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第3節 

2 環境影響評価の推進と制度化

 我が国における環境影響評価の推進と制度化の経緯を振り返ってみることとする。
 我が国では、40年代初めから大規模工業開発予定地域を対象として、産業公害総合事前調査が実施されていたが、本格的な環境影響評価への取組は、47年6月の「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解が始まりであった。この閣議了解において、政府は道路、港湾、公有水面埋立て等の各種公共事業について「あらかじめ必要に応じ、その環境に及ぼす影響の内容及び程度、環境破壊の防止策、代替案の比較検討等を含む調査研究を行い、その結果に基づいて所要の措置をとるよう事業実施者を指導すること」とした。また、地方公共団体においても、これに準じて所要の措置が講ぜられるよう要請することとされた。
 翌48年には第71回国会において、「港湾法」、「公有水面埋立法」、「工場立地法」の一部改正、「瀬戸内海環境保全臨時措置法」(53年の第84回国会で「瀬戸内海環境保全特別措置法」と改称)が制定された。これにより港湾計画の策定に際し、環境に与える影響について事前に評価することとされ、公有水面の埋立てについて環境保全に対する配慮が免許基準として明文化される等環境保全上の配慮が強化された。
 52年11月に閣議決定された第三次全国総合開発計画においては、「この計画に基づき実施される事業については、その具体化に当たって、住民の意向を反映するとともに適切な環境影響評価等を実施することとし、環境影響評価の技術手法の開発を促進するとともに効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制の整備を図る必要がある。」と明記され、事業を実施するに当たっての環境影響評価の必要性が強調された。
 また、むつ小川原総合開発計画第二次基本計画や児島・坂出ルート本州四国連絡橋事業については、個別に国による環境影響評価の行政指導が行われ、調査、予測及び評価の項目を定めるとともに、地域住民等の意見聴取の手続をもあらかじめ指針に定めて実施された。
 更に、これらの実績を踏まえて、公共事業では53年7月から「建設省所管事業に係る環境影響評価に関する当面の措置方針について」(建設事務次官通達)により、環境影響評価が実施され、54年1月からは「整備五新幹線に関する環境影響評価の実施について」(運輸大臣通達)により日本国有鉄道及び日本鉄道建設公団に環境影響評価を行わせることとした。公共事業以外でも通商産業省は52年7月に「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」の省議決定を行い、電気事業者などの環境影響調査及び通商産業省の環境審査の強化を図ることになった。これを受けて54年6月には、通商産業省資源エネルギー庁長官から「環境影響調査及び環境審査に伴う地元住民等への周知等の措置要綱」等を定めた「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の実施について」が通達として出され、電源立地に際しての環境アセスメントについて、より具体的な行政指導が行われることとなった。
 一方、地方公共団体においては、47年の閣議了解に基づき国に準じて所要の措置を講じるよう要請されたことなどを契機として、各種事業についての環境影響評価が実施され、また制度化が進められてきている。条例による環境影響評価の制度化は51年10に川崎市が「川崎市環境影響評価に関する条例」を制定したのを始め、53年7月には北海道、55年10月には東京都、神奈川県と続き現在4地方公共団体が条例を制定している。また、48年の福岡県を始めとし16の府県、政令指定都市が要綱等により環境影響評価を行っている。その他の府県においても制度化の検討を進めているが、一方で地方公共団体は、国が環境影響評価に関する統一的な手続法を制定するよう要望しているところである。
 このように前記閣議了解に沿って、環境影響評価の体制が順次整備されてきているが、この閣議了解では対象となる事業の範囲や調査の手法、住民の意向を反映するための手続などを具体的に定めていないこともあり、事業の種類に応じて、また地域に応じそれぞれ異なった措置が講ぜられているのが現状であり、そのため、制度面からみれば統一的な手続内容とは必ずしもなっていない。こうした中で中央公害対策審議会は3年余の審議の結果、54年4月「環境影響評価制度のあり方について」答申を行い、環境影響評価制度の確立の必要性、環境影響評価制度の内容について述べるとともに、環境影響評価の制度化の方法として、「環境影響評価の制度の確立を図り、統一的準則を示すことが必要である。その方法としては種々のものが考えられるが、(中略)法律によることが最も適当である」とし、「速やかに法制度化を図るべきである」という方針を示した。このため、政府は環境庁を中心として法制度化について検討、調整を進めてきたが、55年5月には、政府案がとりまとめられ翌56年4月環境影響評価法案として第94回通常国会に提出されるに至った。同法案は、同年6月衆議院において継続審査となったが第95回臨時国会に至り衆議院環境委員会で、提案理由説明が行われ、審議は第96回国会にもちこまれた。

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