3 未然防止策
悲惨な公害や自然環境の破壊を繰り返さないため、また、環境問題の根本的な解決のためには、一度起こった公害を除去するばかりでなく、二度と公害が発生しないように、環境汚染を未然に防止していくことが極めて重要である。
(1) 環境汚染の未然防止と環境影響評価
環境影響評価、いわゆる環境アセスメントは環境汚染を未然に防止するための有力な一つの手段である。すなわち、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施に際し、その環境影響について事前に十分に調査、予測及び評価を行うとともに、その結果を公表して、地域住民等の意見を聴き、十分な公害防止等の対策を講じようとするものであり、その重要性は今日一段と高まっている。
56年度の国政モニターに対するアンケート調査「環境影響評価について」(内閣総理大臣官房広報室)によると、第3-2-3図のようにその必要性の認識は、深く国民に根付いている。また、環境影響評価を法律で行うことの必要性については「大規模な事業は法律で行い、それ以外の事業は必要に応じ条例で行えばよい」が56%、「法律で全国的に行えばよい」が18%であり合わせて74%に達している。
国際的にみると、アメリカで44年に「国家環境政策法」を制定し、環境影響評価書の作成を義務づけたのを始めとして、スウェーデン、オーストラリア、西ドイツ、フランスなどの諸国において、それぞれの国情に応じ、環境影響評価の実施又は制度の確立をみている。また、49年及び54年には経済協力開発機構(OECD)において、環境影響評価の手続、手法等の確立及び「環境に重要な影響を与える事業の評価」についての理事会勧告が採択されている。このように環境汚染の未然防止を図ろうとする環境影響評価は国際的にも共通した課題となっているが、特に狭あいな国土に1億を超える人口を擁し、さまざまな経済社会活動が行われている我が国において、環境影響評価を行うことは重要である。
我が国における環境影響評価についてのこれまでの動きをみると、47年6月「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解を行い、国の行政機関はその所掌する公共事業について、事業主体に対しあらかじめ、必要に応じ、その環境に及ぼす影響の内容及び程度、環境破壊の防止策、代替案の比較検討等を含む調査研究を行わせ、その結果に基づき所要の措置をとるよう指導することとしたのが取組の始まりである。この後、48年には、「港湾法」や「公有水面埋立法」等の一部改正により、港湾計画の策定や公有水面の埋立の免許等に際し、環境に与える影響について事前に評価することとされた。
そのほか公共事業では、「建設省所管事業に係る環境影響評価に関する当面の措置方針について」(建設事務次官通達)、「整備五新幹線に関する環境影響評価の実施について」(運輸大臣通達)により環境影響評価が行われている。また、公共事業以外でも通商産業省は52年7月に「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」の省議決定を行い、さらに、これを受けて54年6月には通商産業省資源エネルギー庁長官から「環境影響調査及び環境審査に伴う地元住民等への周知等の措置要綱」等を定めた通達が出され、電源立地に際しての環境アセスメントについて、電気事業者などに対してより具体的な行政指導が行われることとなった。
地方公共団体においても、47年の閣議了解に基づき、国に準じて所要の措置を講じるよう要請されたことなどを契機として、各種事業についての環境影響評価が実施され、また制度化が進められてきている。条例による環境影響評価の制度化は51年10月に川崎市が「川崎市環境影響評価に関する条例」を制定したのを始め、53年7月には北海道、55年10月には東京都、神奈川県と続き、現在4地方公共団体が条例を制定している。また、48年4月の福岡県を始めとして57年12月の広島県に至るまで17の県、政令指定都市において要綱等による環境影響評価の制度化が行われている。その他の府県・市においても制度化の検討が進められているが、一方で、地方公共団体は国が環境影響評価に関する統一的な手続法を制定するよう要望しているところである。
(2) 環境影響評価法制度確立への努力
現在の各省庁の行政指導や地方公共団体の条例または要綱による環境影響評価は、その手続などがそれぞれ異なっており、また、評価手順等が十分整備されていないものもあり、制度面からみれば統一的な手続内容とは必ずしもなっていない。こうした下で中央公害対策審議会は3年余の審議の結果、54年4月「環境影響評価制度のあり方について」答申を行い、「環境影響評価の制度の確立を図り、統一的準則を示すことが必要である。その方法としては種々のものが考えられるが、(中略)法律によることが最も適当である。」とし、「速やかに法制度化を図るべきである」という方針を示した。このため、政府は環境庁を中心として法制度化について検討、調整を進め、56年4月環境影響評価法案を第94回国会(常会)に提出した。
同法案の概要は次のとおりである。(第3-2-4図)
? 環境影響評価に関し、国等の責務を明らかにするとともに、その手続等を定めることにより、環境影響評価が適切かつ円滑に行われ、事業の実施に際し、公害の防止及び自然環境の保全について適正な配慮が行われることを目的とする。
? 道路の新設等や飛行場の設置等の同法案第2条に掲げる事業で、規模が大きく、その実施により環境に著しい影響を及ぼすおそれのあるものとして政令で定めるものを対象事業とする。
? 事業者は、対象事業の実施による影響について対象事業の種類ごとに定められる指針に従い、調査、予測、評価を行い、環境影響評価準備書を作成し、これを関係都道府県知事が公告、縦覧する。
? 事業者は、準備書の縦覧期間内に、説明会を開催し、関係地域の住民は、準備書について公害の防止、自然環境の保全の見地から意見を述べることができ、また、関係都道府県知事は、関係市町村長の意見を聴いた上で意見を述べる。
? これらの意見が述べられた後、事業者は、環境影響評価書を作成し、これを関係都道府県知事が公告、縦覧する。
? 環境影響評価の成果を国の行政に反映させるため、環境影響評価書の行政庁への送付、環境庁長官の意見及び免許権者等による免許等に際しての公害の防止等の配慮について、所要の規定が設けられている。また、事業者も適正な配慮をして対象事業を実施しなければならない。
? 都市計画に係る対象事業、指示等により行う対象事業及び港湾計画について、環境影響評価の手続を行う場合の特例規定、地方公共団体の行う環境影響評価に関する施策との関係についての規定、その他第3章158/sb1.3>各条に掲げる事業者の行う環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための諸規定が設けられている。
同法案は56年11月第95回国会(臨時会)において提案理由説明が行われ、57年の第96回国会(常会)において衆議院環境委員会で審議が行われたが、会期終了に伴い継続審査となり、引き続く審議は第98回国会(常会)に持ち込まれた。