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第1節 

4 複雑化した問題

(1) 交通公害問題の状況
 近年、自動車の急速な普及、ジェット旅客機の就航、新幹線鉄道の登場など交通機関が目覚ましく発達し、これに伴い交通量も飛躍的に増加している。56年度において、国内旅客輸送量は、7,905億人キロ、国内貨物輸送量は、4,275億トンキロであり、それぞれ30年度の約5倍の水準に達している(第1-1-12図第1-1-13図)。
 これと同時に、都市部への人口の集中と市街地の拡大が進み、55年の人口集中地区(DID)の人口及び面積は、それぞれ35年の1.7倍、2.6倍に当たる6,993万人、10,016平方キロメートルとなっている。
 過密化した社会で、しかも各種交通機関が急速に発達したため、幹線道路、新幹線鉄道、空港などの大規模な交通施設の周辺の市街地等において重大な交通公害問題が発生している。
 また、各種の交通設備周辺での公害問題に対し、差止め、損害賠償を求める訴訟が提起されるなどの紛争や苦情がみられる。
ア 自動車交通公害
 自動車の著しい普及に伴い、自動車による国内旅客輸送量及び国内貨物輸送量は、56年度にはそれぞれ4,373億人キロ、1,813億トンキロと30年度の15.9倍、19.1倍に増加している(第1-1-12図第1-1-13図)。このような状況を背景として、特に大型トラックの交通量の多い幹線道路を中心とした道路周辺において、自動車交通公害が大きな問題となっている。
 都道府県、市町村及び特別区が当該地区の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じやすい地点で測定した自動車交通騒音の結果でみると、3,700測定地点のうち、朝、昼、夕、夜の4時間帯のいずれにおいても環境基準を達成している地点の割合は、17.2%(635地点)と低い。
 また、56年度の二酸化窒素による大気汚染の状況をみると、環境基準のゾーンの上限である0.06ppmを超過している測定局が、一般測定局の3.2%に対し、自動車排出ガス測定局では34.1%に達している。
 さらに、窒素酸化物を中心とする排出ガス、大型車等による騒音公害等のほか、ディーゼル車の増加に伴い、ディーゼル黒煙等ディーゼル排出ガスによる環境への影響が問題となっている。また、近年、積雪寒冷地におけるスパイクタイヤの使用に伴う粉じん等が問題となっている。
イ 新幹線鉄道騒音、振動
 新幹線鉄道は39年の東海道新幹線開業以来、57年の東北新幹線及び上越新幹線の開業により延長約1,800キロメートルに達している。旅客輸送量も40年度の107億人キロから56年度には417億人キロに増加している(第1-1-12図)。
 新幹線鉄道は国民の移動の利便に寄与しているものの、その一方で一部の沿線地域においては、騒音、振動が環境保全上大きな問題となっている。
ウ 航空機騒音
 ジェット機が就航し、その運航回数が増加したことにより、交通の利便が飛躍的に良くなった反面、空港周辺地域においては、深刻な航空機騒音問題が発生している(第1-1-14図)。


(2) 閉鎖性水域の状況
 水の交換が悪く、汚濁物質が蓄積しやすい湖沼、内海、内湾等の閉鎖性水域では、依然として環境基準の達成状況が低く、中でも後背地に大きな汚濁源がある水域では、水質保全のための条件は厳しい。
 湖沼について、環境基準の達成率をCODでみると、全体としては海域(COD)や河川(BOD)に比べ著しく低く、琵琶湖(滋賀県)、霞ヶ浦(茨城県)、諏訪湖(長野県)などの代表的な湖沼において未達成となっている。特に環境基準が達成されていない湖沼の中には、手賀沼(千葉県)を始めとして環境基準を数倍以上も超えるような著しい汚濁状態にあるものもみられる。
 海域について、広域的閉鎖性水域における56年度の環境基準の達成率をCODでみると、東京湾61%(55年度61%)、伊勢湾59%(同53%)、瀬戸内海81%(同71%)と横ばい又は上昇がみられた(第1-1-15図)。これらの3水域については、CODについて水質総量規制が導入されている。
 また、生活排水や工場排水などに含まれる窒素、リンなどの栄養塩類の流入により、プランクトンや藻類などの水生成物が増殖、繁茂し、いわゆる富栄養化が生じている。
 このため、湖沼では水道水の異臭味や浄水場のろ過障害の発生、魚介類のへい死、透明度の低下等による景観の悪化などがみられ、瀬戸内海、伊勢湾などの内海、内湾では、赤潮の発生などによって漁業被害や海水浴の利用障害、悪臭の発生、海浜の汚染、底質の貧酸素化など広く生活環境への被害が生じている。
 なお、瀬戸内海における赤潮の発生状況をみると、57年には198件(水産庁調べ)と過去最高であった51年の326件に比べ減少しているものの、依然としてかなり多い状況である。湖沼についてもアオコや淡水赤潮の発生がみられるものが少なくない。
 閉鎖性水域においては、一たび汚濁が進行すると水質の改善を図ることは容易なことではなく、自然の浄化能力に期待するだけでは将来的にも改善の見込みは薄いと考えられる。

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