2 閉鎖性水域の水質保全対策
(1) 総量規制の実施
広域的な閉鎖性海域の水質改善を図るためには、その海域に流入する汚濁負荷量の総量を効果的に削減することが肝要である。
このため、53年の「水質汚濁防止法」等の改正により水質総量規制を制度化し、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海について59年度を目標年度とした化学的酸素要求量(COD)に係る総量規制を実施してきた。
これまでの水質総量規制の実施状況等をみると、CODの発生負荷量は三海域とも着実に減少しているものの、環境濃度の状況を見ると、いまだ改善は十分ではなく、今後とも汚濁負荷量を削減していく必要がある。
このため、61年10月の中央公害対策審議会答申「水質の総量規制に係る総量規制基準の設定方法の改定について」を踏まえ、62年1月に内閣総理大臣が64年度を目標年度とする新たな総量削減基本方針を策定し、これに基づき関係都府県において新たな総量削減計画の策定作業が進められている。
今後、新たな総量削減計画が策定され、これに基づき削減目標量の達成のため下水道の整備、一定規模以上の工場及び事業場からの排水についての総量規制基準の適用等の汚濁負荷量削減対策が実施されることとなる(第1-8-2図)。
(2) 富栄養化対策
富栄養化は、元来、流域からの窒素、燐等の栄養塩類の供給により湖沼が徐々に肥沃化される現象を指すものであったが、近年、人口、産業の集中等により、湖沼に加えて内湾等の海域においても窒素、燐等の栄養塩類の流入が増大し、藻類その他の水生生物が増殖繁茂することに伴い、その水質が累進的に悪化する現象がみられるところがあり、水質保全上問題となっている。
このため、湖沼においては透明度の低下や水色の変化による美観の劣化のほか、水道におけるろ過障害や異臭味問題、水産における魚介類のへい死等種々の障害が生じている。また、海域においては赤潮による漁業被害等が問題となっている。
このような富栄養化に伴う障害の発生にかんがみ、次のような施策が講じられている。
富栄養化対策を実施するに当たっては、その要因物質に関する環境上の目標を明らかにすることが必要である。このため、湖沼について、富栄養化の要因物質である窒素及び燐に係る環境基準を57年に告示し、国及び都道府県において類型指定のための検討が行われており、61年度までに琵琶湖(2水域)等合計36水域について類型指定が行われた。また、海域における富栄養化防止に係る水質目標については、環境庁において検討を行っている。
湖沼の富栄養化の防止については、湖沼に係る窒素・燐の一般排水基準を定め、60年7月から燐については1,022湖沼、窒素については45湖沼を対象として排水規制を実施しているほか、窒素の排水基準適用故障を指定するための調査等を行った。
瀬戸内海の富栄養化による被害の発生を防止するため、関係府県は、「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づき燐及びその化合物に係る削減指導を行ってきている。
伊勢湾、東京湾については、富栄養化対策連絡会において関係都県等と情報交換、連絡調整等を行った結果を踏まえ、関係都県等で57年から富栄養化防止対策を行っている。
赤潮対策として、瀬戸内海において多発している赤潮プランクトンを対象としてその発生機構等を明らかにするための解析調査等を行った。
(3) 湖沼の環境保全対策
湖沼は閉鎖性の水域であり、汚濁物質が蓄積しやすいため、河川や海域に比して環境基準の達成状況が悪い。また、富栄養化に伴い、各種の利水障害が生じている。このような湖沼の水質汚濁の要因は、湖沼の集水域で営まれる諸産業の事業活動から人々の日常生活に至るまで多岐にわたっており、その水質保全のためには、従来からの「水質汚濁防止法」による規制のみでは十分でないこと等にかんがみ、59年に「湖沼水質保全特別措置法」が成立し、60年3月から施行されている。この法律は、湖沼の水質保全を図るため、水質環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、当該湖沼につき湖沼水質保全計画を策定し、下水道整備等の水質保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置、更には湖辺の自然環境の保護等の対策を総合的・計画的に推進しようとするものである。
同法に基づき、61年10月には諏訪湖について指定湖沼の指定が行われるとともに、諏訪湖を加えた6指定湖沼(第1-8-3表)につき関係府県において湖沼水質保全計画の策定作業が進められた。このうち児島湖については62年1月に、霞ヶ浦、印旛沼、手賀沼及び琵琶湖については62年3月に内閣総理大臣の同意を得て湖沼水質保全計画が定められた。