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第3節 

1 国民参加の環境保全

 昭和40年代の公害問題の激化に直面し、国民の各層に環境に対する関心が高まり、さまざまな場を通じて環境保全のための努力が続けられている。
 現在、全国各地で行われている美化清掃活動は、地域環境の美化に役立つとともに、そのような活動を通じて国民の環境問題への理解を高めるものである。最近においても、例えば、富士山クリーン作戦、愛知県豊橋市で始まった530(ゴミゼロ)運動や、海岸、河川、湖沼の清掃、環境整備などを住民みずからが行うボランティア活動など各地で多くの活動が進められてきている。これは、単に、不快で非衛生的なゴミを除去するということにとどまるものではなく、空き缶等を拾い集め再資源化し、ゴミの減量を図るなど生活様式そのものを見直し、環境を改善しようとする意識が高まってきたことの表れである。
 なお、環境庁及び厚生省では、上に述べたような各種運動を全国的に普及させるため、6月5日(世界環境デー)を中心に、「環境美化行動の日」を設けるよう地方公共団体に呼びかけることとしている。
 生活様式を見直し、環境の美化を進める活動は河川、湖沼などの清掃や環境整備活動にとどまらず、無りん洗剤の利用を推進することにより生活雑排水中のりん分を減らし、湖沼の富栄養化の防止に協力しようとする消費生活協同組合などの運動にもみられるものである。このような環境の美化清掃活動は、地域環境の改善にも役立っている。美化清掃活動は住民の努力に負う部分も多いが、今後、その活動を一層推進していくためには、費用負担などの問題を含めた検討が必要である。
 更に一歩進んで、最近では、住民自らが費用を負担することにより、すぐれた自然環境や価値ある歴史的環境を保全しようとする運動がみられるようになっている。
 既にイギリスでは、100万人を超える会員を擁するナショナルトラストという団体(1895年設立)が広く国民から寄金を募り、これにより自然の風景地や、歴史的、文化的遺産の取得・管理を行い、自然環境保全の面でも大きな役割を果たしている。我が国においても、北海道の知床における「知床100平方メートル運動」など」各地においてこのイギリスのナショナルトラストに範をとった運動が行われているほか、新たな運動の芽生えもみられるなどこの問題についての国民の関心が高まってきていることがうかがわれる。
 これらの運動は、その動機や目標はもとより、運動の主体、方法などが事例ごとに多様性に富んでいるが、いずれも自然保護の一層の充実を国民的な広がりにおいて図っていく上で有意義なものであり、このような運動が今後国民的なコンセンサスのもとで更に普及、定着していくことが期待されるところである。
 住民だけでなく、事業者の環境改善努力にも注目すべきものがある。「工場立地法」等により事業者は工場の緑化を図っているが、緑地はその遮音等の効果により公害の防止に寄与するばかりでなく、防災、保安の役割を果たすとともに周囲の美観を高め、うるおいのある良好な環境の形成の上で大きな意義を持ってる。川崎市では、1ヘクタール以上の敷地を持つ工場において植栽された樹木が約100万本、緑化面積が約130ヘクタールに達している。この面積は同市内の公園面積の約30%に相当する広さである。
 なお、全国の企業の中には緑地等の整備に工夫を加えたり、周辺住民に施設の公開を行ったりしているところも多い。
 環境の保全は、もとより国が長期的な見地から公共の利益を確保するため進めることが基本であるが、同時に住民や事業者によるこのような環境改善への積極的な努力を生かしつつ政策を進めることにより、より効率的な環境保全が可能となり、かつ、国民のニーズにも応えていくことになる。したがって、国は住民や事業者の環境保全に関する動向を的確に把握し、住民や事業者の努力を支えうる基盤となる施策の充実に努めることが重要である。

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