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第1節 

4 自然環境の保全

 公害問題に対しては以上のような規制、助成、誘導の諸施策が講じられているが、自然環境の保全については総合的な自然環境保全のための制度として「自然環境保全法」が47年に制定され、この法律を基本法とし、「自然公園法」「都市緑地保全法」、「森林法」等関連する法体系に基づき、地域を指定して、各種の規制を行うとともに、保護及び利用のための施設の整備を行う等、さまざまな施策が進められている。
 48年に閣議決定された自然環境保全基本方針の中では、自然を、「?経済活動のための資源としての役割を果たすだけでなく、?それ自体が豊かな人間生活の不可欠な構成要素をなす。」としている。また、資源の持つ有限性に留意し、大量生産、大量消費、大量廃棄という型の経済活動に厳しい反省を加え、公害の未然防止に努めるとともに、経済的効率優先の陰で見落されがちであった非貨幣的価値を適正に評価し、尊重すべきことを指摘している。さらに、自然環境の適正な保全に留意した土地利用計画の下に、適正な規制と誘導を図り、豊かな環境の創造に努めなければならないとしている。
 これを受けて、我が国の自然環境保全行政は、原生自然環境保全地域のように人の手がほとんど加わっていない原始的な自然の保護や、国立、国定公園に代表されるすぐれた自然景観の保護、都市公園や緑地保全地区等による都市及びその周辺地域の緑地の確保や回復を目的とするものまで幅広く進められている。
 自然環境の保全については、それぞれの地域の特性や、都市、農山村、原生地域等対象とすべき自然に応じた対策が必要であることはいうまでもない。
 都市地域においては過密化の進行と市街地の外延的拡大に伴う緑地の減少から、人々の日常生活圏における緑地の価値が多くの人々に再認識され、その減少が危機感を持って受け止められるようになってきている。ここでは、国、地方公共団体、地域住民が力を合わせて、緑の保全と創出に取り組むことが必要とされている。
 自然性の高い地域が比較的多く残されている農山村地域においては、過疎化や人口構成の高齢化によって森林等の管理の担い手が不足し、生産構造の変化や都市的生活様式の浸透による地域社会の変貌が進み、人工林や二次林等の自然環境を支えてきた伝統的な社会的仕組が変容をとげつつある。
 従来このような地域社会における自然環境については、人々の生活や農林漁業等の生業と係わりを持ちつつ管理が継続される結果として、安定した生態系や景観、自然環境の持つ様々な保全機能が維持されてきた。
 自然環境を支えてきた社会的な仕組の変容は、これまで地域社会が保持してきたこのような自然環境保全の活力を弱体化しつつあり、自然環境の適正な管理の仕組とそれが持つ多様な機能に問題が生じている。自然と人間の接点である居住地周辺に維持されてきた山林、水面などふるさとの自然は、人間が活用することによって初めて保全されてきた環境であり、今後も保全と活用が同時に満たされる施策が必要である。このような自然は地域住民の心のよりどころや、景観の重要な構成要素となっており、また、レクリエーションや、教育、生産の場としての活用などの多様な可能性を持っているものであり、こうした可能性を生かせるような広い視野に立った施策が必要とされている。
 一方、貴重な自然の保護のための負担をそれぞれの地域社会にのみ求めるのでは公正を欠き、ひいては、保護が不十分となる場合がある。このため、自然公園などのすぐれた自然の管理体制の充実、利用の適正化とともに、自然環境の保護と利用に関する適正な費用負担、国民の役割等について合意づくりを進めていくことが必要である。
 今後の自然環境保全施策の推進に当たっては、自然の持つ一体性や多様な機能を生かし、「自然環境保全法」、「自然公園法」等に基づく諸施策の推進と併せ、自然環境の保全のための国民の積極的参加を生かすなど総合的取組が必要である。

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