我が国は豊かな自然に恵まれているが、一方では国土の限られた面積の中で高密度の経済社会活動が営まれている。このため、環境問題が発生しやすく国土利用構造の変化と環境問題は密接なかかわりを有している。
昭和30年代半ば以降の経済の急速な発展で、我が国の国土利用構造は大きく変化した。すなわち、農村地域から大都市地域へ大量の人口が移動し、産業立地も大都市地域及びその周辺部に集中的に行われた。さらには、モータリゼーションの進展、市街地の拡大もみられた。高度成長期に我が国は深刻な公害と自然破壊を経験したが、その背景にはこうした国土利用構造の変化があると考えられる。
その後、48年の第一次石油危機を契機に、経済は安定成長へ移行し、省資源・省エネルギーが進展したが、国土利用構造の面でも人口集中の沈静化と産業の地方分散がみられた。こうした変化は、環境政策の進展、企業の公害防止努力等ともあいまって、かつての深刻な産業公害の沈静化に資するものであった。しかしながら、この時期には都市化やモータリゼーションが更に進展し、都市・生活型公害が次第にクローズアップされるとともに、身近な自然、都市環境の質の向上に目が向けられるようになった。
こうした都市型の環境問題と国土利用構造とのかかわりをみると、人口や産業が集中している大都市地域においては道路交通公害問題や廃棄物問題が深刻な環境問題となっている。また、都市化の進展、都市的生活様式の普及に伴い、移動発生源に加え、群小発生源による大気汚染のウェイトも高まってきているほか、水質汚濁については生活型の負荷が増大し、汚濁範囲の地域的な広がりがみられる。さらに、高度成長期以降の国土利用構造の急速な変化に伴い、自然海岸、緑地等の良好な自然が失われてきたことへの反省から、水や緑とのふれあいを回復しようとする動きが出てきている。
ひるがえって、近年における国土利用構造をみると、これまでとは異なる特色がみられる。まず、情報化、国際化の進展等に伴い、東京圏を始めとする大都市圏への人口、高次都市機能の集中傾向がみられ、都市機能の更新のための都市再開発の動きも活発化してきている。また、地域間、国際間の交流を促進するため、高速交通体系の整備への要請が高まっている。産業立地についても、先端産業の急速な発展に伴って、内陸型かつ臨高速道路・臨空港型に変化している。さらに、農地、森林等の管理主体が弱体化している地域がみられる一方で、自由時間の増大等を背景に長期滞在ができるようなリゾート型のレクリエーションのための地域開発を進める動きがみられる。
こうした国土利用構造の変化は、環境への適切な配慮を欠いた場合には、大都市圏を中心に改善の遅れている交通公害等の環境問題の解決を一層困難にする可能性や、新たな環境問題を発生させるおそれがある。このため、今後、環境保全に配慮した国土利用構造の形成が一層重要な課題となってくると考えられる。また、生活の質の向上、精神的な豊かさを環境に求めようとする要請に対応して、より質の高い快適な国土環境を形成していくこともますます重要となってこよう。
以上のような状況を踏まえ、第2章162/sb1.2>では、国土利用構造の変化と環境問題とのかかわりについて述べることとする。