1 各種公害防止対策の推進
(1) 大気汚染防止対策
政府は、大気汚染を防止するため、排出規制等を実施してきている。
硫黄酸化物については、ばい煙発生施設に対し、地域ごとに煙突の高さに応じて排出の許容量を規制するいわゆるK値規制を実施してきている。また、環境基準の確保がK値規制だけでは困難と認められた地域については工場、事業場ごとに排出総量を規制する総量規制等を実施している。
窒素酸化物については、ばい煙発生施設ごとに濃度規制を行っており、また、それだけでは環境基準の確保が困難であると認められ、所要の対策を実施することが特に緊要であると認められた地域では総量規制を行っている。さらに、自動車排出ガスについても濃度又は重量規制を行っている。このうち、ディーゼル乗用車については、現在、トラック・バスと同様濃度規制を行っているが、近年における増加傾向等を踏まえ、2段階に分けて重量規制による許容限度目標値を設定し、一層の規制強化に向けて技術評価を進めているところであり、59年10月、手動変速機付車輌について第1段階目標値に基づく規制を61年規制として実施すべく許容限度の強化の告示等を行った。
光化学大気汚染については、窒素酸化物に対する規制に加え、炭化水素に対する自動車排出ガス規制を実施している。また、固定発生源から発生する炭化水素類に対しても、環境庁から地方公共団体等各方面に対して要請を行い、排出抑制対策の推進を図っている。
また、浮遊粒子状物質については、その発生源は多種多様である。このうち、ばいじんに対しては、ばい煙発生施設に係る濃度規制を、粉じんに対しては、粉じん発生施設の構造、使用及び管理に関する基準が定められている。さらに、ディーゼル自動車から排出されるディーゼル黒煙についても規制が行われている。
なお、大気汚染防止法では、カドミウム等の有害物質についても排出規制を行っている。
また、スパイクタイヤ使用に伴う粉じん等の問題については、地域住民の生活環境の保全を図るため、環境庁では、58年9月、スパイクタイヤの使用期間制限(使用の自粛の指導)を中心とした当面の対策をとるよう関係道府県知事に要請し、その後、関係道府県において具体的な措置が講じられ、又は検討されている。
(2) 水質汚濁防止対策
水質汚濁防止対策としては、既に「湖沼水質保全特別措置法」の制定について述べたところであり、ここでは、その他の対策として、ア 「水質汚濁防止法」による排水規制 イ 閉鎖性水域における対策 ウ 生活排水対策及びエ 地下水汚染対策についてみる。
ア 「水質汚濁防止法」による排水規制
公共用水域の水質保全を図るため、「水質汚濁防止法」に基づき、汚水を排出する施設を設置する工場や事業場からの公共用水域に排出される水に対して排水規制を実施している。排水基準には、国が全国一律に定めている一律基準と、都道府県がそれぞれの水域の状況に応じて一律基準よりも厳しく定めている上乗せ基準とがある。
イ 閉鎖性水域における対策
(ア) 総量規制の実施
後背地に大きな汚濁源を有する内海、内湾、湖沼等の閉鎖性水域は、流入する汚濁負荷が大きい上に汚濁物質が蓄積しやすいため、他の水域に比較して環境基準の達成率が低く、アで述べた排水規制のみでは環境基準を達成・維持することが困難なところがある。
このため、そのような水域については「水質汚濁防止法」及び「瀬戸内海環境保全特別措置法」により、汚濁負荷の総量を削減する総量規制を実施することとされており、現在、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海で行われている。
(イ) 富栄養化対策
湖沼においては、水が滞留しやすく、窒素、りんの流入により富栄養化が進み、アオコ等の発生、水産被害、水道のろ過障害、異臭味等の問題が生じている。
このため、57年12月に窒素及びりんについての環境基準が設定され、これに基づき、現在、各都道府県において類型あてはめが行われている。
また、排水基準については、59年9月5日、その設定について中央公害対策審議会において答申が行われた。現在これを踏まえ、水質汚濁防止法に基づく富栄養化しやすい湖沼の窒素及びりんの排水基準の設定について準備が進められている。
さらに、閉鎖性海域の富栄養化を防止するため、現在、瀬戸内海においては、瀬戸内海環境保全特別措置法に基づくりんの削減指導が、東京湾、伊勢湾においては、行政指導による対策が各々行われている。
ウ 生活排水対策
水質汚濁の中で大きな割合を占めている生活排水について、その対策を推進していくことが水質保全上重要となっている。
生活排水対策の基本は下水道整備であるが、普及率は58年度末現在全国平均で33%と低い状況にあり、多くの地域では、生活排水負荷(BOD)の約7割程度を占める家庭の台所、風呂、洗面所等からの生活雑排水が未処理のまま公共用水域に放流されている。今後、下水道の整備は、大都市からその周辺部、あるいは中小都市の人口密度の相対的に低い地域へと拡大していくと考えられるが、現下の財政状況等を勘案すると、その整備にはまだかなりの年数を要すると考えられる状況にあり、今後とも効率的な執行を推進していく必要がある。
このため、今後は、下水道整備の推進を図りつつ、その整備状況を勘案し、地域の特性に応じ、地域し尿処理施設、農業集落排水施設、合併処理浄化槽、生活排水処理施設等の整備を的確に組み合わせ、生活排水対策を総合的に推進していくことが重要である。
生活排水処理施設のうち小規模なものは、集落単位や住宅単位での対策であり、施設単位にみれば、比較的少ない費用で速やかに整備が行われるとともに、地形上の困難等についても適切に対応し得るので、その地域特性に応じた有効な活用が期待される。
エ 地下水汚染対策
57年度、58年度に環境庁が行った調査でトリクロロエチレン等による地下水の広範な汚染が認められており、その進行を防止するため、環境庁は、当面の措置として、暫定指導方針を定め、59年8月からトリクロロエチレン等を取り扱う工場、事業場に対し、地下浸透の防止及び公共用水域への排出の抑制について指導を行うこととした。厚生省、通産省及び建設省においても同様の指導を行っている。
(3) 交通公害対策
交通公害問題に対処するため、環境基準等の達成を目標に各種の施策が講じられてきたところであり、一定の成果を収めたものもあるが、いまだ十分に改善されたといえる状況にはない。
道路交通公害対策としては従来より自動車構造の改善、地域特性を考慮した交通管理や道路構造の改善等が行われてきたところであるが、今後とも自動車交通量の増大が予想される状況下において、問題の抜本的解決を図っていくために、これら施策の充実・強化のほか引き続き環境保全に配慮した効率的な交通体系が形成され、交通施設と周辺土地利用との整合性が確保されるよう関係機関が協力しつつ、各種施策を総合的に講じていくことが必要である。
航空機騒音対策については、低騒音機の導入、運航方法の改善、住宅への移転補償・防音工事助成等が講じられてきたところである。今後ともこれら施策の充実・強化を図っていくことが必要であるが、特に発生源対策や飛行場構造対策だけでは環境基準の達成を期すことが困難な飛行場周辺地域においては、騒音による障害の少ない土地利用形態を実現するための施策の充実が必要である。
また、新幹線鉄道騒音・振動対策についても防音壁の設置、鉄桁橋梁の防音工事、住宅防音・防振工事助成等が講じられており、引き続き環境基準等の達成に向けこれら対策の充実を図るとともに、今後、騒音、振動による障害の少ない沿線土地利用への誘導を図るなどの対策の推進が必要である。
(4) 化学物質対策
化学物質対策については、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき新規化学物質に関して、事前審査制度を設けるとともに、難分解性、蓄積性、慢性毒性等の性状を有する化学物質を特定化学物質に指定し、製造、輸入、使用等の規制を行っている。
また、既存化学物質についても、通産省において分解性及び蓄積性について、厚生省において慢性毒性等について、また環境庁において環境安全性について環境調査等を行い点検を進めている。
このようにこれらの化学物質の分解性、蓄積性等の環境中での挙動に関する知識の集積が図られているが、なお未解明の部分が残されており、さらにこのような安全性の点検を積極的に展開していく必要がある。
また、化学物質の中には、環境中の濃度が極めて低い場合でも、環境に対し影響を与える可能性があることを指摘されているものもある。さらに、ある化学物質が環境中で検出された場合でもそれだけでは特定の汚染源に結びつけることが困難な場合も少なくない。
このような観点から、環境汚染の防止を図るためには、今後とも、化学物質の製造、流通、使用、廃棄等の過程で生じる汚染の可能性及びその影響に関する知見の集積や汚染実態の把握などに努め、国民が安全で安心できる生活環境を確保していくことが重要である。
(5) その他公害対策
以上のほか、工場、事業場等からの騒音や振動、悪臭、農用地の土壌汚染、農薬、地下水採取等については、それぞれ規制が行われている。
このうち、土壌汚染については、再生有機質資材を肥料又は土壌改良資材として利用する動きが活発になっており、これらの資材の活用に伴う土壌汚染を未然に防止する観点から、環境庁では、59年11月、農用地における土壌中の重金属等の蓄積防止に係る環境基準を設定した。