5 光化学大気汚染対策
光化学大気汚染は、環境大気中の窒素酸化物と炭化水素類の混合系が太陽光の照射を受け、オゾンを主体とする光化学オキシダント等の2次汚染物質が生成されることによって生ずるものであり、その反応プロセスは極めて複雑である。我が国では、45年夏以来毎夏、このような光化学大気汚染によると思われる目の刺激、のどの痛み、胸苦しさ等を典型的な症状をする健康被害が発生している。
環境庁においては、48年5月に光化学オキシダントに係る環境基準の設定を行い、また、工場、事業場や自動車から排出される窒素酸化物及び自動車から排出される炭化水素に対する規制強化等の諸対策を段階的に講じてきたところである。
一方、地方公共団体においても、大気汚染防止法第23条にのっとり、光化学オキシダント緊急時対策要綱等を定め、光化学オキシダント濃度と気象条件に応じて、予報、注意報、警報等を発令し、発生源対策と住民に対する保健対策を実施するなどの措置を講じてきている。
しかしながら、光化学オキシダント濃度は、依然、全国ほとんどの地域で環境基準を超えることがあり、また、気象条件によっては注意報が発令される事態がしばしば発生していることから、今後とも、汚染状況の推移を的確に把握し、適切な対策を講じていく必要がある。
(1) 光化学大気汚染の発生状況
ア 全国の注意報等発令状況
59年の光化学オキシダント注意報(光化学オキシダント濃度の1時間値が0.12ppm以上で、気象条件からみて、汚染の状態が継続すると認められるとき発令される。)の発令は、16都府県で延135日にのぼり、54年から57年までは、冷夏、長梅雨の影響で毎年100日以下の水準であったのに比べ59年は58年に続き2年連続で130日を越えた。(第2-3-8表)
発令延日数の月別内訳は、4月に1日、5月に15日、6月に16日、7月に33日、8月に57日、9月に13日となっており、気象条件の影響を反映し、盛夏の7月〜8月に発令が多かった。
なお、本年は、光化学オキシダント警報(地方公共団体により発令基準は異なるが、通例光化学オキシダント濃度の1時間値が0.24ppm以上で、気象条件からみて汚染の状態が継続すると認められるとき発令される。)が、53年以来6年ぶりに7月4日埼玉県で発令された。
イ 注意報発令の地域内訳
注意報発令延日数の地域内訳をみると東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県の1都3県(東京湾地域)で88日、大阪府、京都府、奈良県及び兵庫県の2府2県(大阪湾地域)で20日となっており、これら2地域で全体の約80%を占めている。
ウ 注意報発令日における光化学オキシダント最高濃度
注意報発令日における光化学オキシダント最高濃度をみると、0.24ppmを最高として0.20ppm以上であった日が8日、0.15ppm以上0.19ppm以下であった日が52日、0.12ppm以上0.14ppm以下であった日が74日であった。
エ 被害届人数
59年の光化学大気汚染によると思われる被害者の届出人数(自覚症状による自主的な届出による。)は、5,822人で、58年に比べ3倍強まで増加し、4,215人であった51年以降最高の人数となっている。(第2-3-8表)
(2) 光化学大気汚染緊急時対策
注意報等の発令の判断に必要な気象データを得るため、環境庁では、毎夏季に光化学大気汚染の発生しやすい東京湾、伊勢湾、大阪湾及び瀬戸内海の4地域内の10地点で気象観測を行い、地方公共団体に気象情報の提供を行っている。また、気象庁では、全国8ヶ所の大気汚染気象センター及び11ヶ所の大気汚染気象予報業務担当官署で光化学大気汚染の発生しやすい気象条件の解析と予報を行い、地方公共団体に通報している。これら情報と測定局データを基に、地方公共団体では光化学オキシダント緊急時対策要項等により注意報等を発令すると同時にばい煙排出者に対する大気汚染物質排出量の削減及び自動車使用者に対する不要不急の自動車の走行の自粛を要請するほか、住民に対する広報活動と保健対策を講じている.
(3) 炭化水素類排出抑制対策
ア 固定発生源からの炭化水素類排出抑制対策
環境庁では、54年11月以来、炭化水素類固定発生源対策検討会を設け、固定発生源から排出される炭化水素類について、排出実態の把握、排出防止技術の評価等について検討を行ってきたが、57年7月、その検討結果等を踏まえ、固定発生源に対する炭化水素類の排出抑制対策の強化、推進を図るため、「光化学大気汚染防止のための炭化水素類対策の推進について」決定した。
環境庁は、この方針に基づき、地方公共団体等関係方面に対して、57年7月排出抑制対策の推進について、更に58年3月発生源データの整備について所要の要請を行い、59年度おいては、引き続き地方公共団体における発生源データの整備の一層の促進を図ってきたところである。
イ 自動車からの炭化水素排出低減対策
自動車から排出される炭化水素については、ガソリン・LPG車について、45年にブローバイガス(ピストンシリンダーのすきまから吹きぬける未燃の混合気をいい、炭化水素が主成分)の規制、47年に燃料蒸発ガスの規制が行われ、さらに、48年度規制により排気管から排出される炭化水素の規制が実施された。また、ディーゼル車についても、49年度規制により排気管から排出される炭化水素に規制が実施された。さらに、ガソリン・LPG乗用車、軽量・中量ガソリン車及び軽貨物車については、50年度規制により規制強化が行われ、ガソリン・LPG乗用車1台当たりから排出される炭化水素の量は、未規制時に比べて92%削減されることとなった。
(4) 光化学大気汚染調査研究の推進
光化学大気汚染は、広域にわたる極めて複雑な現象であり、それに関する調査も、光化学反応機構、移流拡散等の気象の影響、原因物質の排出実態、それらを盛り込んだ光化学大気汚染予測モデル、更には、二次生成物質の健康影響や光化学オキシダントによる植物影響など広範な分野にわたって行われている。
このような調査研究で得られた知見をもとに、現在、光化学大気汚染予測のモデルの精度向上に努めてきており、こうした成果を踏まえ、光化学スモッグ等の広域的大気汚染に適切に対処しうるよう「光化学大気汚染対策検討会」を59年10月設置し対策の検討を進めている。