1 公害紛争の処理状況

　公害紛争については、「公害紛争処理法」(昭和45年法律第108号)の定めるところにより、国の紛争処理機関である公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が処理することとされている。
　公害等調整委員会は、裁定(注)並びに特定の紛争(いわゆる重大事件、広域処理事件等)について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
　(注)　裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及びその金額を判断する責任裁定と、被害と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の2種類がある。
(1)　概況
　昭和58年中に公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等に係属した事件は、新たに申請のあった64件と前年から繰り越した94件の計158件であり、このうち68件が58件中に終結した。また、45年11月の公害紛争処理制度発足以来58年12月末までの間の申請件数は799件である(第7-1-1表)。

(2)　公害等調整委員会に係属した事件
　58年中に公害等調整委員会に係属した公害紛争事件は、110件(調停事件108件、責任裁定事件、原因裁定事件各1件)で、このうち同年中に新たに申請のあった事件は44件、前年から繰り越した事件は66件である。
　新たに申請のあった事件44件は、すべて不知火海沿岸における水俣病に係る損害賠償調停申請事件(以下「水俣病事件」という。)である。
　58年中に終結した事件は、水俣病事件46件と佐伯湾における養殖真珠被害責任裁定申請事件1件の計47件である。
　58年中に係属した事件名、件数及びその概要は、次のとおりである。
ア　調停事件
(ア)水俣病事件……………89件
　本件は、熊本県から鹿児島県にまたがる不知火海の沿岸の漁民等が、チッソ株式会社水俣工場からの排水に起因した水俣病にかかり、これによって精神上、健康上及び財産上の損害を被ったとして、賠償金の支払を含む調停を求めたもので、46年11月の申請を始めとして現在に至るまで引き続き申請を受けているものである。58年5月及び12月、水俣病事件45件が成立し、同年9月、1件取り下げられたことにより、計46件が終結した。
(イ)　大阪国際空港騒音調停申請事件……………18件
　本件は、48年から51年にかけて、大阪国際空港に発着する航空機の騒音により健康等に被害を被っているとする伊丹市、宝塚市、尼崎市及び大阪市の住民9グループ約2万名から、更に55年4月には川西市の住民約600名からそれぞれ国(代表者運輸大臣)を相手方として、?空港撤去、?騒音軽減対策の実施、?損害賠償の3項目を主な内容とする調停申請がなされたものである。
(ウ)　仙台湾における養殖海苔(のり)被害等調停申請事件…………1件
　本件は、56年10月、宮城県仙台市(代表者市長)から、同市が所有、管理する下水道処理場からの排水により海苔(のり)生産等に被害を被ったとして、仙台市漁業協同組合から要求されている賠償金78億857万円余の債務は不存在であるとの確認を求める調停申請があったものである。
イ　責任裁定事件
　佐伯湾における養殖真珠被害責任裁定申請事件……………1件
　本件は、55年11月、大分県佐伯市の真珠養殖業者1名から、同市に所在する建設会社及び港湾倉庫会社を相手方として、被申請人らが行った採石により、山土の泥による海水の汚濁が長期間にわたり発生したために大量の真珠母貝のへい死事故が起こり、甚大な被害を被ったとして、賠償金3,872万円余の支払を求める責任裁定の申請があったものである。58年10月、申請人からの取下げにより本件は終結した。
ウ　原因裁定事件
　壱岐における養殖真珠被害原因裁定申請事件−1件
　本件は、57年6月、長崎県壱岐郡芦辺町の真珠養殖業者1名から長崎県壱岐郡芦辺町(代表者町長)を相手方として、被申請人が行った漁港修築事業による多量の汚泥、セメントあく等の本件漁場への流入等と真珠母貝のへい死等との間の因果関係の存在の判断を求める原因裁定の申請があったものである。
(3)　都道府県公害審査会等に係属した事件
　58年中に都道府県の公害審査会等に係属した紛争事件は48件(あっせん事件1件、調停事件47件)で、このうち同年中に新たに申請のあった事件は20件、前年から繰り越した事件は28件である。
　係属した事件を都道府県別にみると、大阪府の16件、東京都の12件、宮城県、愛知県の各4件、奈良県、広島県、熊本県の各2件、茨城県、千葉県、富山県、岐阜県、滋賀県、兵庫県の各1件である。
　一方、これらを公害の種部別(重複集計)にみると、最も多いものが騒音関係の35件、次いで大気汚染関係20件、振動関係15件、悪臭関係14件、水質汚濁関係4件、地盤沈下関係2件、その他1件の順となっている。
　58年中に終結をみた事件は21件であり、その内訳は、成立13件、打切り7件(一部打切り1件を含む。)取下げ1件となっている。