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第3節 

1 環境汚染の未然防止と環境影響評価

 公害の発生や自然環境の破壊はいったん起こると、その対策には多くの費用と年月を要し、また、完全な回復は期し難い。このため、このような環境汚染を未然に防止することが求められている。我が国の環境政策は産業公害を中心とする深刻な公害の発生から国民の生命、健康を守るという緊急の社会的要請を受けて整備、展開され環境基準の設定、排出規制の実施等により企業の努力ともあいまって危機的な状況を脱することができた。
 しかし、これらの政策は著しい環境汚染や自然環境の破壊に対するいわば応急措置的、事後的なものであった。人の健康を例にとってみると、病気の治療はもちろん必要であるが、重要なことは予防や日々の健康管理であると言われるが、環境問題についてもその真の解決のためには一度起こった公害を除去するのみでなく、二度と公害が発生しないように環境汚染を未然に防止し、環境について適正な管理を行い、快適な環境を実現していくことが重要となってきている。また、国民は、その住んでいる地域に大規模な事業が立地する場合にどのように環境保全が図られるかについて大きな関心を払うようになってきている。
 環境影響評価、いわゆる環境アセスメントは環境汚染、自然環境の破壊を未然に防止するための有力な一つの手段である。すなわち環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施に際し、その環境に及ぼす影響について事前に十分調査、予測及び評価を行うとともに、その結果を公表して、地域住民等の意見を聴き十分な公害防止等の対策を講じようとするものであり、その重要性は今日一段と高まっている。このような環境影響評価の重要性の高まりは世界的な流れでもある。
 国際的にみると、アメリカで昭和44年に「国家環境政策法」を制定し、環境に著しい影響を及ぼす連邦の主要な行為について、環境影響評価書の作成を義務づけたのを始めとして、スウェーデン、オーストラリア、西ドイツ、フランスなどの諸国において、それぞれの国情に応じ、環境影響評価の実施又は制度の確立をみている。また、49年にはOECD(経済協力開発機構)において、環境影響評価の手続、手法等の確立についての理事会勧告が、54年5月には「環境に重要な影響を与える事業の評価」についての理事会勧告が採択されている。このように環境汚染の未然防止を図ろうとする環境影響評価は国際的にも共通した課題となっているが、特に狭あいな国土に1億を超える人口を擁し、さまざまな経済社会活動が行われている我が国において、環境影響評価を行うことは重要である。
 現在、我が国においては、各省庁の行政指導や地方公共団体の条例または要綱等により、特定の事業ごと、地域ごとに環境影響評価が実施されてきている。しかし、その手続などはそれぞれ異なっており、また、評価手順等が十分整備されていないものもある。
 55年度に内閣総理大臣官房広報室が行った国政モニターに対するアンケート調査「環境影響評価について」によると、「環境影響評価」という言葉を知っている者は94%に達しており、また「開発事業を進めるに当たって環境影響評価を当然行う必要がある」が圧倒的に多く、「場合によっては行う必要がある」を合わせると99%となり、その必要性の認識は、深く国民に根づいている。また、環境影響評価を法律で行うことの必要性については「大規模な事業は法律で行い、それ以外の事業は必要に応じ条例で行えばよい」が56%、「法律で全国的に行えばより」が18%であり、合わせて74%に達している。

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