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第2節 

2 人間活動と自然

 我が国は豊かな自然に恵まれているが、一方で、人間活動の影響を受けて減少しつつある自然も少なくない。ここでは、このような観点から、我が国の自然の中でも、人間活動の影響をうけやすい自然について、環境庁が53、54年に実施した「第2回自然環境保全基礎調査」の結果等をもとにみていくこととする。
(1) 照葉樹林
 照葉樹林は、シイ、カシ、タブなどを主体とする常緑広葉樹林であり、我が国の暖温帯以南の平地及び低山地の自然植生として普通にみられたものである。しかし、照葉樹林地域は古来から、日本人の主たる生活圏域でもあったため、人間活動による改変が進んできたところである。
 「第2回自然環境保全基礎調査」によると、暖温帯照葉樹林(903か所)の一か所当たりの面積は、平均17.8ヘクタール、10ヘクタール未満のものが全体の8割以上を占めており、一つ一つの規模も小さい。また、これらの半数近くが、古くから鎮守の森などと呼びならわされ、親しまれてきた社寺林である。
 現在残されている照葉樹林は、暖温帯地域における残り少ない自然植生であるとともに、日常生活で身近にふれあうことのできる貴重な自然であり、今後とも適切な保全を図ることが必要である(写真「照葉樹林」)。
(2) 湿原
 湿原は、高山部のものは、しばしば自然公園の核心的景観となり、低地のものは鳥類の生息地としても重要な意味を持つ。また、湿原に生育している植物群落は、他の群落に比較してきわめて生活力の弱い、しかも多湿あるいは湛水という厳しい自然環境とつりあって生育している。このため、厳しい自然には耐え得るが、人間の立入りや水位の変動などの人為的影響に対しては敏感で容易に破壊されやすい。
 我が国の湿原は、北海道のサロベツ原野のツルコケモモ-ミズゴケ群落から、沖縄県西表島の浦内川河口のマングローブ林周辺のミミモチシダ群落までの多様な群落を包含している。面積的には、長野県以北に約9割が偏在し、特に北海道には数千〜数万ヘクタールもの大規模な湿原が分布している(第1-2-1図)。
 我が国の湿原の中で最大規模の釧路湿原について環境庁が58年度に実施した「釧路湿原保全対策緊急調査」によると、同湿原には絶滅のおそれのあるタンチョウをはじめとして、学術上きわめて重要な野生動物・植物がみられる一方、湿原の踏み荒し等により、一部の地域では、湿原の生態系が損われつつあることが改めて明らかとなった。
 このように、湿原は貴重な動植物が生育する自然環境として重要な場であるとともに、人間活動の影響を受けやすい脆弱な自然であり、今後とも十分な保全を図っていく必要がある(写真「湿原」)。


(3) 干潟
 干潟は、潮の干満によって水没と干出をくりかえす海と陸との接点に形成されている。そこは、魚類や貝類が生活し、シギや、チドリなどの渡り鳥が渡来するなど、多くの生物にとって貴重な生息の場である。また、人間生活にとっても、潮干狩りや野鳥観察を楽しむことのできる身近な自然である。さらに、微生物の働きによって水質の浄化が盛んな場所でもある。しかし、干潟は埋立てや干拓の対象となりやすく、これまでにこれらの人間活動により消滅したものも少なくない。
 「第2回自然環境保全基礎調査」で確認された干潟の総面積は53,856ヘクタールであり、このうち57%が前浜干潟、38%が河口干潟、5%が潟湖干潟である。有明海、八代海に干潟総面積の50%が分布し、日本海側は潮汐の干満があまりないため干潟は少ない。
 一方、干潟の消滅状況をみると、20年から52年までに消滅した干潟は28,765ヘクタールで、20年当時の35%が消滅したことになる。消滅理由としては、埋立てによるものが全体の63.9%を占め、次いで干拓の29.3%となっている(第1-2-2図、写真「干潟」)。

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