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第3章 環境保全の役割

 この10年余りの間、環境汚染の防止と自然の保護という二つの方向で環境政策は急速に整備されてきた。この結果、環境汚染は全般的に改善が進み、原生自然域を中心に自然の開発に対しては、慎重になってきているといえる。しかし、第1章でみたように、地域的にはその種類、発生源とも区々であり、局地的ではあるが、改善か進みにくい公害も多く、あるいは悪化が続いている公害もあって、我々の生活は依然として多様な公害に取り囲まれているのが現状である。また、原生自然、人為自然、都市という三つの環境相において我々の自然に対するニ―ズが増大する中で、現在はもちろん長い将来を含めて、人間の活動に対して自然がもっている意味を根本的に見直し、その活力を積極的に活用していかなければならなくなっている。
 第2章では、産業化に伴う人工の物質・エネルギ―の流れの増大と都市化を伴った環境利用の高密度化という視点から、廃棄物と化学物質の環境問題の中での重要性を示すと共に、環境汚染の地域的集中と自然改変のメカニズムを明らかにし、その中で公害防止と省資源・省エネルギ―が環境汚染の改善に与えた効果を明らかにした。これによって産業化と都市化の進展に伴って環境汚染と自然改変という二つの環境に対する負荷が増大する中で、人工の物質・エネルギ―の流れに着目してこの流れから生み出される環境負荷の管理を適切に行っていくことがますます重要になっていくことを示した。
 第3章では、既に高密度な環境利用が行われている我が国の国土において、人工の物質・エネルギ―の流れの拡大とその地域的な集中が進んでいくという基本的な動態の中で、環境と人間活動とのより望ましい係わり合いを目指して進められているト―タルな環境保全の動向を明らかにする。
 そのため、まずこれまで危機的な環境破壊の防止を中心に進められてきた公害防止施策の成果とその政策手段の多様化の進展を、環境利用の規制と廃棄物の管理という視点から跡づける。次に、従来の事後的、対症療法的な公害防止の限界を越えて、総合的、構造的かつ計画的な環境保全の展開を目指した環境影響評価の推進と環境管理の進展の動きを明らかにするとともに、環境の快適性という新しい価値尺度の追求を通じて進んでいこうとしているト―タルな環境経営の可能性を見ていく。
 土地の形状の変更、工作物の新設等の実施に際し、公害の防止及び自然環境の保全について適切な配慮がなされることを期するため適切な環境影響評価を実施するとともに、これを含めた環境の修復、改善と悪化の未然防止のための諸施策を総合的かつ計画的に講ずる環境管理を推進していかなければならない。
 ト―タルな環境経営は、人工の物質・エネルギ―の流れを適切に制御していくことを通じて、従来、産業、都市、国土の開発を主導してきた効率主義と機能主義がもたらした環境利用の歪みを是正しながら、生活空間における歩行の復権、自然との共生関係の再生、歴史の連続性の回復を通じて住民、企業、地方自治体、国の共同作業によって我々の共有財産である環境を快適なものに創造していくことである。

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