1 未然防止の推進
(1) 環境影響評価
悲惨な公害や自然環境の破壊を繰り返さないため、また、環境問題の根本的な解決のためには、一度起こった公害を除去するばかりでなく、公害が発生しないように環境汚染を未然に防止していくことが極めて重要である。
環境影響評価、いわゆる環境アセスメントは環境汚染を未然に防止するための有力な手段の一つである。すなわち、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施に際し、その環境影響について事前に十分に調査、予測及び評価を行うとともに、その結果を公表して、地域住民等の意見を聴き、十分な公害防止等の対策を講じようとするものであり、その必要性については広く認識が定着している。
国際的に見ても、アメリカ、スウェーデン、オーストラリア、西ドイツ、フランスなどの欧米諸国のほか、韓国、タイ、フィリピン、中国等アジア諸国においても、それぞれの国情に応じ、環境影響評価の実施又は制度の確立をみている。また、経済協力開発機構(OECD)においては昭和49年及び54年に環境影響評価の手続、手法等の確立についての理事会勧告が採択され、さらに、60年6月には、開発援助における環境アセスメントについての理事会勧告が採択された。
我が国においては、47年6月の閣議了解「各種公共事業に係る環境保全対策について」以来公有水面埋立法等の個別法や各省庁の行政指導により環境影響評価が行われてきた。また、地方公共団体においては、26の都道府県・政令指定都市において環境影響評価に係る条例・要綱等が制定され、残りのいくつかの都道府県・政令指定都市においても制度化の検討が進められている。
これらの環境影響評価は、その手続きなどがそれぞれ異なっており、また、評価手順等が十分整備されていないものもあり、制度として統一的な手続き等の確立を図る必要がある。
このため、政府は環境庁を中心として法制化について検討、調整を進めてきたが、関係者間の合意を得られなかった。
そこで、政府において、56年4月国会に提出された環境影響評価法案(58年11月衆議院解散に伴い廃案)の要綱をベースとして実効ある行政措置を早急に講ずることとし、59年8月28日「環境影響評価の実施について」の閣議決定が行われた。
本閣議決定においては、国の関与する大規模な事業に係る環境影響評価の統一ルールとして「環境影響評価実施要綱」が定められている。この実施要綱において、対象事業は、規模が大きく、環境に著しい影響を及ぼすおそれのあるもので、国が実施し、又は免許等で関与するものとして、道路、ダム、鉄道、飛行場、埋立、干拓、及び土地区画整理事業などの面的な開発事業等が定められている。事業者が行う手続の概要は、次のとおりである。
? 事業者は、対象事業の実施による影響について主務大臣が環境庁長官に協議して定める指針にしたがって事前に調査、予測、評価し、環境影響評価準備書を作成する。
? 事業者は準備書を公告・縦覧し、説明会を開催する。
? 事業者は、関係地域に住所を有する者の準備書についての意見の把握に努める。事業者は、都道府県知事に対し、市町村長の意見を聴いた上で、意見を述べるように求める。
? 事業者は、これらの意見を聴いて、環境影響評価書を作成し、評価書を公告・縦覧する。
このような環境影響評価の結果を国の行政に反映させるために行政庁は対象事業の免許等に際し、評価書をもとに環境影響に配慮し、また、その際、必要に応じ環境庁長官の意見が反映されるよう考慮されている。
この実施要綱に基づく環境影響評価は、国の行政機関(対象事業を所管する省庁=主務省庁)が事業者に対する指導等の行政措置を講ずることによって実施されるものである。
本閣議決定の施工のための準備作業は環境庁を始めとして関係省庁で連携を図りつつ、第3-2-1図のとおり進められている。60年度においては、主務大臣が環境庁長官に協議して対象事業ごとに具体的な規模等が定められた。また、その規模を含め事業者に対し、実施要綱に基づく環境影響評価の実施を指導していくための基本的な通達がすべての主務省庁で行われた。これに基づく手続等の細目事項については、一部の省庁で通達により定められた。これらの通達の施行は(一部施行済みのものを除き)主務省庁が指針を定めた日から6か月後とされている。各主務省庁において環境庁に協議して指針を策定するための作業が進められており、61年中には閣議決定が施行に移される見通しである。
(2)化学物質対策
化学物質対策については「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき新規化学物質に関して事前審査制度を設けるとともに、難分解性、蓄積性、慢性毒性等の性状を有する化学物質を特定化学物質に指定し、製造、輸入、使用等の規制を行っている。また、既存化学物質についても、通商産業省において分解性及び蓄積性について、厚生省において慢性毒性等について、また環境庁において環境安全性について環境調査等を行い点検を進めている。
このようにこれらの化学物質の分解性、蓄積性等の環境中での挙動に関する知識の集積が図られているが、なお未解明の部分が残されており、さらにこのような安全性の点検を積極的に展開していく必要がある。
また、化学物質の中には、環境中の濃度が極めて低い場合でも、環境に対し影響を与える可能性があることを指摘されているものもある。さらに、ある化学物質が環境中で検出された場合でもそれだけでは特定の汚染源に結びつけることが困難な場合も少なくない。
このような観点から、環境汚染の防止を図るためには、今後とも、化学物質の製造、使用、流通、廃棄等の過程で生じる汚染の可能性及びその影響に関する知見の集積や汚染実態の把握などに努める必要がある。
なお、化学物質の安全性確保対策の一層の充実が求められている現状にかんがみ、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の一部改正案が61年2月25日閣議決定の上国会に提出された。その内容は、化学物質の安全性の評価に関する国際的動向を勘案しつつ、生物の体内に蓄積する性質は有さないものの難分解性及び有害性があるため使用等の状況によっては、環境汚染を通じて人の健康に係る被害を生ずるおそれがある化学物質に関し、事前審査制度の充実及び事後管理制度の導入を図るものである。