉郎「土壌の基礎知識」


(3)都市化・国際化と土
1)アンケート調査によると、小学生では授業において土に触れる機会が比較的多く、土に親しんでいる一方、中高生になると土にふれる機会が減少し、土そのものへの関心も減少しています。現代生活においては、土とのふれあいが少なくなる傾向にあります。
2)小麦、大麦、トウモロコシ等の8品目に関して、平成4年に世界全体で約1030万haの土地が対日輸出のために利用されています。これはわが国の総耕作地面積の概ね2.3倍、国土全体の約27%に相当します。小麦に係る対日輸出用土地面積は、四国よりも広い面積です。

豊かな土を守り受け継ぐ社会へ
(1)各種の努力
1)土壌・地下水の汚染に対しては、汚染の防止だけでなく、過去に汚染したものの浄化対策を実施することが重要です。一般に汚染の浄化には長期的な対策の継続が必要です。
2)島根県石見町では、チップ工場の樹皮・バークを活用し、土作り(堆肥作り)を進めています。作物に良好な効果が出ており、米の上位等級比率は9割を越え、県下一であるとされます。

土中に生息する動物
土中に生息する動物
同一縮尺ではない。a:有殻アメーバ、b:アメーバ、c:コウガイビル、d:ウズムシ、e:センチュウ、f:クマムシ、g:ヒルガタワムシ、h:クガビル、i:タワラガイ、j:ミミズ、k:カニムシ、l:クモ、m~o:ダニ、p:ヨコエビ、q:ヤスデ、r:ジムカデ、s:ナガコムシ、t:ワラジムシ、u:トビムシ、v:アリヅカムシ、w:アリ、x:モグラ、y:双翅類幼虫、z:コガネムシ幼虫。(青木淳一氏による)
(備考)都留信也「土のある惑星」


対日輸出のために利用された土地面積
対日輸出のために利用された土地面積

対日輸出のために利用された土地面積(主要3品)
小麦      1,969,868ha
とうもろこし  2,527,000ha
大豆      2,233,983ha
---------------------------
四国     約1,879,600ha

(備考)環境庁試算



3)沖縄県では赤土流出対策として、赤土等流出防止条例の制定、民間企業による土壌流出防止に資する土壌流出防止材の開発、マングローブの研究実験等が進められています。
4)土とのふれあいを求める声の高まりに応えるべく、市民農園を開設する等の動きが見られます。東京都の例では、これらは506箇所、752,000平方メートルに及んでいます(平成5年3月現在)。
5)スイスでは、自然保護に関して、20項目のガイドラインの中で土地の被覆の回避を掲げ、「建築物、インフラ整備、道路などによってさらに土地が被覆されることが、大きな環境問題となりつつある。それは、土壌が本来持っている構造を破壊する。建築計画は可能な限り土地の被覆を回避すべきである。」としています。

(2)土とともに
 土の生成には極めて長い時間を必要とするが、その破壊は、驚くほど短い時間で進行すること、また、土壌はいったん汚染されると回復がなかなか難しいといった特徴を持っています。
 地球上の生物が生存し続けるために、良好な土壌環境は必要不可欠であり、多くの人の理解と協力を得て、積極的に土壌環境の保全に取り組むことが必要です。
 日々の生活の中で、ややもすると忘れられがちな土について目を向け、我々一人ひとりが土を大切にする努力を傾けていくことができるなら、我々は土と共に生きていくことができるのです。

2 平地自然地域、里地自然地域に見るわが国の自然環境


平地、里地の自然の特徴と状況
 環境基本計画では、わが国の国土空間を山地、里地及び平地の各自然地域と沿岸海域の4つに類型化しています。里地自然地域には二次的自然が多く、私たちのふるさとの原型として想起されることも多い地域です。平地自然地域の特徴は高密度な人間活動が行われていることです。これら両地域ではわが国の人口の99%が生活しており、その自然は人々との日常的な関わりが深いものです。
 平地、里地の自然は急速に私たちのまわりから失われています。山林と対比される平地林を見ると、関東地方の一都六県において、1960~90年の間に、19.7%と大幅に減少しており、減少面積の合計は東京23区を上回る(696平方キロメートルに及んでいます。また、森林がこま切れになり孤立化する森林の断片化が進み、生息地面積の減少、他の生息地との連絡の遮断、外部空間との接触の増大等を通じ、その生態系に影響を及ぼしています。身近な生き物の姿も見られなくなってきており、例えば、東京都板橋区では、カブトムシは昭和50年代を最後に、現在では全く見られなくなってしまいました。さらに、開発から免れている雑木林についても、廃棄物の不法投棄が進むなどその荒廃が進んでいます。地方の農村等では、高齢化や過疎化が進み、農地や自然の管理主体が失われ、持続的な保全・管理が困難な状況にあります。

関東地方における山林、平地林の減少率
関東地方における山林、平地林の減少率
(備考)世界農林業センサスに基づき環境庁算出


埼玉県所沢の二次林の残存状況 空中写真で見た埼玉県所沢の二次林の残存状況(4×4km)
埼玉県所沢の二次林の残存状況 空中写真で見た埼玉県所沢の二次林の残存状況(4×4km)
(備考)飯田・中静未発表資料


東京都板橋区におけるカブトムシの分布図
東京都板橋区におけるカブトムシの分布図
(備考)東京都板橋区かんきょう観察員197名の思い出の生き物アンケートから


人の営みの中で維持されてきた平地、里地の自然
 里山の雑木林は、放っておけば植生遷移が進み、極相林に変化していきます。雑木林がそこに住む生き物ともども維持されてきたのは、人が毎年一定量の薪炭材等を収穫する形で自然の恵みを受けつつ、それが里山の手入れの役割を果たしてきたことによります。阿蘇等における草原も野焼き、放牧といった人の営みがあってはじめて発達し、維持されてきたものです。これらの自然では、人と自然との間に持続的な共生関係が育まれ、人間活動もその輪の中に組み込んだ生態系循環が成り立っていました。
 ところが、社会経済情勢の変化により、里山や草原を維持していくことが経済的に見合わなくなり、人間活動との関わりが途絶えてしまった結果、それらの減少や改変が進んでいるのです。

関東を含む西日本の低地における植生の遷移
関東を含む西日本の低地における植生の遷移
(備考)石川実「里山の生態学」、「里山の自然を守る」所収


自然とのふれあいを求める意識の高まり
 世論調査によると自然に関心がある者の割合が昭和61年から平成3年の間に約6%上昇して84.5%となるなど、余暇時間の増大等を背景に自然とのふれあいを求める意識が高まっています。

自然の保護と利用に関する世論調査結果
自然の保護と利用に関する世論調査結果
(備考)昭和61年度調査までは「自然保護に関する世論調査」となっている。


平地、里地の自然との共生に向けた新たな取組
 一方で平地、里地の自然の減少と荒廃が進み、他方で自然とのふれあいを求める意識が高まる中で、この両者が適切に結びつくことにより、現代における人と自然との新たな共生が形づくられていく可能性はないのでしょうか。
 英国では、英国環境保全ボランティアトラスト(BTCV)という団体が森林保全等の自然の維持管理のための「保全合宿」を実施し、一般市民が気軽に自然保護活動に携わり、自然保護活動に興味のある人々と維持管理が必要な自然とを結びつける機会を提供しています。
 国内では、里山の保全活動として「トトロのふるさと基金」運動などが展開されているほか、横浜市等では、市民ボランティアの参加の下に、維持管理を含めて楽しみながら雑木林の現代的な活用が図られています。また、有機農産物の産地直送等を通じた都市と農村の交流の中で地域の自然が維持されている事例や、阿蘇の「グリーンストック運動」や山形県朝日町の「エコミュージアム」など、自然と人が共生した地域づくりに向けた試みも見られるようになっています。
 これらの事例からは、地域住民が地域外の住民をも巻き込みつつ、自然の価値を現代の生活や経済に活かす努力を主体的に行い、必要に応じて、行政や地元企業がその活動に参加していくことが、そのような取組の成功の鍵であると考えられます。

阿蘇の草原景観
阿蘇の草原景観
写真提供:熊本県阿蘇町

3 地球温暖化の環境影響


地球温暖化をもたらす環境負荷の増大
 全世界の二酸化炭素排出量(燃料燃焼及びセメント生産に伴うもの)は1991年時点で約62億tC(炭素換算トン)と推定され、1950年から約4倍に増えています。さらに、土地利用の変化により年間約9億tCが排出されており、この結果、地球全体では毎年、約32億tCが大気中に蓄積されていると推計されます。今後の排出量を1990年レベルに抑えたとしても21世紀末には大気中の二酸化炭素濃度は500ppmに達し、その後も増え続けると考えられることから、いずれ世界全体で温室効果ガス排出量を減らしていく必要があります。

世界の二酸化炭素排出量の推移
世界の二酸化炭素排出量の推移
(備考)CDIAC:Carbon Dioxide Information Analysis Centerオークリッジ国立研究所二酸化炭素情報解析センター推計値より作成


各部門別二酸化炭素排出量の動向
各部門別二酸化炭素排出量の動向
(備考)環境庁作成


 わが国の1992年度の二酸化炭素排出総量は3億3千万tCであり、総排出量の伸びは鈍化傾向にあるものの、各部門毎では、私たちの日常生活と深く関わる民生、運輸部門が大きく伸びています。

地球温暖化がわが国に及ぼす環境影響
 地球温暖化によってわが国にも深刻な影響が生じることが予測されています。
(1)水文・水資源への影響
 わが国全体では10%程度の降水量の増加が見込まれる一方、蒸発散量の増加、渇水の頻度の増加が考えられます。また、植物プランクトンの増殖等により、貯水池や湖沼等の閉鎖性水域における水質の悪化が懸念されます。
(2)農業への影響
 現行の品種・作期の下で、水稲への影響を見た場合、山形県を除く東北各県でプラスとなる他は、すべての県でマイナスの影響を受けるとの予測があります。品種改良等を行えば、北海道などでもマイナスの影響をプラスに転じることが可能と考えられますが、西南日本では、大幅な収量低下は避けられず、一部では耐暑性品種への転換が必要となる可能性もあります。気温の上昇により、雑草や病害虫の活動の活発化も考えられます。

現行の品種・作期における県別稲作単収に及ぼす気候変化の影響
現行の品種・作期における県別稲作単収に及ぼす気候変化の影響
(備考)環境庁「地球温暖化のわが国への影響報告書」


(3)生態系への影響
 比較的寒冷な地域に分布するブナ林については現在と将来の分布域のギャップで消滅してしまうことが予測されます。また、分布範囲の限られた植生や野生生物は気候変動下でも移動することができずに死滅してしまう可能性があります。

環境及び気候変動時のブナとシイ/カシの地理的分布ポテンシャル
環境及び気候変動時のブナとシイ/カシの地理的分布ポテンシャル
(備考)環境庁「地球温暖化のわが国への影響報告書」


(4)沿岸域への影響
 わが国の沿岸域には、多くの人口と資産が集中しており、温暖化に伴い水位が上昇すれば、大きな影響が予想されます。また、砂浜の浸食が考えられ、全国集計では30cmの海面上昇で、現存する砂浜の56.6%、さらに1mの海面上昇では90.3%の砂浜が消失すると推測されます。

設定水位ごとの海面上昇の影響
設定水位ごとの海面上昇の影響
(備考)環境庁「地球温暖化のわが国への影響報告書」


地球温暖化対策の効果の将来見通し
 このような地球温暖化の影響に対して、現在の取組は十分なのでしょうか。
 わが国については、今後、見込んでいる施策を十分に実施した場合、2000年時点で一人当たりの二酸化炭素排出量は概ね安定化が可能とされる一方、総排出量では若干増加するとされ、「地球温暖化防止行動計画」の目標の一つである総排出量安定化の達成に向け一層の努力が必要です。他の主要先進国については、予定している対策をとった場合、2000年時点で二酸化炭素排出総量が1990年レベルを下回るか同水準の国は6か国となっており、残りの国は1990年レベルを越えてしまうとされ、追加的措置が検討されています。
 このような状況の下、地球温暖化を防止し、恵み豊かな環境を将来にわたり引き継いでいくためには、先進国、途上国を問わずすべての国が可能な限り協力して対策を進めていくことが不可欠です。そのためには、まず、わが国を始めとする先進国が主導的役割を果たしていかねばなりません。わが国は、このような背景の下、「環境基本計画」で、地球温暖化対策に積極的に取り組む決意を新たにしました。また、国際的には、1995年春に開催された気候変動枠組条約の第1回締約国会議で、明確な規定のなかった2000年以降の取組の検討開始が決定されています。


2000年における各国の二酸化炭素排出量の見通し等
2000年における各国の二酸化炭素排出量の見通し等
(備考)気候変動枠組条約統合報告書及び各国の国別報告書等に基づき作成。





第4章 持続可能な未来につなぐ効果の高い環境対策の展開


1 環境対策の効果を高める視点


環境対策の効果を高める七つの視点

環境被害を未然に防止すること
 被害の未然防止の視点は、回復が困難な場合も多い環境問題への対策としては、極めて重要な視点です。
 また、生産プロセスを変えるという未然防止的対応の方が、排出口での対策よりも費用的にも効果が高いことが内外の事例からも示されつつあります。

環境対策を他の対策と統合すること
 例えば、交通渋滞対策と自動車排出ガス低減対策という対策を考えてみると、その始めの段階から、両者の観点を視野に入れて対策を検討していくことが効果的です。環境基本計画はこのような政策結合アプローチの基礎となるものです。

市場メカニズムを適切に活用すること
 生産物等の価値に環境に対する外部性を適正に反映させることで、環境の観点から適正な価格付けをし、これにより、経済社会の構造を環境への負荷の少ないものとしていくことができます。また、こうしたことを通じて、市場性を獲得する分野も生じてくると考えられます。

より根本的な原因にまで目を配って対策を行うこと
 環境問題の対策を検討する際には、顕在化した現象面や一次的な汚染原因だけにとらわれずに、社会経済の構造的な要因まで考慮していくことが必要です。根源となる原因を考慮し、政策として制度的な改善を加えることによって、各主体の環境保全活動もより有効に、すなわち効果をより高めていくことができます。

環境の構成要素を総合的に捉えること
 物質レベルでは、複数媒体への放出媒体間の移行等により、それぞれの媒体を通じた暴露が生じることを考えると、今後複数の媒体での対策を講じることでより有効性が高まることが予想されます。また、発生源対策、地理的なアプローチをとる際にも総合的な視点が必要とされます。

情報を適切に活用すること
 現在、経済社会を巡って情報化が急速に進展していますが、そのインフラ整備や活用段階で環境にどのような影響を及ぼすのかは、プラスマイナスの両面があります。情報化社会の構築は、できるだけ環境への負荷を低減する方向でうまく進めることができれば、効果の高い手法となるでしょう。

関係者の連携・参加のしくみを適切に形成すること
 適切な役割分担の下に、国も含め各人がそれぞれ主体的な努力を進めることで、より効果的な環境保全を進めることができます。近年、国際的な連携を含め各主体の自発的積極的な取組みが多く見受けられます。



2 環境と貿易


環境と貿易を巡る議論
(1)貿易が環境に与える影響
 一般的に貿易は、世界的に効率的に生産を進める上で大きな役割を果たし、このような貿易の性格は環境保全にも寄与するとされています。ところが、現実には貿易は、環境に対してプラスの影響もマイナスの影響も及ぼします。有害廃棄物や野生生物、熱帯材などが環境上適正な取り扱いがなされずに取引される場合にはマイナスの影響が生じます。一方、環境保全型の技術や製品の取引はそれらの普及にプラスになります。また、貿易拡大に伴う所得の増加は環境保全のためにも重要とされる一方、貿易の拡大は環境資源の使用を地球大に拡大し、大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会活動を促進させるとの見方があります。

タイにおける養殖池開発によるマングローブ林の消滅量
タイにおける養殖池開発によるマングローブ林の消滅量
(備考)環境庁作成


(2)環境と貿易の基本的関係
 このように貿易が、環境に対してプラスの影響のみならず、マイナスの影響をもたらし、それを助長する場合があるのは、天然資源の利用、環境汚染防止等の環境コストが製品やサービスの市場価格に適切に反映されないままに取引が行われ、不適切な環境利用が促進されるからです。したがって、国際的、国内的に適切な環境政策の実施により、環境コストの内部化を積極的に進めていくことが本質的に重要です。しかし、環境コストの内部化を目指した政策は、自由貿易に対する障害としてとらえられる場合があり、環境政策と貿易政策の調整を通じ、いかに環境と貿易の間に、お互いにプラスとなるような相互支持的な関係を築いていくかが課題となっているのです。

環境と貿易の相互支持化に向けて
 持続可能な開発に向けて環境と貿易を相互支持的なものとするため、1)貿易措置を含む多国間環境協定と貿易ルールの関係、2)環境基準等とその調和、3)生産工程及び生産方法(PPM)規制と貿易、4)貿易に影響を及ぼしうる環境保全措置(環境ラベリング制度や経済的手法等)などが国際的に議論されています。環境政策が貿易に与える影響に留意しつつ、環境保全の観点を適切に貿易ルールに位置づけ、必要な環境政策を実施するための基盤を整えていくことが重要です。1992年12月に成立した北米自由貿易協定(NAFTA)では、このような論点のいくつかについて、GATT/WTOルールより環境面から踏み込んだ規定を置いています。
 他方、貿易に携わる各主体が適切な環境対策を実施することにより、環境問題が貿易上の問題となることを未然に防止していくことが重要です。このため、環境政策を十分に行う余裕のない開発途上国に対する環境協力の強化、企業や市民による取組の一層の促進、地球環境問題に対処するための多国間協力の枠組み形成等に積極的に取り組んでいく必要があります。
 わが国のマテリアル・バランスを見ても明らかなように、海外の資源や環境に多くを依存するわが国にとって、環境と貿易の問題は具体的な意味を持つ重要な問題であり、主体的な取組が求められています。

わが国のマテリアル・バランス(物質収支)
わが国のマテリアル・バランス(物質収支)

3 環境と市場


環境政策と市場メカニズム
(1)経済的負担措置に関する理論的考察
 税・課徴金等の経済的負担を課す措置を用いて製品・サービスの取引価格に環境コストを適切に反映させることで、環境の観点から市場メカニズムの活用を図ることが可能になるものと考えられます。経済的手法は、一般的には費用の低いところから順次対策がとられることになり、一律に削減を強いるような規制的手法に比べ、同じ削減量がより低い費用で達成されます。




(2)経済的負担を課す措置による環境保全効果
 経済的手法の活用によって環境保全効果が明確に現れた例が多数報告されています。下図のように副次的に大気汚染が改善されたとする例もあります。

都市部の交通円滑化のための乗り入れ許可制度による自動車交通量の変化(シンガポール市)
都市部の交通円滑化のための乗り入れ許可制度による自動車交通量の変化(シンガポール市)

(3)海外における経済的手法の活用状況
1)OECD諸国
 デンマーク、オランダ、スウェーデン、ノールウェーでは、税制全体の改正の中で環境税を活用しています。デンマークでは、課税対象を労働所得から環境に悪影響を与える消費や製品へ移行すべき旨の提案もされています。他方、オーストリア、ドイツ、ベルギー及びフランスのように小規模で環境税を活用している国々もあります。
2)アジア諸国
 税・課徴金、デポジット・リファンド制度については、台湾、韓国等で例が見られます。取引可能許認可については、シンガポールの例(CFC)が見られます。
3)東欧諸国
 東欧諸国においても、経済的負担を課す措置は様々に活用されています。

東欧諸国における経済的負担措置の活用例
東欧諸国における経済的負担措置の活用例
(備考)国連資料 なお、( )は導入予定


エコビジネス(環境関連産業)の動向
 平成6年度の環境庁調査によると、公害防止装置及び廃棄物関係等を事業化している企業が多く、燃料電池、C02関連技術及び低公害車等の開発をしている企業も見られます。また、エコビジネスへの新規参入及び研究・開発の予定では、総件数640件(84事業中81事業)となっており、今後さらに活発化していくと考えられます。エコビジネスを通じ、産業界をはじめ、国、地方公共団体及び消費者など各主体の環境保全に向けた取組が積極的に進められることが期待されます。

エコビジネスの事業化・開発及び今後の参入等の予定の状況
エコビジネスの事業化・開発及び今後の参入等の予定の状況
(備考)環境庁


4 環境と情報


情報化の進展と環境
 情報化の一層の進展は、環境への負荷を削減する可能性を有し、環境情報の適切な活用は環境対策の一層の効率化に資すると考えられます。しかし、ここ10年間の業務部門電力消費量は一貫して増え続けており(うち約半分は情報関連分野)、エネルギー消費等を通じた環境への負荷は増加し続けています。情報化は、より積極的に環境負荷低減の視点を踏まえて進めていく必要があります。

環境情報の整備と活用
(1)環境政策の効果を高めるための環境情報の活用
 環境に関する広範囲の情報が広く一般に提供され、市民による情報収集や活用が容易になれば、自発的な環境保全活動の促進、ライフスタイルの改善、行政への提言の活発化などよりよい環境づくりに有形無形の貢献をすることが期待されます。

(2)環境に関する情報の収集・普及の現状
1)国際機関の取組
 地球環境問題に関する情報は、世界各国の政府から市民まで効果的に活用できるよう提供される必要があります。国際的枠組みでの環境モニタリング(観測)体制の整備や環境情報データベース、世界各国の機関が有する環境情報を容易に入手するための「情報源のデータベース」が必要です。
2)わが国の取組
 環境庁では、情報提供や環境施策の推進に必要な情報基盤の強化に着手しています。国民、NGO、地方公共団体等に対し、環境の状況や行政の取組に関する情報等をパソコン通信やFAX通信を用いて提供する「環境情報提供システム」を開発しパソコン通信については、平成7年度から運用を開始しようとしている他、CD-ROM等の電子メディア、マンガ等様々な媒体を用い環境白書中の情報等の普及を進めています。
3)地方公共団体の取組
 地方公共団体は、自然環境や生活環境などの地域環境に関わる情報を詳細に把握し、これを環境政策に適切に反映させていくことが求められます。環境保全施策をより効果的に展開するため、地域環境に関する情報の住民への積極的な提供に努めることが重要です。

主要な情報化アプリケーションと環境への影響・効果
主要な情報化アプリケーションと環境への影響・効果
(備考)「21世紀の知的社会への改革に向けて(郵政省:平成6年)」「情報通信と環境問題に関する研究会(郵政省:平成7年)」「地球白書1994-95」などを参考に作成。


4)民間の取組
 総合的かつ効果的な環境保全対策を進めていくためには、行政による取組に加え、民間レベルでの情報交換も重要で、積極的な取組が増えています。企業においても環境に関する情報の提供・普及に取組む動きが見られます。

(3)今後の課題
 地球環境問題と情報に関する今後の課題としては、1)統一的基準に基づく観測・測定と情報の流通の促進、2)地球環境モニタリングの強化、3)途上国への支援(環境モニタリング体制の整備)が挙げられます。また、地域環境問題と情報については、1)環境情報システムの構築促進、2)環境情報の双方向流通の促進が挙げられます。

5 地方公共団体、消費者、産業界等の新たな取組とその連携


 近年、国、地方公共団体、事業者、国民の様々な行動と協力が広がりつつあり、各主体がそれぞれの立場に応じた公平な役割分担の下で、互いに協力・連携し、自主的積極的に行動することが、環境対策の効果を高める上できわめて重要です。

地方公共団体における取組
 地方公共団体では、地域環境の総合的な保全を図るため、環境基本条例、地域の環境計画及びローカルアジェンダ21などが策定されつつあります。また、事業者・消費者として環境保全行動を率先して実行したり、海外の地方公共団体と連携して、環境協力を積極的に展開したりしています。

消費者、民間団体における取組
 私たちが参加している環境保全活動には、自然観察、身近な川の水質や酸性雨の調査、音環境にふれる活動、リサイクル、里山や水辺環境の保全、開発途上国でのNGOやボランティア活動への参加、環境関連のネットワークづくりなどが見られます。一方、私たち消費者が環境に配慮した買い物の選択を行うことにより、商品やそれを製造・販売する企業に影響を及ぼしうるグリーンコンシューマー活動も各地で展開されつつあります。

サウンドマップの記入例
サウンドマップの記入例

産業界、事業者における取組
 企業の環境管理・環境監査では、環境への負荷を低減する手段として、一層普及促進される必要があります。LCA手法も、環境への負荷の低減に資する製品等への積極的な活用が望まれます。さらに、産業界では、製造業や建設業等でそれぞれの取組が行われており、環境報告書等による公表も、一部の企業に見られます。

環境保全のための各主体間の協力・連携
 リサイクルやごみ減量化などを進めているオフィス等の登録・認定制度が地方公共団体で始められています。また、住民・企業・行政のパートナーシップによる地域環境保全等を行うグラウンドワーク活動も始まりつつあります。さらに、包装廃棄物のリサイクルでは、環境基本計画において、廃棄物の減量化を図り環境への負荷を低減するため、新しいシステムの導入を検討し、必要な措置を講ずることとしています。

産業界の環境管理システムへの取組状況
産業界の環境管理システムへの取組状況
(備考)環境庁
    回答企業の割合は、調査回答企業906社に対する割合。なお、アンケートの設問関係により、1)は環境問題担当組織を設置及び平成6年度に設置予定の企業533社、2)は複数回答を含む983社に対する割合。


流通・サービス、運輸・通信、金融・保険業の取組
流通・サービス、運輸・通信、金融・保険業の取組
(備考)環境庁


6 持続可能な未来につなぐ環境基本計画


持続可能な未来の構築と環境基本計画の意義
 人類の生存基盤である環境を後の世代に適切に引き継ぎ、持続的発展が可能な社会を構築していくためには、あらゆる関連の対策を計画的、総合的に推進していくことにより、対策の効果を高めることが必要です。環境基本計画は、環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等について定めたものであり、このような観点から見て極めて重要な意義を有するものです。

環境基本計画と効果の高い対策の推進
 環境基本計画は、環境基本法に基づき昨年12月16日に閣議決定された、わが国初の国レベルの包括的な環境計画です。これにより、行政のすべての分野にわたって環境保全の考え方を織り込み、環境負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築することを目指しています。
 計画においては、「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」の4つを長期的な目標として定めています。 この計画では文明のあり方にまで遡って現代の社会経済活動や生活様式を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていくという根本的なところから長期的な目標を定めており、社会経済全体の問題として環境問題をとらえ、社会の各主体の参加や、グローバルパートナーシップの重要性を強調しています。
 これらの目標に沿って、各種の課題や対策が掲げられており、課題相互の関連や施策相互の連携に配慮しつつ、関係するあらゆる主体と協力し、総合的に施策の展開を図ることとしています。

持続可能な未来に向けて
 環境基本計画に基づき、必要な対策を総合的かつ計画的に講じ、早期に高い環境保全効果を獲得することによって、地球環境が損なわれるおそれが現実のものとなる前に、持続的発展が可能な社会を構築していかなければなりません。そのことを通じて、私たちの生活を、人類共有の生存基盤である有限な地球環境を省みない、物質的豊かさのみを追求するものから、地球環境の大きな恵みに支えられ、真の豊かさを高めるものに変えていくことができるのです。







第5章 環境の現状


 今日の環境問題は、一部の地域の特定の事業が原因の公害や自然破壊が中心であった状況から、日常生活や通常の経済活動によって地球全体にまで及ぶ環境問題が重要性を増している状況に移りつつあるといえます。

窒素酸化物などによる大気汚染
 一酸化窒素・二酸化窒素などの窒素酸化物(NOx)は、石油や石炭などの燃焼に伴って発生し、酸性雨などの原因となるだけでなく、二酸化窒素は呼吸器にも影響を与えることが知られています。二酸化窒素については、環境基準(人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい基準)を設け、対策の目標としていますが、大都市地域を中心に達成状況は低い水準で推移しています。そのため、発生源である工場や自動車に対して規制を設け対策に努めています。

二酸化窒素年平均値の推移(継続測定局平均)
二酸化窒素年平均値の推移(継続測定局平均)
(備考)環境庁


 浮遊粒子状物質は、太気中に浮遊する粒子状の物質のうち大きさが10μm以下のものをいいますが、微小なため大気中に長時間留まり呼吸器に影響を及ぼします。この浮遊粒子状物質の中で、特に注目されているディーゼル排気微粒子については、発ガン性や気管支喘息・花粉症との関連性が疑われているため、研究・調査とともに種々の対策が行われています。酸性雨などの原因となる二酸化硫黄による汚染は、国内ではかなり改善が進んでいるものの、途上国では依然として大きな問題となっています。そのほか、光化学スモッグなどの原因となる光化学オキシダントを抑制するため、自動車などに対し一次汚染物質である炭化水素、NOxについて排出規制を行っています。また、健康影響が懸念されているトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンについては「大気環境指針」を定めています。

地球の温暖化
 地球温暖化問題とは、大気や地表の温度を生物が住みやすい状態に保っている二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの濃度が増加し、地球上の平均気温の上昇などの影響が生じる問題のことです。二酸化炭素は、排出量が膨大であることから地球温暖化への寄与度はたいへん高く、現在でも排出量は増え続けています。岩手県での観測によると、平成6年度の年平均濃度は361.6ppmでした。このような温室効果ガスの増加により、何も対策をとらなかった場合、海水の熱膨張による海面水位の上昇は、21世紀末までには約65cmになるとの報告がなされています。こうした地球温暖化問題に対して、国内では「地球温暖化防止行動計画」に基づいた取組がなされています。

マウナロア山(赤線)、南極点(青線)及び綾里(緑線)における二酸化炭素濃度の変化
マウナロア山(赤線)、南極点(青線)及び綾里(緑線)における二酸化炭素濃度の変化
(備考)気象庁


オゾン層の破壊
 地上から15km~30kmのところにあるオゾン層がクロロフルオロカーボンなどによって破壊されると、オゾン層に吸収されていた有害な紫外線の地上へ届く量が増加し、皮膚がんなどの健康や生物の成長に悪影響が生じます。南極では、1970年代末から毎年春にオゾンが少なくなる「オゾンホール」と呼ばれる現象が起きており、1989年(平成元年)から1994年(平成6年)にかけては、6年連続で最大規模のオゾンホールが観測されました。わが国では岩手県、南極昭和基地などでCFC濃度の監視・観測を行うとともに、CFCの生産規制の強化や、回収の促進方策などの検討を進めています。

オゾン全量分布図
オゾン全量分布図

酸性雨
 酸性雨は、硫黄酸化物や窒素酸化物などが大気中で硫酸や硝酸に変化し、これを取り込んで生じる雨のことで、湖沼や河川、森林、文化財などへの影響が心配されています。わが国においても欧米並の酸性雨が観測されていますが、生態系への影響の明確な兆候は、現在のところありません。酸性雨は国を越えた広域的な現象であるため、効果的な対策の実施には、国際的な協調が必要です。特に、東アジア地域の経済発展に伴う大気汚染物質排出量の増大を考えた場合、この地域の酸性雨が将来深刻な環境問題となるおそれが大きいため、東アジア酸性雨モニタリングネットワークなどを通じた一層の国際協力が必要となっています。

酸性雨の状況(第2次酸性雨対策調査)
酸性雨の状況(第2次酸性雨対策調査)
(備考)環境庁


騒音・振動・悪臭
 騒音に対する苦情件数は、公害苦情件数の中で最も多くなっています。特に、自動車交通騒音は、依然として厳しい状況にあり、道路構造対策などの総合的な対策の推進が図られています。振動についての苦情件数は、全体的に減少傾向にあります。また悪臭については、サービス業、畜産農業などを発生源とする都市・生活型の悪臭の割合が増加する傾向にあり、総合的な悪臭防止対策を推進しています。

継続測定地点における環境基準達成状況の推移
継続測定地点における環境基準達成状況の推移
(備考)環境庁


海・川・湖などの水質の汚濁
 わが国では、重金属や有害化学物質を原因として水俣病やイタイイタイ病のような公害病が発生しました。このような公害を克服するために行われた排水規制などの結果、現在では重金属や有害物質による水質の汚濁は着実に改善されています。また、水域の生活環境は、有機性汚濁により大きな影響を受けていることから、代表的な有機性汚濁の指標であるBOD(河川)及びCOD(湖沼・海域)などの項目について、環境基準の達成率の評価を行っています。河川の達成率は着実な改善傾向が見られますが、湖沼は、依然として低い水準で推移しています。海域については、河川や湖沼と比較すると高い達成率を維持しています。
 湖沼などでは、汚濁物質が蓄積しやすいため水質の改善や維持が難しく、また、都市内河川は、生活系排水の増加によって河川への負荷が大きくなっているため、下水道をはじめとする生活排水対策などが行われています。

環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移(水域別)
環境基準(BOD又はCOD)達成率の推移(水域別)
(備考)環境庁


 地下水は、貴重な水資源ですが、昭和50年代後半より、トリクロロエチレンを始めとする有機塩素系化合物等による地下水汚染が現れはじめたため、水質改善を図るための対策を行っています。また、人々の生活や社会経済活動との関わりの深い河川や海域などにおいては、埋立等により、水辺の生き物の生息環境が損なわれるなど、良好な水辺環境が失われつつあります。

海洋の汚染
 海洋は、陸上の汚染物質が水の働きにより移動し、最終的に行き着く場所となることが多く、広大ではあるものの汚染が世界的に確認されています。また、タンカーなどから流れ出た原油による汚染は、自然生態系に大きな影響を与えるため、条約等による国際的な取組がなされています。

土壌汚染など
 土壌は、生物の活動が深く関与して生成されるもので、環境の重要な構成要素です。農用地の土壌については、近年、新たな汚染の発見はありませんが、汚染検出面積は7,140haに達し、随時対策が進められています。市街地の土壌については、全国で汚染が顕在化するケースが増加しています。また、地盤沈下は、関東平野北部などで沈下が著しい地域が依然としてあります。

平成5年度の全国の地盤沈下の状況
平成5年度の全国の地盤沈下の状況
(備考)環境庁


廃棄物の増加
 平成3年度のごみ排出量は、年間5,077万トン(東京ドーム約136杯分)、前年度比0.6%増となっており、最終処分場の確保が問題となっています。また、全国の産業廃棄物の総排出量は約3億9,800万トンで、2年度と比べて約1%増であり、増加率は鈍っています。これは、平成3年頃からの景気後退が原因であると考えられます。


産業廃棄物の総排出量の推移
産業廃棄物の総排出量の推移
(備考)厚生省


 有害廃棄物は、規制の緩い国や、処理費用の安い国へと移動し、移動先の国で問題を起こすことがあるため、国際的な枠組みの下で、有害廃棄物の発生量や輸出入量の最小化及び国際協力の推進に努めています。

自然生態系の現状
 日本は、自然植生や植林地などなんらかの植生(緑)で覆われている地域が全国土の92.7%あり、そのうち森林は国土の67.5%を占め、森林の割合は世界的に見ても高い状況にあります。しかし、市街地などでは、まとまった緑のない地域が広がり、自然性の高い緑は限られた地域にしか残されていないのが現状です。自然植生の分布を見ると、6割近くが北海道に集中し、他に東北及び中部の山岳部や日本海側と沖縄に多く分布しています。一方、近畿・中国・九州では自然植生の分布が非常に少なく、山地の上部、半島部、離島などに点在しているにすぎません。
 世界の陸地の約3割は森林で占められていますが、非伝統的な焼畑耕作などにより熱帯地域では森林が急激に減少しています。森林は多くの生物に生息地を提供するのみならず、二酸化炭素の吸収などの重要な役割を持っており、国際機関や二国間での協力による対策が進められています。

自然海岸の減少
 自然の状態を保った海岸は、生物の生産及び生息の場として重要であるばかりでなく、優れた風景を構成し、レクリエーションの場としても古くから利用されてきましたが、都市化や産業の発展に伴い、海岸線の人工的な改変が進められてきました。日本の海岸線は総延長32,817kmのうち区分比を見ると、自然海岸は55.2%と約半数を占めていますが、減少傾向にあり、本土部分だけを見ると44.7%となっています。

植生区分別の分布状況(地方)
植生区分別の分布状況(地方)
(備考)第3回自然環境保全基礎調査植生調査


海岸汀線区分の割合
海岸汀線区分の割合
(備考)環境庁第4回自然環境保全基礎調査 海岸調査
 1.短径100m以上の島を含む全国の海岸線を対象。(ただし、北方領土を含まない)
 2.本土とは、北海道、本州、四国及び九州をいう。
 3.海岸の区分は以下による。
   自然海岸:海岸(汀線)に工作物が存在しない海岸
   半自然海岸:海岸(汀線)に工作物が存在するが、潮間帯(満潮時の海岸線と干潮時の海岸線の間)は自然の状態を保持している海岸
   人工海岸:潮間帯に工作物が設置されている海岸


土壌の劣化、砂漠化
 土壌の劣化とは、土壌中の養分の流出、塩類の集積などにより、植物などが育ちにくくなる現象を指します。また、砂漠化とは、乾燥地域における気候的要因や人為的要因による土壌の劣化・流出、植生の消失などの現象を指します。UNEPによると、世界の陸地の25%が砂漠化の影響を受けていると推測され、特にアジアとアフリカで深刻になっており、条約策定などの国際的な協力によって様々な取組が進められています。

野生生物種の減少
 人類は野生生物種を生活の糧として、また、道具の素材などとして利用し、共存を続けてきました。しかし、こうした活動が時には乱獲につながり、また、人間の経済・社会活動が生息地を破壊するなど、野生生物種は減少や絶滅への圧力を受け続けています。わが国の絶滅のおそれのある種については、順次、国内希少野生動植物種として指定し、保護等の対策を講ずることとしています。現在、動物種では、「絶滅種」22種、「絶滅危惧種」110種が確認されており、植物種に関しては、絶滅寸前の種として147種、絶滅の危険のある種として677種が存在するとの報告があります。

国内希少野生動植物種「トキ」
国内希少野生動植物種「トキ」
(写真提供:新潟県)


自然とのふれあい
 近年、都市の身近な自然の減少や国民の環境に対する意識の向上などに伴い、人と環境との絆を深める自然とのふれあいへのニーズが高まっています。自然公園全体の利用者数を見ると昭和50年代は概ね横ばいでしたが、60年代以降徐々に増加し、平成5年では9億5,564万人となりました。現在の自然公園の面積は、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園の面積を合計すると、国土面積の14%になります。また、自然環境の保全活動の拠点整備を行っています。

自然環境保全活動拠点整備事業イメージ図
自然環境保全活動拠点整備事業イメージ図

その他の環境の現状
 都市では、大量のエネルギー消費に加え、地面の大部分がアスファルトなどに覆われているため、水分の蒸発による温度の低下がなく、夜間気温が下がらないというヒートアイランドと呼ばれる現象が起きています。また、ネオンや街灯の光、必要以上の照明などによって夜間星がよく見えなくなる人工光害が最近注目されています。そのほか、電磁波による健康への影響や、スギ花粉症の発症メカニズム等について研究が行われています。

環境保全に関する行動への参加
 平成5年2月の総理府による「環境保全に関する世論調査」では、「日常生活は地球環境に影響を与えている」と9割の人が認識しており、今日の環境問題の原因について正確に把握していることがわかります。また、毎日の暮らしの中で行っている環境保全のための工夫や努力については、6割強の人が「てんぷら油や食べかすを排水口から流さない」と回答しました。

阪神・淡路大震災による環境への影響
 被災各地においては、建物の倒壊により膨大な量のガレキなどが発生することとなり、兵庫県をはじめとするその他の市町において処理計画が策定されています。また、復旧のための建物の解体・撤去に伴うアスベストの飛散などによる健康影響が懸念されています。環境庁の調査によると、直ちに健康への影響が問題となるような値ではないが、近年の都市部の測定値よりやや高いレベルとなっています。今後は、復興段階において環境保全に配慮しつつ、災害に強く、環境にやさしいまちづくりをしていくことが求められています。

災害廃棄物の処理処分の流れ
災害廃棄物の処理処分の流れ
(備考)神戸市平成7年3月31日現在(推定)


モニタリング緊急調査
モニタリング緊急調査
(備考)環境庁


環境保全のためどのような工夫や努力を行っているか
環境保全のためどのような工夫や努力を行っているか
*1 てんぷら油や食べかすを排水口から流さない。*2 古紙、牛乳パック、空き缶などのリサイクル、分別収集に協力する。*3 日常生活の中で節電や節水に努めたり、省エネルギー型の製品を使用する。*4 買い物の時にポリ袋やビニール袋などをもらわない。
(備考)総理府「環境保全に関する世論調査」

むすび

 近代から現代にかけてこの数世紀の間に、爆発的な人口の増加と経済発展を遂げてきた人類社会は、有史以来初めて、地球的規模での資源や環境の限界が見えつつあるとの共通認識を抱くに至りました。私たちは、自らの社会のありかたを改めて自らに問い直すことを迫られているのです。
 環境との関係で現在の人間の活動を見ると、人間は他の生物とは異なった特殊な存在となってきていることがわかります。一方で、古代文明についての考察からは、文明と環境とが深いかかわりを持ってきたことを学ぶことができます。
 ひるがえって現代文明を見ると、環境への負荷の増大を自ら抑制するような社会経済的な仕組みがこれまで充分に組み込まれていたとは言えません。
 比喩的に言えば、人類が作り上げてきた現代文明は、自然界での約束事である生存・発展の基本的ルールを十分に理解せず、結果として基本的ルールに沿わないまま、これまでゲームを続けてきたようなものだといえましょう。その結果、地球環境という人類存続の基盤を損い、ゲームの続行に支障を及ぼすおそれが生じているのです。そのため、今からでもルールに沿わない活動を改める必要があります。
 わが国は平成5年に環境基本法を制定し、翌平成6年にこれに基づく環境基本計画を策定しました。環境基本計画では、「循環を基調とする経済社会システムの実現」「自然と人間との共生の確保」、「環境保全に関する行動に参加する社会の実現」、「国際的取組の推進」が4つの長期的目標として掲げられました。
 これらの長期的目標は、いわば自然界の基本的ルールに沿った形で人類が持続可能な発展をしていくための道筋を示したものといってもよいでしょう。その道は必ずしも容易な道ではありませんが、私たち一人ひとりが環境の大切さを深く自覚し、持続可能な経済社会とそのシステム作りに向け、知恵と創造性を発揮することができれば、これまでの文明とは質的に違う豊かで美しい地球文明を築いていくことが可能となるに違いありません。



この絵は、アニメーション映画「となりのトトロ」の背景画の1枚です。男鹿和雄さんが描きました。