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第2節 

3 環境対策と科学技術の相互依存

(1) 環境保全と技術開発の要請
 科学技術の開発、導入に当たってその環境に与える影響を考慮せず、適切な対策がとられなければ、既にみたとおり種々の問題が引き起こされることが明らかになっている。このため、近年、科学的な知見の集積と環境対策の整備が進められ、環境を改善するための科学技術の研究、開発も進められてきている。国立公害研究所、工業技術院などの公的研究機関において研究開発が進められるとともに、大規模かつ総合的な技術開発や抜本的な新技術の開発が、民間を含めた大型プロジェクトを編成し、推進されている。また、民間に対する助成措置も講じられている。例えば、公害防止施設等に対する融資や税制上の優遇措置、公害防止機器の開発等に対する補助金の交付などであり、規制措置と相まって公害防止関連技術の開発の促進に貢献している。
 政府、民間一体となった環境保全技術の研究、開発体制の整備もあって、近年、環境保全関係の研究費が大幅に増加している。第2-2-7図は、資本金1億円以上の民間企業、特殊法人、大学等における公害の防止と自然環境への影響などを解明するための試験研究費である。これによると、52年度には一時的に減少しているが、長期的には増加傾向にあり55年度には1443億円となっている。
 今後とも、汚染物質の発生を抑制する方法など、過去の経験に照らした科学技術の一層の促進が望まれる。


(2) 省資源・省エネルギーの進展
 近年の技術革新の動きの中には、企業の経営上の合理化の促進がそのまま環境の保全に役立っているものがある。その代表例の一つが省資源・省エネルギーである。省資源・省エネルギーは、資源が有限であるとの認識の高まりとともに、産業各分野で幅広く進められた(第2-2-8図)が、このような動きは天然資源やエネルギーの使用を減らし、汚染物質の排出量の減少などを通じて公害の防止に資することにもなった。
 まず、省エネルギーについてみると、鉄鋼業では、廃熱の回収、利用と熱ロスの縮小等の省エネルギーのための努力が工夫されている。また、セメント業でも余熱を生かしたNSPキルンなどの導入により、板ガラス製造業では、窯の集中化、大型化などにより省エネルギーが進められている。
 農業においても品種改良、太陽熱の利用技術の開発などにより自然のエネルギーを効率的に利用し、可能な限り石油を使わずに生産を行おうとするグリーン・エナジー計画が進められている。そのほか、各産業とも工場・事業場の照明、エレベーター利用の制限などに至るまできめ細かい省エネルギーを進めており、エネルギー使用量の伸びは生産活動の伸びに比べ大幅に低下してきている。
 次に、省資源の動きを工業用水量についてみると、用水量はほぼ横ばいを続けている。用水の再生利用、循環利用が進んでおり、事業所内で一度使用した水を冷却塔、戻水池、沈でん池、循環装置などの回収装置等を通じて回収使用する回収水の比率は50年の67%から56年の74%へと上昇してきている。
 廃棄物の再資源化技術も進んでおり、鉄、アルミニウムの回収、有機物質の堆肥化などの多くの実例がみられる。今後とも、このような資源リサイクル型技術体系への転換が環境保全上大きな効果を持つことになろう。


(3) 生態系を生かす技術
 長期的な観点から環境の保全を図っていくためには、自然における資源、エネルギーの流れや生物活動の特性を活用し、生態系との適合に留意していくことが重要である。
 自然の生態系には、微生物による有機物質の分解など、それ自体物質の循環を促し、環境を浄化する作用がある。しかし、汚染物質がこの浄化の能力を超えると、生態系の持つ働きが損なわれたり、その機能が低下したりすることになる。このため、科学技術の利用に当たっては循環容量の正確な把握、及び、生態系の作用を正確に評価するという視点が必要である。
 このような生態系を生かし、環境の保全に貢献している技術について、まず下水処理などを例にとりみることとする。
 現在、下水の処理に際しては、地形、河川の自浄能力等を勘案して処理が進められ、水質の改善に寄与している。今後は、下水処理施設の整備が地方中小都市へ拡大するに際し、地域の特性に応じた各種の技術を組み合わせていくことが、効率的に環境保全の効果を高めることになるものと考えられる。
 また、アスファルト舗装等により、都市においては雨水の浸透性が小さくなっており、大量の雨水が流出し、水害をもたらす事例もみられている。今後は、街路樹などの緑そのものを維持し、保水性を高めていくためにも、都市における雨水の浸透性を確保するための工夫をし、水の循環を維持し、生態系を保全していく必要がある。
 次に、経済社会活動を支える根幹ともいえるエネルギーについてみることとする。太陽エネルギーなどの自然のエネルギーの総量は、経済社会活動に必要なエネルギー量をはるかに上回るほど大きなものである。今後は、化石燃料などの使用に当たって環境の保全に配慮していくことは当然であるが、自然の循環を生かすエネルギー源の利用に着目していくことも重要である。このため、現在、太陽エネルギーや風力、波力などの活用技術、更にはバイオマス技術などの開発が進められており、今後の研究、開発が望まれる。
(4) 環境保全からみた技術の評価
 最近の技術開発の動向をみると、ファインセラミックス・分離膜などの新素材、遺伝子・酵素などに関するバイオテクノロジー、情報処理機器などの分野を中心に技術開発の進展が著しい。これら新技術に伴う新たな産業からは、かつてのような汚染の発生は比較的少ないと考えられるが、その環境へ与える影響にも十分留意する必要がある。
 これまでの経験に照らすと、技術の革新は人類に恩恵をもたらしたが、その利用の仕方によっては環境に影響を及ぼす要因となった面もある。今後は、技術開発に伴う影響を予見し、評価し、開発後もこれを監視し、環境問題が生じた場合は、速やかにその処理に当たることが必要である。我が国ではかつて理想的な農薬とされたDDTが販売禁止になったのはその例である。
 科学技術は国民生活の向上のためのものであり、問題が生じればその解決に当たるのがその役割である。現在と将来の世代にわたって、持続的な経済社会の繁栄を築いていくためには、環境を適切に管理し、維持していくための技術開発が求められている。

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