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第1節 

3 開発途上国の公害問題

 熱帯林の減少、砂漠化、希少な野生生物の減少等の地球的規模の環境問題は、熱帯地方を中心とした開発途上国において主に問題化しているが、開発途上国のなかでも工業化や人口の増大・都市集中が進んでいる地域では、大気汚染や水質汚濁等の公害問題が顕在化している。開発途上国では、一般的に汚染物質等の監視・モニタリング体制がいまだ整備されていないところが多いため、公害の現状を十分に把握することが困難であるが、国連機関の調査等をもとにその状況を概観する。
 まず、大気汚染の状況をみる。
 UNEP/世界保健機構(WHO)のモニタリング・ネットワークによって1975年以降モニタリングしている都市のうち主な都市の二酸化硫黄の濃度をみると(第3-1-12表)、開発途上国の都市では、先進工業国の都市と同程度の濃度、あるいはそれ以上となっているところが多く、また、先進工業国の都市の濃度が概ね改善の傾向にあるのに対し、開発途上国の都市の濃度は悪化の傾向にある都市が多いことがわかる。
 次に、水質汚濁の状況をみる。
 UNEPの「世界の環境の状況」(1987年)によると、開発途上国の水質の状況は、例えばインドにおいては表流水の約70%が汚染されており、中国では水質測定している78河川のうち54河川が未処理の生活廃水や工場廃水によって著しく汚染されているとされている。また、WHOの調査によると、1983年現在、開発途上国において都市人口の26%、都市地域以外の人口の61%が通常の方法で安全な飲み水を得ることができず、また、都市人口の47%、都市地域以外の人口の86%は生活廃水の処理がなされていないとされている。
 UNEP/WHOの調査により1980年の東南アジアの主要都市から海域への汚濁負荷の排出をみると、これらの地域からだけでも64万4,000t/年のBOD汚濁負荷量が南シナ海に排出されている(第3-1-13図)。また、同じくUNEP/WHOの調査によるジャカルタ湾、シャム湾上部の重金属の濃度をみると第3-1-14表のとおりである。
 一方、UNEP/WHOの調査による母乳中のDDTやHCH(BHC)等の殺虫剤・農薬の濃度をみると(第3-1-15表)、一般的に開発途上国の地域において高いことがわかる。
 このように、開発途上国の公害問題は、その状況が十分把握されているわけではないが、問題の分野や地域によっては先進国よりも深刻な状況にあるといえよう。

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