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第3節 

1 自然環境の保全

 戦後、急速な経済成長を背景として、全国的に自然の改変が進んできた。しかしながら、我が国には人為のほとんど加わっていない原生の状態の自然から都市地域に残された樹林地などの身近な自然に至るまで多種多様な自然が残されている。近時、経済社会が発展し、成熟化するに伴い、国民の価値観が多様化し、自然とのふれあいのニーズも高まっている。
 自然環境の保全策は、次のような地域ごとのそれぞれの特性に応じ、相互に関連をもたせつつ体系的に展開される必要がある。?人為のほとんど加わっていない自然や、国を代表する傑出した景観、貴重な動植物など、?優れた自然風景や野外活動に適した自然地域など、?自然のバランスの維持に寄与する農地や森林など、?都市地域における樹林地、草地、水辺など。
 このような観点から、総合的な自然環境保全のための制度として「自然環境保全法」が47年に制定され、この法律を基本法とし、「自然公園法」、「都市緑地保全法」等関連する法体系に基づき、地域を指定して、各種の規制を行うとともに、保護及び利用のための施設の整備を行うなど、さまざまな施策が進められている。
 また、都道府県においては、条例により、全国で約5万ヘクタールに及ぶ緑地環境保全地域等を指定するなど、市街地及びその周辺の自然環境を保全するための地道な努力が続けられている。
 自然の重要な構成要素である野生鳥獣については、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」等に基づき、鳥獣保護区の設定、狩猟や取引きの規制等を行い、その保護が図られている。
 このような中で、第一章で明らかにされているとおり、社会経済状況の変化に伴う自然環境の変動をみれば、全体として都市化は依然として進行しており、特に巨大都市圏の周辺部の中小都市で農地、林地の市街化傾向がみられる。都市地域における樹林地、草地、水辺地等の自然地域は大気浄化、気象緩和、公害・災害の防止、健全な都市生活の享受等に大きな役割を果たしており、成熟化社会の中で快適な生活環境の創造という要請が強まることを考慮すると、自然環境の保全と緑の創出を図ることが重要となろう。
 また、今後自然環境の保全を推進していくに当たっては次のような点に留意していくことが求められよう。
 まず第一に、自然環境の現状や人間活動と環境の関係などについて正確に把握することである。
 環境庁においては、これまでに自然環境保全基礎調査として植生、野生動物、地形地質などについて2回にわたり調査を行ったほか、55年度以降、毎年度原生自然環境保全地域における学術調査を行うなど、各種の調査を行っているところである。しかしながら、自然の現状やメカニズムについては解明されていない部分が極めて多く、人間活動などによって、自然の状況にも常に変化することから、これらの調査、研究の充実を図り、その結果を活用することが肝要である。
 第二に、国民の積極的な参加を得ながら自然界の保全を進めることである。
 我が国においても、北海道知床半島における100平方メートル運動をはじめとして、自然や文化財を守ろうとする運動が各地で起きている。イギリスのナショナルトラストに触発され各地で起こってきたこのような民間の自主的活動が我が国の国情に沿って発展することは、自然環境保全の一層の広がりを図るうえで極めて重要である。
 環境庁が検討を依頼した「ナショナル・トラスト研究会」は、「わが国における国民環境基金運動の展開の方向」と題する報告書を取りまとめ、この運動に対して都道府県と市町村が密接な連携体制をとり、運動の自発性・自主性を尊重し、その活力を生かしながら積極的に対応していくべき旨を提言しているところであり、今後、国や地方公共団体の適切な施策とあいまって、運動の全国的発展が期待される。
 また、これに関連して、自然の恵沢の享受と保全に関し、受益と負担の両面にわたって社会的構成が確保されてこそ、自然環境の長期的・安定的な保全を図りうることから、費用負担のあり方について国民の合意づくりが肝要である。
 なお、第3回自然環境保全基礎調査の一環として58年度から実施している「動植物分布」では、広く国民の参加を得て自然環境を診断する目安とする動植物などの分布を調査することにしている。

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