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第4節 

2 海洋汚染防止対策

(1) 国際的な動向−MARPOL 73/78条約の発効
 海洋汚染の防止は、世界各国が協調してこれに取り組むことによって初めて十分な効果を期待し得るものであることから、従来より国際海事機関(IMO)を中心として採択された。「1954年の油による海水の汚濁の防止に関する国際条約」、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」等の国際条約に基づき国際的な協力が積極的に推進されてきている。我が国も、これらの国際的な動向に対応して昭和45年に、「海洋汚染防止法」(現在の海防法)を制定し、同法を中心として海洋汚染防止対策の充実強化を図ってきたところである。
 他方で、海上輸送構造の変化に伴うタンカーの大型化、ケミカルタンカー等による油以外の有害物質の海上輸送の増大等に伴い、48年には海洋汚染防止のための新たな、かつ、包括的な条約として「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約」が採択され、その後53年には同条約における油タンカーに関する規制の強化とともに、同条約の早期実施を目的とした「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」MARPOL73/78条約)が採択された。MARPOL73/78条約は、本文及び規制対象物質毎にその規制内容等について規定した5つの附属書から成っており、?従来の重質油のほか、軽質油、ばら積み有害液体物質、個品輸送の有害物質、汚水、廃物をも規制対象とすること、?船舶の構造・設備についての規制を大幅に導入し、これに関する検査を実施すること等、海洋汚染防止に関する画期的な内容を盛り込んだ国際条約である。
(2) 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部改正とその実施
 我が国も、海洋環境の保護のための国際協力を積極的に推進するとともに我が国周辺海域における船舶からの海洋汚染を防止し、併せて我が国外航船舶の円滑な運航の確保を図るため、58年5月「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律」(改正法)を公布し、所要の国内法整備を行った上で、同年6月MARPOL 73/78条約に加入した。改正法の概要は、次のとおりである。
ア 油による汚染の防止
 油による汚染の防止のため次のような規制を同年10月2日より実施することとした。
() 従来の重質油に加えて、軽油、灯油等の軽質油も規制対象とした。また、これに伴い軽質油タンカーもタンカーとしての規制を受けることとなった。
() 船舶から排出される油をビルジその他の油及び水バラスト等に区分し、その排出基準を大幅に強化した。
() 船舶の構造・設備面について、ビルジ等排出防止設備の設置の義務付けのほか、タンカーに関し分離バラストタンクの設置等を義務づけた。また、一定の船舶は、その海洋汚染防止設備等について運輸大臣の行う定期的な検査を受けなければならないこととした。
() 定期検査に合格した船舶には、海洋汚染防止証書を交付することとし、さらに、国際航海に従事する船舶には、国際海洋汚染防止証書を交付することとした。
() 我が国に入港する外国船舶の海洋汚染防止設備等が不適切と認められる場合には、その改造等について命令し、必要に応じ航行差し止め等の措置を講ずることができることとした。
() 廃軽質油についても、陸上においてこれを受け入れ、処理するための施設を確保することとした。
() 大量の油の排出時等の海上保安機関への通報義務を充実強化した。
イ 個品輸送の有害物質による汚染の防止
 ばら積み以外の方法で輸送される有害物質の輸送方法等についての規制を条約附属書?が国際的に発効する日から実施することとした。
ウ 汚水及び廃物による汚染の防止
 船員等の日常生活に伴い生ずるふん尿・ごみ等の排出基準を強化し、船舶にふん尿等排出防止設備の設置を義務付けるとともに、これに関し、運輸大臣の行う定期的な検査を受けなければならないこととし、それぞれ条約の附属書?及び?が国際的に発効する日から実施することとした。
エ ばら積み有害液対物質による汚染の防止
 有害液体物質の排出については、一定の基準に従って行う場合等を除き原則として禁止するとともに、特に有害性の強いものを排出する場合には、事前処理について海上保安庁長官等の確認を受けることとした。また、油による汚染防止のための規制と同様に、船舶に所定の設備の設置等を義務付けるとともに運輸大臣の行う定期的な検査を受けなければならないこととし、有害液体汚染防止管理者選任の義務付け、廃有害液体物質処理施設の確保などの措置を講ずることとした。なお、未査定液体物質については、環境庁長官の査定が行われるまでの間の排出を禁止することとした。
 この、ばら積み有害液体物資に関する規制は、条約の附属書?が国際的に実施される日から実施されるが、有害液体物質の範囲に含まれるべき物質の種類とその有害度の評価、その排出基準、船舶の設備基準等について、国際的な検討が行われるところであり、我が国もこれに積極的に参加するとともに、環境庁及び運輸省において所要の調査及び国内体制の整備を進めているところである。
(3) 海洋汚染の未然防止対策
ア 海洋汚染防止指導
 運輸省及び海上保安庁では、今回の海防法改正が複雑多岐なものであることから、全国各地において講習会を開催するとともに、訪船指導を行い、油に関する規制の改正を中心として周値徹底及び海洋環境の保護に関する意識の高揚に努めた。
 また、海上保安庁では、58年には12月に「船舶漏油事故防止推進旬間」を設け、訪船指導を実施するとともに、立入検査、海洋汚染防止講習会等の機会、海洋汚染防止モニター制度を活用して、海洋汚染防止思想の普及及び海上公害関係法令の周知徹底を図った。
イ 廃油処理施設の整備
 船舶廃油を処理する廃油処理施設のうち公共のものの改良を引き続き行った。民間を含めた廃油処理施設は58年12月1日現在、全国83港142ヶ所で運営されており、このうち、今回の海防法の改定に伴い廃軽質油を処理することになったものは、39港55ヶ所である。
(4) 海洋汚染防止対策
ア 排出油防除体制の整備
 海上保安庁は、海上における油排出事故に対処するため、巡視船艇、航空機の常時出動体制の確保、大型オイルフェンス等の排出油防除資機材の整備を図った。また、船舶所有者等に排出油防除資機材を備えされるとともに、民間における海上防災のための中核機関として設立されている海上災害防止センターの指導・育成を図っている。同センターは58年8月、伊豆半島下田沖で衝突した貨物船ベイリー号から排出された油の防除など、58年中に4件の排出油防除を実施した。
 さらに、従来から全国の主要港湾に設置されている流出油災害対策協議会等の指導・育成を図るとともに全国各地において、官民合同の大量排出油事故対策訓練を実施した。
イ 港湾及び周辺海域の浄化対策
 港湾及び周辺海域の環境保全のため、58年度には港湾公害防止対策事業(有機汚泥等のしゅんせつ等)を東京港、大阪港等12港で行ったほか、港湾環境整備事業として、横浜港、大阪港等16港1湾で廃棄物埋立護岸を整備するとともに宮古港で海洋性廃棄物処理施設整備を行った。又、48年度以降、港湾区域外の一般海域における浮遊ごみ・油の回収事業を進めてきている。
 さらに、閉鎖性が高く富栄養化の進んだ海域の環境改善を目的として底質浄化に関する実施設計調査を引き続き東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海において実施した。
(5) 海洋汚染防止の研究開発
 運輸省においては、海洋汚染の防止を推進するため、船舶から排出される廃油等の低減に関する研究開発を行ったほか、流出油の拡散防止の研究を実施した。
 さらに、海洋の浄化技術については、海底に堆積する軟泥の処理・処分技術の開発を行った。
 海上保安庁においては、「海洋汚染に係る化学物質の識別に関する実験的研究」及び「有害液体物質検知システムの開発に関する研究」を行った。
 また、環境庁では、海洋環境影響の評価において考慮すべき事項等を検討するため「廃棄物の投棄による海洋環境への影響に関する調査研究」を行った。

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