前のページ 次のページ

第2節 

4 身近な自然の改変

 第1節でもふれたように、わが国では高度成長期以降、緑地や自然海岸が急速に失われ、野生生物の生息域も変化してきている。
(1) 緑地の減少
 樹林地等の身近な緑地は、潤いややすらぎを与えてくれるとともに、自然と人間のかかわりを理解する上でも重要なものである。しかしながら、わが国では、高度成長の過程で、産業化と都市化が進んだことにより緑地が急速に失われており、50年代に入って減少の規模は小さくなったものの、市街地の外延的拡大等に伴い、引き続き、農地や樹林地などが失われている。
 緑地の改変状況を農林水産省の調査により田、畑、果樹園などの耕地と森林、原野の面積でみてみると、40年から50年にかけて大都市圏で9.1%が失われており、地方圏(3.0%)の3倍の減少率となっている。特に、耕地については2割を超える減少率となっており、地方圏の5倍に達している。この時期は、神奈川県、大阪府、東京都、愛知県など大都市圏の中心部での減少が大きいことがと特徴的である。
 50年から60年にかけては大都市圏では2.2%、地方圏では0.3%の減少となっている。全国的に減少率は低下したものの、埼玉県、茨城県など大都市圏の周辺県で比較的減少率が高くなっている。
 この結果、60年における緑地の総面積に占める割合は、大都市圏が69%(40年78%)、地方圏は82%(同85%)となっている。また、1人当たり緑地面積をみると、大都市圏は地方圏の8分の1となっている。
 次に、大都市圏における緑地の分布状況を東京圏及びその周辺についてみてみよう。都心から20km圏は緑の少ない居住地域、20〜40km圏は水田、畑、小規模の緑地を主体とした居住地域との混在地域、40〜80km圏は里山及び森林を主体とする地域となっており、居住地と身近な自然の距離が遠くなる傾向がみられる。さらに、47年から60年にかけての緑被率の変化を見ると、20〜40km圏における減少率が最も大きくなっている(第2-2-9図)。この地域は、農地や雑木林、屋敷林などの二次的自然が残されており、小動物が生息しこれらとの貴重なふれあいの場ともなっている多摩丘陵・武蔵野台地などがある地域である。
 このように、近年、緑地の減少率は鈍化してきているものの、大都市圏周辺を中心に身近な緑地が依然失われつつある。このため、自然とのふれあいの場としての緑地の保全を図るとともに、都市公園の整備や植樹等の緑化の推進により、緑を通じて潤いとやすらぎの得られる空間を形成していくことが重要である。


(2) 海辺の改変
 わが国の海岸は、大都市圏の内湾がほとんど人工海岸化していることに加え、近年は地方の海域においても自然海岸の消失が進むなど依然として改変が進んでいる。
 海岸の改変要因の最大のものである埋立ての推移を港湾区域についてみると、49年の4,050haをピークに減少してきており、近年は年間1,000ha前後から1,500haの間で推移している。30年代から40年代にかけての埋立ての大半は工場用地を確保するためであったが、50年代に入ると工場用地の割合は5割弱となっており、現在造成中の埋立地についてみると3割程度に低下している。工場用地に代わって造成のウェイトが増えているのは、都市機能用地、道路用地、港湾施設用地、公園緑地などの多様な都市活動のために必要とされる用地であり、この傾向は大都市圏の内湾において顕著となっている。
 一方、海辺に対する国民の意識について総理府が61年2月に行った「海辺ニーズに関する世論調査」でみると、海辺を残された貴重な自然としてとらえ、その保全を求めるとともに、海辺とのふれあいを求める国民のニーズの高まりを示している(第2-2-10図)。
 東京湾を例にとって海辺とのふれあいの変化をみてみよう(第2-2-11図)。東京湾では戦後、とりわけ30年代半ば以降に急速に埋立てが進み、遠浅の海岸や自然の干潟が失われるとともに、海水浴や釣り、潮干狩り等の場も失われていった。20年代半ばには、東京湾と横浜港を除く全域で海水浴が可能であり、また、東京湾においても潮干狩りができたが、現在海水浴のできる自然海岸は三浦半島に残されるだけとなり、自然の干潟で潮干狩りができるのは木更津周辺だけとなっている。しかしながら、40年代半ば以降、東京湾においても水辺とのふれあいを回復しようとする動きが活発化してきている。葛西沖での人工なぎさの造成、お台場海浜公園や大井野鳥公園の整備など、釣りや小規模の潮干狩りを楽しめ、人工の干潟に野鳥が集まる公園が作られるとともに、稲毛、幕張地区では養浜事業が行われ、海水浴や潮干狩りに利用されている。
 我が国において、内湾は漁業、海上交通、レクリエーション等の場として高度な利用がなされており、さらに近年は大都市圏における自然との貴重なふれあい空間として、また、多様なレクリエーション空間としての要請が高まってきている。こうした状況を踏まえ、残された自然性の高い海岸の確保や自然性の回復を図るとともに、多様なふれあいニーズに資するようより望ましいレベルに水質を改善していくことが重要である。

前のページ 次のページ