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むすび

−安全で快適な都市の環境を築くために−
 我が国は、いまや全面的な都市化社会に移行しつつある。
 高度経済成長期においては、大都市圏への人口・産業の急激な集中が進行したが、近年は、産業の地方分散等に支えられて地方中枢・中核都市を中心に人口が増加し、モータリゼーションの進行と相まって、市街地の外延的拡大を伴う都市圏が形成されてきている。加えて、都市的生活様式が地方都市や農村にまで普及しつつある。このような都市化社会の進展は、今後21世紀にかけて一層進み、国民の大部分が都市的環境に居住するとみられる。こうした中で、都市における環境をいかに安全で快適なものとするかが今後の環境行政の大きな課題となっている。
 都市においては、多様かつ高密度な都市活動が行われていることから、自動車走行等による交通公害問題、生活排水による水質汚濁、近隣騒音、廃棄物の処理・処分問題などのように、個々の活動でみれば環境への影響が大きくない場合でも、集積して環境問題が生じることになりやすい。また、都市化の進展に伴い緑地が減少するなど自然の改変が進んでおり、日常生活で自然とふれあう機会が減っている。こうした都市的な環境問題は、大都市圏を中心に顕在化しており重要な問題となっているが、上述のように、近年は、地方都市においても市街地が拡大し、農家と非農家との混住化も進んでいることから、水質汚濁等の環境問題がさらに広がるおそれがある。
 このような都市化に伴う環境問題に対しては、発生源対策をはじめとして都市構造、生活のあり方までを含めた幅広い取組を展開していくことが重要となっている。
 第1は、それぞれの都市の活動密度や地域特性に応じて、発生源対策及び下水道、廃棄物処理施設等の社会資本整備を効果的に実施していくことである。この場合、大都市圏においては、行政区画を超えた広域的対応も重要となっており、また、市街化の進行している地域に対しては、下水道などの生活環境施設を計画的、先行的に整備することなどにより公害の発生と拡散を予防することが重要である。
 第2に、都市構造を公害が生じにくいものとしていくことである。まず、都市活動を適正に分散したり、効率的な都市活動システムを形成することにより、適正かつ効率的な都市活動を実現することである。こうした観点から、人口・産業の地方分散等を進めるとともに、効率的な輸送システム、資源・エネルギーの有効利用システムを形成することが重要な課題である。次に、生産・輸送等の都市活動が営まれる場と住居とを分離すること等により、都市活動による環境への影響が軽減される都市構造とすることである。工業系、商業系、住居系等の用途区分に応じた適正な土地利用を実現していくことや沿道に適した施設立地を誘導していくことなどが必要である。さらに、公害防止対策のみならず、身近な自然の保全・創出を図るとともに、積極的に快適な都市環境を創出していくことである。このためには、緑地等の整備を一層進めるとともに、道路、河川などの社会資本にも快適性を付与することが重要である。また、近年活発化している都市の再開発は、土地利用の再編を通じて公害の防止や快適な都市・生活空間の創出への役割が期待される。
 第3に、よりよい環境の保全・創出に向けて、都市住民の行動を広げていくことである。住民は、公害の被害者となるだけでなく、生活の変化や向上に伴って気づかぬうちに加害者となっていることが増えており、日常生活における環境保全に配慮した生活・行動ルールの確立が必要となっている。また、近年、住民が環境美化活動や快適な環境づくりなどに積極的に参加する動きが活発化している。国、地方公共団体においても、環境教育等を通じて住民の環境への理解を深めるとともに、このような環境の保全・創出のための活動を支援し、その輪を広げていくことが重要となっている。
 以上、現在、我が国が直面している都市化社会の環境問題に焦点を当ててみてきたが、環境問題は、都市化、産業化等の経済社会の進展に伴い変化してきている。
 高度経済成長期においては、環境汚染やかけがえのない自然の改変が進み、イタイイタイ病、新潟水俣病、四日市ぜん息、熊本水俣病の発生をはじめとして国民の生命・健康にまだ大きな影響を与える事態が生じた。このような事態に直面して、人々は次第に環境保全の意義や環境と人間との一体的な結びつきについての認識を新たにし、その防除のための社会的要請が急速に高まった。
 こうした認識に沿って、昭和40年代に入り環境政策が本格的に整備されることとなり、環境の状況は、全般的には改善を示してきているが、二度にわたる石油危機を経て、経済社会条件は大きく変化し、人間活動の環境に及ぼす影響は複雑化・多様化している。すでにみたとおり、交通公害問題、生活排水による水質汚濁問題などの都市的な環境問題は、多角的な取組が必要となっている。また、環境中に排出される物質の中には、ある種の化学物質のように環境中に長期間蓄積される可能性があるものもあり、環境汚染の動向に十分な留意が必要な状況となっている。さらに、国際的な動向に目を転じると、酸性雨などの国境を超える環境汚染や大気中の二酸化炭素濃度の上昇、熱帯林の減少などの地球的規模の環境問題が生じており、環境保全のための国際協力の必要性がますます高まっている。
 環境行政は、こうした経済社会条件の変化や環境問題の変化に的確に対応していく必要がある。59年度は、環境汚染の未然防止対策に関し、環境影響評価実施要綱が閣議決定され、また、環境基準の確保が緊要な湖沼の水質保全を図るための湖沼水質保全特別措置法が成立する等環境行政が新たな展開をみた年であった。
 こうした成果に立って、今後の環境行政は、21世紀に向けての長期的視野から、国民が安全で安心できる環境の確保を基本とし、より質の高い環境の実現を目指して、国民の参加と協力を得つつ、国、地方公共団体が相互に密接な連携をとりながら、総合的・計画的に展開していくことが求められている。

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