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第1節 

5 公害苦情

 環境汚染の変化を反映して人々の公害に対する反応がどのように変わっているか、公害苦情の推移によって概観してみよう。
 公害苦情の総件数は42年度の2万8、000件から47年度には8万7、000件までに急増したが、緊急性の高い深刻な公害を中心に公害防止が進められた結果、47年度をピークとして公害苦情件数は減少に転じ、47年度を100とした指数で、51年度の公害苦情件数は79.8と公害苦情の面でも公害がかつての危機的な状況は脱したことを示している。
 しかし、51年度以降この苦情の減少傾向は鈍化を示し、同じく47年度を100とした指数で、54年度の苦情件数は79.1とほぼ横ばい状況で推移している、このことは、発生源の多様化と都市域への集中を伴った公害の全国的な拡散が進む中で、環境基準の維持達成のために一層の努力が必要な汚染因子が多く、我々は依然として多様な公害にとりこまれていることを示している。
 このような公害苦情の推移を、公害苦情の地域分布を種類と発生源の別に47年度から54年度にかけての変化によって見ていく。地域分布では、東北、関東、九州での公害苦情が全国的な比重を高め、都市規模では20〜50万人規模の政令布(「公害紛争処理法施行令」第20条による。以下同じ)で増加し、特別区と政令市を除く人口5万以上の都市と町村で公害苦情が相対的に多くなっており、大都市周辺地域や地方都市さらに市町村へと全国的拡散傾向を示している。また用途別地域では「住居地域」を中心として「都市計画区域」へ公害苦情の集中傾向が強まっている。
 公害の種類では「典型7公害以外」(54年度では「廃棄物」と「空地管理」に冠する苦情が46.6%を占めている)の苦情が増加しており、「典型7公害」(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭)は全体として減少後近年横ばいとなっている中で「騒音・振動」苦情の比重が高くなっている。発生源別では「建築・土木工事」、交通機関」、「家庭生活」、「商店飲食店」が増加し、公害発生源は多様化している。
 公害苦情の内容の変化を地域別に見ていくため、全国6ブロック(北海道・東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州)について、地域ごとに公害の種類と発生源別の変化を47年度に対する54年度の苦情件数の比率で見たのが第1-1-11図(公害の種類、発生源の54年度/47年度の全国の平均比率を1とし、これに対する地域別の比率の比率を算出したもの)である。公害の種類では「典型7公害」全体では各ブロックとも全国平均に近い減少を示しているが、「典型7公害以外」の苦情では関東の伸びが高くなっている。個々の公害の種類ごとに見ると「騒音・振動」では北海道・東北、中国・四国、九州で、「大気汚染」では近畿、北海道・東北、中国・四国で、「悪臭」では九州、中部などで公害苦情の減少の度合いは全国平均を下回っている。
 これを発生源ごとにみると、「製造事業所」の減少傾向は各ブロックとも全国平均に近い減少を示しているが、「建築・土木工事」では北海道・東北、中部で、「交通機関」では北海道・東北、関東で、「牧畜・養豚・養鶏」では北海道・東北で、「娯楽・遊興・スポ―ツ施設」では関東で、「家庭生活」では中部、中国・四国、九州で公害苦情の減少の度合いは全国平均を下回っている。
 公害苦情件数の増減を個々の地域ごとに見ると、地域によって公害の種類と発生源は区々であるが、各地域とも改善傾向の鈍い公害あるいは増加を続けている公害をかかえていることがわかる。これを都道府県について発生源別に、全国平均の減少度合いよりも鈍いものに「◎」印、増加を続けているものに「●」印をつけたのが第1-1-12表である。地域によって公害の発生源は区々であるが、改善の進みにくい特有の公害発生源をかかえ、全国的には改善傾向を維持している中で、公害は個々に地域的な集中と全体として全国的拡散を続けているといえる。

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