1 自然環境の保全の現状
「自然環境保全法」は自然環境保全の基本理念を明らかにするとともに、国の責務としては、基本的かつ総合的な施策を策定し実施することを定めている。
同法に基づいて、ほとんど人の手が加わっていない原生の状態が保たれている地域や、貴重な動植物、地形、地質等を含む自然がすぐれた状態を維持している地域等について、原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域が指定され、我が国に残されている原生的な自然やすぐれた自然が総合的に保全されることとなった。58年度末現在、原生自然環境保全地域は5地域5,631ヘクタール、自然環境保全地域は9地域7,550ヘクタール、都道府県自然環境保全地域は482地域80,049ヘクタールとなっている。合計面積では93,230ヘクタールであり、全国土面積の0.25%である。
これらのうち、原生自然環境保全地域は、人の活動によって影響を受けることなく原生の自然状態を維持している地域であるため、本来の自然の姿を調査研究する場として極めて重要な地域である。このため、55年度から自然環境の現況を詳細に把握するための総合的な学術調査が実施されている。
57年度においては、このうち南硫黄島原生自然環境保全地域について調査が行われ、その結果を踏まえて、58年6月、同地域は全域が立入制限地区に指定された。
また、58年度においては、屋久島原生自然環境保全地域において調査が行われた。同地域は、樹齢1,000年以上、幹の直径が2メートルを超える屋久杉の巨木が多数含まれる原生林の地域であり、国の遺産として後代に伝えるべき重要な地域である。今回の調査によって、同地域の屋根部には屋久杉が比較的密度が高く存在し、直径3.1メートル、樹高40メートルという巨大な物もみつかったほか、ベニシタ類の祖先的な形態を持つシダを始め動植物の新種が発見され、同地域が遺伝子の貯蔵庫(ジーン・プール)として重要な地域であることが明らかになった。
また、自然環境保全地域については、58年度新たに崎山湾自然環境保全地域128ヘクタールが指定されている。同地域は八重山列島西表島の西端に位置する崎山湾の湾口部一帯の海域で、清澄な海域を住息場所とするアザミサンゴの世界最大といわれる大群体が存在するほか、多種のサンゴから成るサンゴ礁が発達し、豊富な海中生物相を有している。なお、海域における自然環境保全地域の指定は同地域が初めてである。
都道府県自然環境保全地域は、58年度においては新たに8地域、205ヘクタールが指定された。
「自然公園法」は、すぐれた自然の風景地を保護するとともにこれを広く国民の利用に供することを目的としている。同法により、58年度末現在、国立公園27か所202万ヘクタール、国定公園54か所129万ヘクタール、都道府県立自然公園297か所201万ヘクタールが指定されている。また、海中の景観を維持するため、国立公園及び国定公園の海面内の57地区2,398ヘクタールが海中公園地区として指定されている。
「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」は、野生鳥獣の保護と狩猟の適正化を図ることを目的としている。同法により、鳥獣の保護、繁殖を図るため、57年度末現在、国設鳥獣保護区353か所104万ヘクタール、都道府県設鳥獣保護区2,807か所204万ヘクタール(合計308万ヘクタールで全国土面積の8%)が設定されている。
特に、絶滅のおそれのある鳥類については「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」に基づき特殊鳥類として指定し、その譲渡等に関し規制を行うことによって種の保存が図られている。同法に基づき、58年度において新たにオオワシ、オオタカ、クマタカ、オオハヤブサ、シベリヤハヤブサ、ハヤブサの6種類が特殊鳥類に指定され、58年度末現在における国産の特殊鳥類は35種類である。