1 経済活動の世界的拡大
(1) 人口の増加
人口の増加は食糧、エネルギー、資源への需要圧力となるだけでなく、大気、水、土壌等の環境に圧力を加えることとなる。
世界人口は1975年に40億人を超え、国連の推計では、今後更に人口は増加し、西暦2000年の世界人口は約62億人に達するとされている。1975年から2000年の間に増加するとされている21億5,000万人のうち、北アメリカ(メキシコ以北)、全ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、ソ連などからなる先進地域での増加は1億8,000万人で全体の占める割合は10%弱にすぎないが、開発途上国は19億9,000万人で90%強を占めることになる(第2-3-1図)。
第2-3-2図にみられるように、世界銀行によると、工業国では出生率が低下を続け、死亡率も低くこの傾向は今後も持続するものと考えられている。一方、中所得国、低所得国は出生率、死亡率ともピークはすぎ、下降線をたどっているが、その水準は高く、また、出生率が大幅に死亡率を上回っている。このため、国連の推計に示されるように、今後かなりの期間、世界人口は増え続けるものと思われる。
開発途上国では貧困こそが生活環境上の最大の問題であるといわれている。工業国においても程度の差こそあれ所得分配格差が存在するが、開発途上国においては、その格差が大きく、人間が生存するための基本的ニーズが満たされない、いわば絶対的貧困が広範に存在する。世界銀行は、絶対的貧困状態にある人口の推計を行っているが、それによると、1980年現在、中国を除く開発途上国で約7億5,000万人となっており、中国を除く開発途上国の総人口の3分の1に及んでいる。2000年の絶対的貧困人口は、経済開発等がうまく進んだとしても、なお約6億3,000万人(中国を除く開発途上国総人口の約18%)が存在し、経済開発等がうまく進まない場合には約8億5,000万人に達する可能性もあるとされている。
人口は、増加率では低下の傾向を示してはいるが、絶対数は増加を続けており、それは経済開発による成果を減殺するだけでなく、絶対的貧困からの脱却の大きな障害となっている。
(2) 経済開発の進展
1950年代、60年代の先進国を中心とした経済成長の過程では環境汚染の進行がみられた。一方開発途上国では、先進国との格差、いわゆる南北格差の拡大とともに絶対的貧困の増大がみられ、その解決が国際社会の中心的な課題となった。このため国連は、1960年代を「国連開発の10年」と名づけ、5%の経済成長を目標とした開発途上国の経済開発を国連を中心に推進することとなった。
第2-3-3表にみられるように工業国の国民総生産の年平均伸び率は、1960年代には5.0%であったが、1970年代は石油危機等により3.1%へ低下した。開発途上国は1960年代には「国連開発の10年」の目標を上回る5.6%の経済成長率を達成した。1970年代も5.3%と、1960年代を若干下回ったものの、高い成長率を維持した。特に、東アジア、大洋州地域の中所得国は、60年代、70年代を通じ高い成長を達成し、しかも次第にその成長率を高めてきている。
しかし、低所得国のうちサハラ以南のアフリカ諸国、アジア諸国の成長率は低い。特にサハラ以南のアフリカ諸国は、1970年代に成長率が下がったことと人口の増加率が高かったため1970年代の1人当たり国民総生産の伸び率はわずか0.2%にとどまっている。
経済成長が期待どおり進まなかった開発途上国では、農業を軽視した国が多かった。このため経済開発に関する考え方は変化してきている。すなわち、工業化は生産性の向上と成長にとって重要であるが、同時に工業化は、広範な基盤をもった農業の発展によって支えられていることが広く認識されている。このため、工業化とともに農業開発が推進されているが、これは焼畑農業等による農地の拡大とともに肥料や農薬の利用の増大を伴う。
リン酸肥料の消費量を例にとってみると、1970年から1978年の間に世界全体では35%の伸びとなっており、北アメリカ15%、ヨーロッパ11%と伸びが低いのに対し、アフリカ59%、アジア76%と開発途上国の地域では高い伸びを示している。
また、経済成長にとって、エネルギーは必要不可欠のものであるが、1970年代の2次にわたる石油危機は工業国、開発途上国ともに大きな影響を与えた。工業国においては成長率が低下した。開発途上国では、エネルギー価格が上昇したにもかかわらず、工業、農業の経済開発の推進及び都市化の進展のため、エネルギー需要は持続的に増大している。このため、多くの低所得国は、輸入エネルギーの代りに木材燃料を大量に使用するようになったが、このことが森林減少の一因となっている。
現在、木材の燃料としての使用は、開発途上国の全エネルギー消費の約4分の1を占めているといわれている。特に、アフリカでは60%近くを木材に依存しており、村落周辺の樹木はほとんど伐採され奥地まで森林伐採が進むとともに、動物のふんなどの有機燃料も利用されるに至っている。これらが森林減少や、有機肥料の減少に伴う土地の肥沃度の低下の要因となっている例もみられる。