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第1節 

2 科学技術の進展と環境問題

 科学技術の進展と環境問題のかかわりについて、我が国の経験を振り返りながらみることにしよう。
 我が国では、第二次世界大戦以前において既に鉱業を中心として公害の発生がみられていたが、全国的に深刻な公害に見舞われたのは戦後の高度成長期である。
 我が国の経済社会は戦後の荒廃から復興し、昭和30年代半ばから始まった高度経済成長期に大きな発展を遂げた。この過程は、重化学工業化が進む過程であり、コンビナートの建設等により臨海地帯に大規模な工業地帯が発達し、高能率、低コストの生産が可能となった。これを支えたのは、大量生産技術、大量輸送技術、大規模土木技術であった。石油化学工業を例にとれば、エチレン製造設備の最大規模のものの1年当たりの生産能力は、35年におよそ5万tであったものが、45年にはおよそ30万tとなっている。また、石油タンカーについても巨大化が進み、37年には13万重量tのタンカーが、さらに50年には48万重量tのタンカーが登場している。
 高度経済成長の時期は、消費生活の飛躍的な拡大の時期でもあった。30年代には、テレビ、電気冷蔵庫等の耐久消費財の急速な普及が見られ、更に40年代になると、クーラー、乗用車等が一般家庭で持たれるようになった。
 このように、高度経済成長は産業の急速な発展と消費の拡大をもたらしたが、その過程において、公害が各地で問題とされ、健康被害が発生するに至った。熊本県水俣地域の化学工場からの廃液により発生した水俣病や三重県四日市地域の石油コンビナートからのばい煙により発生した四日市ぜん息などはその例である。また、PCBやDDTのように自然界では分解しにくい化学物質が生産され、環境中への蓄積が問題とされる一方、一般家庭から排出される一般廃棄物の量も増加し、プラスチック類の混入や粗大ごみも増え、その処理が問題となった。さらに、全国各地で開発が進行し、自然の大規模な改変が進んだ。このほか、高速交通機関の急速な発達は我が国の経済や国民生活の発展に寄与した反面、交通公害問題をもたらしている。
 このような環境問題の解決に向けて、40年代に入り環境対策が整備されるとともに、公害防止技術の開発が進められてきた。その後、50年代を通じ公害防止技術が急速に普及し、環境の改善に大きく寄与している。また、二度にわたる石油危機を契機として省エネルギー・省資源化が進んだことも環境の改善に資するものであった。
 近年、科学技術と産業の高度化に伴い、これまでとは環境への負荷の形態が異なってきている。すなわち、エレクトロニクスや新素材等の先端産業を中心とする技術革新、産業の高度化は、硫黄酸化物等のこれまで問題とされてきた汚染物質による環境負荷を軽減させる反面、化学物質の利用形態によっては新たな環境負荷をもたらす可能性も考えられる。
 以上みてきたように、科学技術は、産業、社会に影響を与えるのみならず、環境に対しても様々な影響を与えてきている。このため、今後の科学技術の開発及び適用に当たっては、環境への影響を極力少なくするとともに、環境保全面への活用に努めていくことが重要である。

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