1 海洋汚染の現況

(1)　港湾
　我が国の港湾やその周辺海域は、全体的にはその水質及び底質が漸次改善の方向に向かっているが、なお工場、事業場からの排水及び生活排水等が、河川を通じあるいは直接流入することによって汚染されている水域が多い。
　環境基準の類型当てはめが行われている海域のうち港湾区域内について、有機汚染の指標であるCODの環境基準値を超えない検体数の調査総検体数に対する割合をみると、55年度の調査結果では、A海域では76%、B海域では82%、C海域では97%、全体で83%となっており、海域全体での値82%、84%、96%、84%と比較してほぼ同様となっている。
(2)　日本近海
　環境庁では、前年度に引き続き56年度に日本近海海洋汚染実態調査を実施した。調査に当たっては、日本周辺を流れる海流を横断するように、日本沿岸から「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」で定められている重金属等を含む汚でい等を固型化したものの排出海域(A海域)の中心を通る5測定線を設け、それらの測定線上の合計47測定点において一般の海洋観測項目のほか、海水及び低泥中の重金属濃度等について調査を実施した。今までの調査結果では、日本近海における海水の重金属等の濃度は、過去諸外国が大西洋において行った調査等において海水中の自然存在量として報告されている濃度と比較して問題となる値ではないことが確認されている。
　海上保安庁では、海洋環境保全のための基礎資料を得ることを目的とした調査を実施しており、前年度に引き続き56年度においても我が国周辺海域及び主要湾等において、海水及び海底堆積物中の油分、PCB及び重金属等の調査を実施した。また「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」で定められている重金属等を含む汚でい等を固型化したものの排出海域(A海域)に投棄された廃棄物の漏えい拡散状態を解明するため、深海底層流観測及び海底地形調査を実施するとともに海底直上の海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属の調査を実施し、特に汚染の進行が認められないことを確認した。
　さらに、廃油ボールの漂流、漂着の原因の探求と防止策の確立を図るため、46年以来、わが国の周辺海域及び沿岸部における廃油ボールの漂流、漂着状況について定期的な調査を継続している。56年1月から12月までの調査によると、南西諸島から伊豆諸島に至る黒潮流域及びその南側海域には、常時廃油ボールが漂流しているものと推定され、また南西諸島海域においては、その他の海域に比べ廃油ボールの漂着が依然として多く認められた。
　一方、海上保安庁が最近3カ年間に確認した我が国周辺海域における汚染の発生状況は第3-4-1表のとおりで、56年においては1,244件と55年に比べ337件、約21%減少している。
　56年における海洋汚染発生確認件数のうち油による汚染は991件と全体の80%を占め、これを海域別にみると東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海(大阪湾を含む)において48%に当たる477件が発生している。また、排出源別にみると、船舶からのものが668件と67%を占め、このうち315件(47%)が取扱い不注意、146件(22%)が故意排出によるものである。なお、排出源不明のものは279件(28%)であるが、そのほとんどが船舶からの排出と推定されている。また、廃棄物、工場排水等の油以外のものの排出による汚染は142件と全体の11%を占めており赤潮は111件と全体の9%を占めている。
　次に外国船舶による海洋汚染についてみると、56年において外国船舶が入港隻数に占める割合は5%であるのに対し、船舶を排出源とする油による海洋汚染発生件数に占める割合は39%と著しく高率になっている。
　一方、気象庁では、海洋における汚染物質の全般的濃度を把握するための海洋バックグラウンド汚染観測を、47年度から日本周辺及び西太平洋海域で実施している。それによると、沿岸海域においては外洋海域に比べて相対的に高い濃度の水銀、カドミウム、油分が認められたが、これらの汚染物質の濃度はいずれも環境基準値を超えていない。また、廃油ボールの分布には、風と海流の影響が現われており、北緯20度以南及び本州と九州の南方では少なく、南西諸島の南方に多い。なお、油膜は認められなかった。