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第4節 

1 化学物質の安全性に関する施策の推進

(1) 昭和48年10月に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下「化学物質審査規制法」という。)が制定され(49年4月施行)、新規の化学物質については、自然的作用により化学的変化を生じにくく、生物の体内に蓄積されやすく、かつ、継続的に摂取される場合には人の健康をそこなうおそれがあるかどうかを、その製造又は輸入前に審査を行うとともに(新規化学物質の事前審査)、それらの性状をすべて有する化学物質(特定化学物質)について、製造・輸入・使用等の規制を行っている。(第1-4-1図)
 新規化学物質の届出は、厚生大臣及び通商産業大臣に対して行われ、56年末までに1,410件の届出があり、830物質が特定化学物質には該当しないものとして公示され、その製造及び輸入が認められている。
 一方、既存化学物質の安全性の確認については、通商産業省において化学物質の微生物による分解度、魚介類への濃縮度を、厚生省においては毒性を、また、環境庁においては環境中における化学物質の存在状況について調査・点検を進めている。
 このような既存化学物質の点検の結果を踏まえ、56年には、アルドリン、デイルドリン、エンドリン及びDDTの4物質を特定化学物質として追加指定した。これにより現在特定化学物質に指定されている化学物質は7物資となっている。


(2) 通商産業省においては、既存化学物質の安全性を点検するため、順次、微生物による分解度及び魚介類への濃縮度の試験を実施している。これまで特定化学物質の代替品、特定化学物質の構造類似物、生産量又は輸入量が多い物質、構造面から見て安全性を確かめる必要がある物質等を中心として(財)化学品検査協会に事業補助を行い、分解度及び濃縮度の試験を実施している。49年度以来点検を行っており、56年12月末現在、約370物質が分解性良好又は濃縮性が低いと判断されている。また、こうした点検作業の周知徹底の措置が講じられている。
 更に、通商産業省においては、これらの既存化学物質の点検を迅速かつ有効に進めるため、嫌気性微生物による分解度試験法、揮発性物質等の分析法及び非水溶性物質の魚介類濃縮度試験法の開発等を継続的に進めている。56年度には、海洋性微生物による生分解試験方法の開発、無機化合物及び高分子化合物の濃縮度について試験法等の確立等を目指して検討を加えた。
 また、現在までに得られた化学物質の安全性データを新規化学物質の審査及び既存化学物質の総点検に有効に利用するためのコンピューターを用いたシステムの開発を行っている。
 厚生省においても、同様の必要性から、既存化学物質の安全性を点検するため順次、化学物質の毒性試験を実施している。
(3) 環境庁においては、49年度以来、化学物質の環境中のレベルを調査してきたが、数万といわれる既存の化学物質を効率的、体系的に調査し、それらの環境における安全性を評価することが必要であるため、51年度からその体系づくりを進め、54年度からは新たな体系(化学物質環境安全性総点検体系)により化学物質の環境安全性の点検を開始した。
 この体系(第1-4-2図)においては、次のような3つの大きなステップを踏んで点検が行われる。すなわち、第1番目のステップでは、環境残留性が高いと予想される化学物質を抽出する(年間50物質程度)。第2番目のステップでは、これらの物質について環境汚染の実態調査を行い残留性化学物質を抽出する(年間2〜3物質程度)。第3番目のステップは、検出された化学物質に対して生態影響テストを行うとともに、必要に応じ生物モニタリングを行う。
 56年度には、この化学物質環境安全性総点検体系に基づき、以下のとおり各種の調査研究を実施し、その成果を現在とりまとめ中である。
 ステップの1としては、?スクリーニングテストの改良、?GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析計)による検索・同定技術の調査研究を実施した。
 ステップの2としては、?81物質に対する一般環境調査、?環境残留性の疑われる2物質に対する精密環境調査を実施した。
 ステップの3としては、?ミジンコウキクサ等の植物及びミジンコ等の水生生物を使用した生態影響テストを行い、?北海道沖、東京湾等の定点でのシロザケ、スズキ等を対象とした生物モニタリングを実施した。
 また、56年度には、以上の他にも、化学物質環境運命予測手法開発調査等の関連調査研究を進めた。


(4) その他、関係省庁においては、OECDにおける化学品規制の調整作業に積極的に対応し、国内の化学物質安全確保に資するために、OECD理事会において、採択された生態影響評価試験法等について国内導入のための評価作業や、一定のデータから化学物質の安全性について総合的に評価するための手法について検討を行っている。
(5) 化学物質対策の国際的動向
 化学物質による環境汚染の問題に対処するため、製造・輸入又は市場化前に、化学物質の安全性を評価するための法律が、我が国のみならず、スイス、スウェーデン、カナダ、アメリカ、ノールウェー、フランス、デンマーク、西ドイツ等で整備されており、更に、フランス、西ドイツ以外のEC諸国も、56年9月までに、EECの指令(危険物質の分類、包装、表示に関する加盟国の法律の近似化に係る指令67/548/EECの第6次修正)に従い、化学物質の安全性を市場化前に評価するための届出を義務づける国内法を整備することとなっている。
 このような各国の動きを背景として、各国における化学物質の安全性を評価するための基礎となる試験手法の内容及びデータの質の相違が化学品貿易上の非関税障壁となることを防止する必要性及び各国における試験の重複実施による非効率性を避ける必要性が生じてきた。
 更に、数万点以上といわれる化学物質に対する安全性の点検は一国ではなし得ないほど膨大な時間と費用を要するという問題がある。経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)等の国際機関は、これらの問題を解決するため、次のよに種々の活発な活動を主宰するようになった。
ア OECDの活動
 OECDにおいては、53年から化学品テストプログラムの下で、ステッシステム(評価項目及び評価手法)に関するグループ等6専門家グループが設置され、又化学品規制特別プログラムの下にGLP専門家グループ等4グループが設置された。前者6グループでは、分解性、蓄積性、物理化学性状、短期・長期毒性、及び生態毒性の試験手法ガイドライン等の研究が行われ、後者の4グループでは、優良試験所基準原則等の検討が行われた。わが国は以上の活動に積極的に参加してきている。そして56年5月には「化学品の評価におけるデータの相互受理に関する理事会決定」がなされた。この決定は、人及び環境の保護に関連する評価等のために、0ECDテストガイドライン(化学品安全性試験法)及びOECDのGLP原則(試験機関の要件)に従ってOECD加盟国で作成された化学品の試験データは他の加盟国により受理されることを主たる内容とし、さらにテストガイドライン及びGLPの原則の加盟国の採択についての勧告が含まれている。
 化学品テスティングプログラムでは、引き続きステップシステム・グループを存続させ、化学品のHazardAssessment(危険性評価)プロジェクトを実施している。また、理事会で採択されたOECDテストガイドラインの改定を行うため、“UpdatingPanel”を設け、最新の知見に基づくガイドラインの技術面の検討を継続して行うこととしている。
 また、54年に開始された化学品規制特別プログラムにおいては、56年末にGLP原則、データの守秘性等につき各専門家グループの作業のとりまとめが行われ、これらの成果については、データの相互受理の円滑な実施等のため、今後その活用が図られることとされている。さらに、57年1月からは、既存化学品に関するプロジェクトが発足し、化学品に関する情報のレビュー等を中心に検討作業が開始された。
 今後とも、OECDにおいては、化学物質対策の技術面及び制度面の国際的協調につき、活発な活動が行われるものとみられ、我が国としても引き続き、積極的にこのような活動に参加貢献していくこととしている。
イ WHOの活動
 WHOでは、水銀、PCB、窒素酸化物の化学物質が人の健康に及ぼす影響を総合的に評価して、この内容を環境保健クライテリアとして公表してきた。この事業は、当初WHOの事務局が評価原案の作成を外部の専門家に委託する方式で行われたため、その成果はわずかしか得られなかった。
 このため、53年のWHO総会決議に基づき、次の目的を達成するために、各国の主な研究機関の有機的な協力による国際化学物質安全性計画(InternationalProgramme on Chemical Safety. IPCSと略す。)が55年から開始された。
? 既存の公表文献を収集し、検討し、化学物質が人の健康に及ぼす影響を評価すること。
? 化学物質の安全性評価のための方法の確立及び改善を行うこと。
? 化学物質災害対策を推進するための国際協力を実施すること
? ?〜?を行うための人材の養成、訓練を推進すること
 なお、この評価の対象とされる化学物質の範囲は、家庭用化学物質、大気、水、食品中の汚染物質、化粧品、食品添加物、天然毒物、工業薬品及び農薬等とされており、医薬品は除外されている。
 本計画には、我が国の専門家が初期の段階から、検討に参加してきており、55年5月から国立衛生試験所が環境保健クライテリア案をとりまとめ、専門家会合を開催する我が国のリード機関(LeadInstitution)としての活動を開始するとともに、新たに安全性評価方法の開発にも協力することとなった。
 また、本計画の骨子について専門的意見を述べる計画諮問委員会(Programme AdvisoryComittee)には我が国からも専門家が参加した。
 なお、本計画には、現在WHO、UNEP及び国際労働機関(ILO)が参加している。
ウ UNEPの活動
 UNEPにおいては、?化学物質の人及び環境への影響に関する既存の情報を国際的に収集、蓄積する、?化学物質の各国の規制に係る諸情報を提供する等の目的で、国際有害化学物資登録制度(IRPTC)が実施されている。IRPTCはUNEPの世界環境モニタリングシステムの一部を担っており、実施センターをジュネーブに置き56年2月現在90か国に98カ所のナショナルコレスポンデント(NC)を設置し、情報の収集、蓄積及び提供活動を行っており、我が国においては、54年4月から国立衛生試験所がNCとなっている。
 IRPTCによる情報の収集、蓄積活動の主な成果はデータプロファイルであり、これまでに「地中海環境汚染の評価のための化学物質データプロファイル」等数種のデータプロファイルが刊行されている。
 また、情報提供活動の主たるものは、質問・回答サービスとIRPTCBulletinの発行である。質問・回答サービスについては、各国からの照会に対し、NCにおいて取りまとめの上回答が行われている。
エ 二国間協力
 以上述べた多国間協力に加え、二国間協力活動も次第に拡大する傾向にある。
 米国との間には、日米環境保護協力協定に基づき「有害物質の識別と規制パネル」が設置されており、56年11月には、ワシントンにおいて第5回会合が開催され、日本の化学物質審査規制法の施行状況、化学物質環境安全性総点検体系の概要及び米国の有毒物質規制法の施行状況につき情報交換を行った。

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