1 新たな環境汚染の可能性への対応
産業活動の高度化、消費の多様化等に伴い、今後とも、化学物質の使用が拡大していくことや、廃棄物の性状が変化していくことが考えられる。また、近年、トリクロロエチレン等による地下水汚染や、水銀等による市街地の土壌汚染など従来注目されていなかった環境媒体での汚染が顕在化している。さらに、酸性雨やダイオキシンによる汚染など、発生機構が複雑な環境汚染が注目されている。
このような新たな環境汚染の可能性について、汚染を生じさせないため、的確に対応していくことが重要となっている。ここでは、この中から化学物質と先端技術の問題を取り上げてみていくこととする。
(1) 化学物質対策
化学物質対策については「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき新規化学物質に関して事前審査制度を設けるとともに、難分解性、蓄積性、慢性毒性等の性状を有する化学物質を特定化学物質に指定し、製造、輸入、使用等の規制を行っている。昭和61年度においては、白アリ駆除剤として使用されているクロルデン類が新たに特定化学物質に指定された。なお、化学物質の安全性確保対策の一層の充実が求められている現状にかんがみ、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の一部を改正する法律」が61年5月7日に公布され、62年4月1日から施行された。その内容は、化学物質の安全性の評価に関する国際的動向に対処し、また、蓄積性はないものの難分解性及び慢性毒性等があるため使用等の状況によっては、環境汚染を通じて人の健康に係る被害を生ずるおそれがある化学物質に対処するため、事前審査制度の充実及び事後管理制度の導入を図ったものである。また、既存化学物質についても、通商産業省において分解性及び蓄積性について、厚生省において慢性毒性等について、また環境庁において環境安全性について環境調査等を行い点検を進めている。
このようにこれらの化学物質の分解性、蓄積性等の環境中での挙動に関する知見の集積が図られているが、なお未解明の部分が残されており、さらにこのような安全性の点検を積極的に展開していく必要がある。
また、化学物質の中には、環境中の濃度が極めて低い場合でも、環境に対し影響を与える可能性があることを指摘されているものもある。さらに、ある種の化学物質が環境中で検出された場合でも、化学物質は環境媒体間で移動・転換することなどのため、それだけでは特定の汚染源に結びつけることが困難な場合も少なくない。
このような観点から、環境汚染の防止を図るためには、今後とも、化学物質の製造、使用、流通、廃棄等の過程で生じる汚染の可能性及びその影響に関する知見の集積やモニタリング等による汚染実態の把握などに努める必要がある。
なお、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」に基づき62年4月6日から、船舶によりばら積みの液体貨物として輸送される化学物質について、その有害性の程度に応じ船舶からの排出の規制が行われることとなった。
(2) 先端技術についての環境保全対策
近年、エレクトロニクス、バイオテクノロジー、新素材等の先端技術の進展がみられる。これらの先端技術を用いた産業は、概して知識集約型、高付加価値型の産業であり、高度成長期において問題とされてきた硫黄酸化物等の汚染物質による公害問題を発生させる可能性は小さいと考えられる。また、環境保全分野においてもその積極的な活用が期待されている。
しかしながら、先端技術の進展は化学物質の利用拡大と使用形態の変化をもたらすとともに、廃棄物の性状を変化させる可能性があるので、今後、新たな環境問題を発生させることのないよう十分に留意していく必要がある。このため、新たな技術の開発利用に際しては、生産、流通、使用、廃棄の各段階を通じた環境影響を評価し、事前に十分な措置をとることが重要である。また、先端技術については、その技術の変還が早いこと等から、対策を講ずるに当たっては、技術情報や産業の状況を把握することが重要である。このような観点から、環境庁では60年度に「IC産業環境保全関連資料」を、61年度には「ガリウムひ素系半導体環境保全資料」を作成した。また、61年度においては環境庁、厚生省、通商産業省及び労働省が共同でIC産業における化学物質の使用、排出、廃棄物処理などに係る実態等の調査を行った。
また、バイオテクノロジーについても、今後、開放系で組換えDNA技術等を用いるに当たっては、人の健康に与える影響はもとより生態系に与える影響も含め、環境保全の観点から十分な配慮が必要である。