1 地域の特性をいかした環境保全の推進
(1) 快適な環境づくり
ア 快適環境づくりの重要性
豊かな緑や清らかな水辺、美しい町並や歴史的な雰囲気などといった快適な環境(アメニティ)は、私達の生活に潤いとやすらぎをもたらす。国民の生活環境に対するニーズが高度化している今日では、公害の防止や自然環境の保全にとどまらず、このような快適な環境を積極的に創造していくことがますます重要となってきている。
環境の快適性を高めるための快適環境づくりの施策としては、環境を構成する自然、施設、歴史などの要素に着目して分類すると、?緑や水といった快適な環境に親しむための施設の整備、?身の回りにある樹林地や水辺などの良好な自然の保全、?道路や街並の景観など快適な都市・生活空間の創出、?日常生活において、環境に配慮した生活・行動ルールを確保するための施策、?環境の質を高める歴史的・文化的事物の保存などの様々なものが考えられる。快適環境づくりは、行政、住民、企業等が役割を分担しつつ、これらの施策をそれぞれの地域の自然的、経済社会的、文化的、歴史的特性に応じて選択し、実施していくことが肝要である。
イ 快適環境づくりの諸施策
上記のような快適環境へのニーズに対応し、先駆的な地方公共団体においては、これまで市民の積極的な参画の下に、創意と工夫を凝らした各種の快適環境づくりの施策が展開されてきた。また、国においても、各地の取組が、望ましい快適環境づくりの方向に沿って円滑に進められるよう、所要の施策が講じられてきている。
例えば、建設省においては、社会資本の整備と併せて地域住民に憩いと潤いの場を提供するため、都市公園事業、下水道事業、道路・街路事業、河川環境整備事業等を推進しているほか、良好な都市景観の創造を目的として各種事業を総合的に推進する「都市景観形成モデル事業」等の施策を実施している。さらに、国土庁においては、地域特性をいかした魅力ある地方都市を整備するため「水緑都市モデル地区整備事業」及び「花と緑の都市モデル地区整備事業」を実施しているほか、自治省においても、地域の創意に基づいた個性的で魅力あるまちづくりを推進するための「まちづくり特別対策事業」を実施するなど、各省庁において、地域の快適環境づくりに対する支援が行われている。
環境庁においても、市民と一体になった快適環境づくりを総合的に推進していくための一つの枠組として、昭和59年度より、「快適環境整備事業」を実施している。61年度までの3年間において、全国の都道府県・政令指定都市にそれぞれ1か所程度の市町村を対象として、アメニティ・タウン計画策定への補助を行うこととしており、既に指定を受けた40市町村においては、地域固有の環境素材をいかしながら、行政、住民、企業等の創意工夫を結集して、それぞれ個性的な「アメニティ・タウン計画」が策定されている。
例えば、秋田県湯沢市では「雪の郷、お城山、緑に映える街づくり」を理念として、全国有数の豪雪地帯という厳しい自然条件を逆に利用し、湯沢城址を中心とする雪国アメニティを追求している。また、山口県下関市では、「海と歴史と緑と出会う国際都市」を理念として、下関市の代表的な構成要素である海、歴史、緑に注目して、これらの要素を結び合う快適なネットワークづくりと国際感覚豊かなコミュニティづくりをめざしている。
また、快適な環境を目指す地域の活動を支援し、補完していく観点から、環境庁では55年度以来、地方公共団体及び(財)日本環境協会と共催で、快適環境シンポジウムを開催してきた。このシンポジウムは、地方公共団体職員を中心に、学職経験者や住民団体の代表も交えて、毎回全国各地の事例を紹介し、幅広く経験や意見の交流を行い、地域における快適環境づくりの定着を図っている。60年度においては、「アメニティ・タウンの実現めざして」をテーマとする第6回シンポジウムが横浜市において開催され、59年度指定の20市町村において策定されたアメニティ・タウン計画の発表と活発な議論が行われた。
このように、快適環境づくりは全国の各地域で定着しつつあるが、なお、いくつかの課題を抱えている。今後は、快適性の向上に十分配慮した社会資本の整備を進めていくことに加え、市民参加を基盤とした快適環境づくりを推進するため、市民自身が都市における環境のあり方を考え、その保全・創造を自主的に進めていくための条件を整備していくことが必要であろう。
(2) 環境の健全な利用
ア 地域ごとの環境特性の体系的把握と環境の健全な利用
地域を損なわない形で、地域の総合的な発展を図っていくためには、環境の健全な利用という考え方が重要である。これは、地域ごとの環境の特性を体系的に把握した上で、水や土地などの環境資源を計画的に保全し、かつ適正に活用することによって、環境と調和のとれた人間活動を実現していくことである。
その第一歩は、地域の自然環境や各種の環境質の現状等を科学的に調査し、客観的なデータを体系的に整備することである。このようなデータが整備されれば、これに基づいて地域の環境の利用可能性や、環境を利用するに際して配慮することが望ましい事項等が地域に即して具体的に検討され、また、人口動態や土地利用の状況をも含めて総合的に検討されることにより、当該地域の環境利用がより適正に進められることが期待される。
さらに、地域の環境の特性を地図等の形で視覚的に分りやすく示すことによって、地域環境の現状や環境基準等の保全目標についてより深い理解が進められよう。
このような施策は、予見的な政策へと展開しつつある環境政策の基盤となるものであり、国及び地方公共団体の各々において、相互に連携協力を取りながら、その充実を図っていく必要がある。
イ 環境利用ガイドの作成
国においては、国家的見地から適正な環境利用を図る必要性の高い地域や、特に保全を図る必要性の高い自然環境が存する地域等に重点を置いて、体系的に環境情報の整備を図る必要性があることから、59年度より「環境利用ガイド事業」を推進している。
この事業は、大気、水質等の環境質の状況、地形、気象、生物分布等自然環境の状況などの環境項目についての情報を広く体系的に収集・整備し、これに基づき、地域ごとの環境の特性を指標や地図の形で表示し、また、特に保全が必要な環境資源や、環境利用に際し配慮することが望ましい事項を具体的に示そうとするものである。
環境を利用する各種の計画の立案に際し、このような環境情報が効果的に利用されれば、環境保全への適切な配慮が払われ、地域の健全な発展に資することが期待される。
(3) 地域環境管理計画
地方公共団体においては、環境保全のための各種施設を有機的に結合し、総合的かつ計画的な環境政策の推進を図ることを目的として、地域環境管理計画の策定が進められている。
地域環境管理は、長期的視点に立って行政機関のみならず事業者、地域住民等の広範な参画を得て地域環境の適正な保全、利用及び創造を図ろうとするものであり、地域環境管理計画の策定及びこれに基づく施策の実施は、そのための重要な手段の一つと位置付けることができる。
計画策定のためには、まず地域の自然的社会的条件等に関する各種の調査結果を踏まえ、長期的な展望に基づき行政主体が地域環境の望ましいあり方を明確に打ち出すことが重要である。また、地域社会の環境に対するニーズの高度化、多様化やエネルギー及び財政上の制約等をも考慮しながら、望ましい地域環境の実現に向けて環境資源の利用に当たって配慮が望まれる事項等を明らかにするとともに、関連する各部門の行政機関、事業者、地域住民等が協同して各種の方策を計画的に実施していくことが重要である。
都道府県、政令指定都市においては既に21団体で地域環境管理計画が策定され、一部市を含め他の多くの都道府県においても検討が行われている。
最近策定された計画には、個別の環境質に着目したもの(鹿児島県、富山県、山形県)もあるが、環境汚染の未然防止や快適環境づくり等をも含めた総合的な環境政策を計画的に推進することをその目的とするもの(大阪府、神奈川県、三重県)が増えてきている。これは、環境情報システムを体系的に整備するとともに、将来ビジョンを提示し各種施策を体系化することにより、快適な環境づくりや土地利用等の分野にも積極的に取り組む必要があることが認識されはじめたからであると考えられる。
また、現在、計画策定を検討している団体においても、このような認識が定着しつつあることがうかがわれる。これらの団体の多くは、地域の総合計画や地域社会の意向調査等に基づき地域の環境の将来ビジョンを明らかにし、長期的、総合的な目標を示し各種施策を体系づけ、更に、環境保全に関する住民意識の向上等を図ることとしている。
このような地方公共団体の取組を更に発展させていくため、引き続き地方公共団体に対し各種情報の提供を行い、計画策定の機運の醸成、地方公共団体間の調整等の課題に取り組む必要がある。