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第2節 

6 都市における快適環境の創造

(1) 都市における快適環境
 前項で述べたとおり都市化の進展により身近な緑や水辺などの自然が減少する一方で、社会資本整備の立遅れもみられたことから、都市においてうるおいややすらぎのある快適な環境は次第に失われてきている。
 こうした状況とともに、所得水準の向上や価値観の多様化を背景に、近年快適な環境づくりへの関心が高まっており、各地で河川の浄化・清掃、街並の保全、道路・広場の緑化、郷土の森や林の整備など様々な取組が行われている。
 まず、快適な環境づくりを進める上で重要な要素について国民の意識をみると、豊かな緑、さわやかな空気、静けさ、のびのびと歩ける道や広場の順となっている(第2-2-21図)。
 環境の快適さは、公害のないことはもちろん、安全、衛生、利便等が確保されていること、さらには、地域の生活環境を構成する自然や施設、歴史的遺産などが互いに他を活かし合うようにバランスがとれ、その中で生活する人々との間に調和が保たれ、うるおいややすらぎをもたらす場合に感じられるものである。このような快適な環境づくりは、地域の特性や環境素材を生かし、住民の創意工夫の下に進めていくことが重要である。
 都市の快適環境についてみると、都市においては、公害が発生しやすく、また、良好な自然が少ない場合が多いことから、公害を防止し身近な自然の保全・創出に配慮した快適環境づくりを進めることが重要であると考えられる。
 また、都市化の進展に伴い、地域の歴史的遺産や文化は次第に失われており、これらを生かした個性ある街づくりを行っていくことが肝要である。
 さらに、都市においては、生活環境の構成物として人工物の比重が高く、街並や景観などを重視した快適な都市・生活空間を積極的につくりあげていくことが重要な課題となっている。
 身近な自然の保全・創出については、前項ですでに述べたところである。このため、以下において、歴史や文化を生かした街づくりと快適な都市生活空間の創出についてみてみる。


(2) 歴史や文化を生かした個性ある街づくり
 地域の歴史的遺産や文化の香りは、われわれが地域社会に魅力と愛着を感じ、ひいては郷土愛をはぐくんでいくために欠かせない要素となっている。
 しかし、全国的な都市化の進展の中で、それぞれの都市のもつ伝統や文化が失われ、均質化が進んでいった。特に大都市周辺においては、大都市への通勤圏として人口が急速に増大し、個性のない都市が形成されていった。
 こうした背景の中で、その地域の伝統や文化、歴史的価値のある建築物、水や緑などの環境素材を生かした個性ある街づくりを行うことが、快適な環境をつくる上できわめて重要となっている。
 たとえば、横浜市は、戦前まで、西洋風の街並のあるエキゾチックな活気のある港町であったが、戦災で街並の大半が焼失し、都市としての統一性に大きなダメージを受けた。40年代に入って、都市基盤整備のプロジェクトの推進など新しい街づくりに着手した。その中で横浜らしい歴史や文化を活かした「魅力ある都市づくり」を目指す都市デザイン行政を積極的に進めており、関内地区を中心に行われてきた「ミナト」へのプロムナード、開港広場、大通り公園、馬車道の赤レンガ歩道、建物の色彩整備などはその例である。このように、横浜市では、歴史的建造物の保存・再生とともに、街燈、ベンチ等まで含めた総合的景観演出により、個性ある都市づくりに取り組んでいる。
 また、盛岡市では、条例により、由緒由来のある建造物又は都市景観上保存することが必要な歴史的建造物を指定し、その保存を図っており、歴史と文化の香りある都市づくりを行っている。
(3) 快適な都市生活・空間づくり
 都市においては、生活環境の構成物として人工物の比重が高いが、たとえば、屋外広告物が無秩序に氾濫した街並等は都市の快適性を著しく低下させている。
 こうしたことから、街並や景観を重視した快適な都市・生活空間を積極的につくりあげていくことが都市における快適環境づくりの上で重要な課題となっている。このためには、国、地方公共団体、事業者、住民がそれぞれ役割を分担し、協力しあうことが必要である。
 国、地方公共団体が社会資本に整備を行う際に快適性を付与することは、環境の快適性を高める上で大きな役割を果たす。
 快適性を高めるための社会資本整備としては、従来から都市公園等の整備が行われてきた。一方、たとえば、廃棄物処理施設、道路、河川改修などの社会資本整備においては、これまで安全、衛生、利便の面を中心に整備が進められ、より質の高いニーズである快適性という観点については、当時の経済社会状況からみればやむを得ない面があったが、従来、ともすればみすごされていた面もみられた。社会資本の整備に際し、地域の総合的な環境水準の向上にも資するよう、快適性付与のための具体的方策について検討を推進していくことが求められる。たとえば、道路については交通機能の面だけを考慮するのでなく、緑地帯を確保したり、人々がお互いにふれあうことができる空間を創造し、景観と合致した美観を形成するなど、街づくりと一体となった道路の体系的整備を図ることが必要であり、配電線の地中化、歩行者優先の道路づくり等を積極的に推進することが望まれる。
 また、河川改修などの水辺環境に重要な係わりを持つ社会資本整備に際しても、人と水とのふれあいなどに配慮していくことが重要である。
 この試みとして東京都の例をあげよう。東京の隅田公園は隅田川を挟んで両側に分かれていたが、これを結ぶ人道橋が(「桜橋」と命名されている。)が60年4月完成を目途につくられている。この橋では、歩行者(自転車)専用橋として、風景を心行くまで眺めることができる。また、橋自体も公園の風景の一部を構成するため、全体に流れる曲線美をもつX形のデザインが採用された。さらに、橋の周辺には、周囲の景観へも配慮した緩傾斜型堤防が設けられ、人々が水に親しむことができるようになっている。
 事業者や住民が、建築物を周囲の環境と調和のとれたものとすることも大きな役割を果たす。
 このような取組の例としては、金沢都市美文化賞がある。この賞は金沢の都市美に配慮した優秀な建造物を表彰することにより、金沢の良さを破壊するような建築物をなくすことをねらいとして、地元の経済団体が主体となって53年に設けたものであり、快適な都市・生活空間づくりに貢献している。

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