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第4節 

1 快適環境づくりの推進

(1) 我が国の国民生活は、高い経済成長を通じて、物質的にはかなりの水準を達した。一方で、身の回りの生活環境は、緑や水などの自然や歴史的な遺産が急速に失われ、やすらぎやうるおいのないものとなってきている。こうしたことから国民の生活に対する要望をみても、多くの国民が豊かな自然や歴史に恵まれた環境で暮らすことを望むようになってきている(第3-4-1図)。
 こうした国民の意識の変化に応じて、いくつかの地域では、地方公共団体をはじめとし、住民、企業が地域における新たな役割を自覚し、身近にある素材をいかしながら快適環境づくりに積極的に取り組む動きが見られる。
 環境の快適性は、安全、衛生、利便等がその重要な要素となることはもちろんであるが、その他の要素として、静けさ、のびのびと歩ける空間、身近な水や緑などの自然、町並みの美しさ、あるいは歴史的なたたずまいなども含まれよう。このような各種の環境要素の間に適切なバランスのとられた良好な環境は、、人々の情操を高め、心理的にもやすらぎを与え、身体の披露を緩和するなどの各種の恵みをもたらす。このようなことから、国民の健康で文化的な生活を実現する上で、環境の快適性(アメニティ)を確保していくことは、重要な意義を有している。
 今後の快適な環境づくりは、地域の自然的、経済社会的、文化的、歴史的特性を踏まえ、地域住民の中から盛り上がってくる熱意と地域の幅広いコンセンサスを基盤として、地方公共団体が中心となり民間団体を含め各種の主体の自主的、積極的な取組を生かしながら実施していくことが適当である。その際、これまで続けられてきた公害防止や自然環境の保全に加え、快適な環境を創造していくという視点に立って進められるべきである。
 しかしながら、望ましい快適環境づくりを進めていくうえで不可欠な取組の枠組や技術手法に関する情報は、現状では必ずしも十分でないため、国としても、必要な指導や助成を行い、その輪を国民的規模に広げていくことが必要である。
(2) 快適な環境を目指す地域の活動を支援し、補完していく観点から、環境庁では55年度以来地方公共団体及び(財)日本環境協会と共催で、快適環境シンポジウムを開催してきた。本シンポジウムは地方公共団体職員を中心に、学識経験者や住民団体の代表なども交えて、毎回全国各地の事例を紹介し、幅広く経験や意見の交流を行い、地域における快適環境づくりの定着を図っている。58年度は第4回シンポジウムが「将来に遺す快適な環境」をテーマとして、石川県金沢市において開催された。ここでは、快適な環境づくりの基盤として、環境に配慮した生活行動ルールが模索されている事例、住民と行政の協働による快適環境づくりの事例などが報告された。この中から、「環境家計簿による暮らしの点検」(大津市)と「鎌倉市における自然と文化財を守る運動」を紹介しよう。
ア 環境家計簿運動は、滋賀県大津市の生活協同組合の中の有志グループが始めたもので、住民一人一人が暮らしの中で環境にどのような影響を与えているかを点検するために「環境家計簿」を作成し、それを基に、環境に与える悪い影響をより小さくするような生活習慣を作り出していこうというものである。ともすれば大量消費と大量破棄に流れがちの現代社会の中で、住民自身の暮らしから生じる環境への影響は、これまでとかく忘れられがちであったが、それを自らの手で改善していこうという動きが出てきたところにこの運動の意義がある。
イ 鎌倉市における自然と文化財を守る運動は、イギリスのナショナルトラストに範を取り、古都鎌倉の環境を守るため、市民、企業、鎌倉市等からの寄付金により(財)鎌倉風致保存会を設立し、活動しているものである。これまでに開発の危機に瀕した古都鎌倉の聖域ともいわれる御谷(おやつ)の買い取り、「将来に保存すべき地域」の認定、さらに「保存建造物」の指定などの事業を進めてきている。保存会は、市民が主体となって自主性を保ちながらも、市や県などの行政機関とも連帯、協調を図りつつ運動を進めており、日本におけるナショナルトラスト運動の先駆的事例として注目べきものである。

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