2 窒素酸化物対策
(1) 二酸化窒素の環境基準に基づく地域区分等
二酸化窒素に係る環境基準については、53年7月に環境庁告示第38号(以下、単に「告示」という。)をもって「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること。」と改定されるとともに、1日平均値が0.06ppmを超える地域については、原則として7年以内に0.06ppmが達成されるよう努め、また、1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域については、原則として、このゾーン内において、現状程度の水準を維持し、又はこれを大きく上回ることとならないよう努めるものとされた。
このように、今回の環境基準は幅をもって示されているが、これは、人の健康保護のための二酸化窒素濃度の指針について幅をもって示された中央公害対策審議会の判断を尊重するとともに、二酸化窒素による汚染には地域差があること等を考慮し、地域の濃度水準に応じてそれぞれ行政上の努力目標を定めて着実な対策を実施していくものとすることが窒素酸化物対策の推進上適切であると判断されたことに基づくものである。
環境庁では、環境基準の具体的な運用を図るために、告示に規定する「1時間値の1日平均値が0.06ppmを超える地域」及び「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域」が具体的にどの地域に該当するかの区分を行い、54年8月その結果を各都道府県知事・政令市長あて通知した(第2-3-6表)。
この地域区分は、大気汚染防止法施行令別表第3に規定する地域(K値地域)の区分を参考に、52年度における1日平均値の年間98%値について、一般環境大気測定局のうち上位3局の平均値が0.06ppmを超えるか、又は0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にあるかによって区分することを基本的考え方とし、更に地域の個別具体的事情に即して検討を加え、行われたものである。
この地域区分を踏まえ、「1時間値の1日平均値が0.06ppmを超える地域」と区分された東京都特別区等をはじめとする全国の6地域においては、60年までに、1日平均値0.06ppmを確保することが最も緊急度の高い課題であることにかんがみ、54年度には関係都府県において総量規制の導入に関する具体的な調査を実施した。
また、「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域」については、「原則として、このゾーン内において、現状程度の水準を維持し、又はこれを大きく上回ることとならないよう努めるものとする。」との原則が示されているが、今後、同原則の具体的な運用方針については、関係地方公共団体とも緊密な連絡をとりつつ決定していくこととしている。
(2) 固定発生源対策
? 第4次規制の実施
ばい煙発生施設に対する窒素酸化物の排出基準は、48年8月に設定され(第1次規制)、その後、50年12月(第2次規制)、52年6月(第3次規制)と強化・拡充が行われ、54年8月には、従来規制対象となっていないばい煙発生施設の中にも環境濃度への寄与が無視しえない施設があったことから、残されたばい煙発生施設について排出規制を拡充すること等の第4次規制を実施した。
第4次規制の主な内容は、次のとおりである。
(i) ガス発生炉、加熱炉、焼炉、焙焼炉等の施設を新たに規制対象に加え、新設施設及び既設施設にかかる基準値を設定した。
(ii) ペレット焼成炉、アルミナ製造用焼炉、廃棄物焼却炉(連続式に限る)については、対象施設を小規模施設にまで拡大するとともに、既設施設についても対象に加えた。
(iii) 既設のボイラー及び加熱炉に係る排出基準の一部を強化した。
4次規制の強化により規制対象施設数は、従来の約13,000施設から約105,000施設へと大幅に増加し、規制対象施設から排出される窒素酸化物の量は、全ばい煙発生施設からのそれの約95%になった。
なお、窒素酸化物の排出規制の経緯及び排出基準値については、それぞれ、参考資料17及び参考資料18のとおりである。
? 総量規制導入に関する調査
二酸化窒素に係る環境基準に照らせば、環境基準のゾーンの上限(1日平均値の年間98%値が0.06ppm)を超えている地域について、60年までに、1日平均値の年間98%値が0.06ppmを達成することが最も緊急度の高い課題である。
これらの地域のうち、工場、事業場が集合し、ばい煙発生施設ごとの排出規制では環境基準の達成が困難と認められるものについては、総量規制の導入を図ることとしている。
このため、54年8月の二酸化窒素に係る環境基準に基づく地域区分を踏まえ、東京特別区等、横浜市等、名古屋市等、大阪市等、神戸市等、北九州市等の6地域について、総量規制導入に関する具体的な調査を実施した。
調査の内容は、発生源調査、気象・環境調査、汚染予測モデル作成及び将来汚染予測計算である。
? 窒素酸化物排出低減技術の開発状況
固定発生源から排出される窒素酸化物の低減技術については、排煙脱硝技術、低NOx燃焼技術等があり、50年以来その開発状況等を継続して調査し、は握に努めている。
排煙脱硝技術の開発状況は、LNG等の燃焼排ガスのようなクリーン排ガスのみならず重油燃焼排ガス程度のダーティ排ガスについてもすでに実用例もあり、触媒層の方式の改善、酸性硫安に関する対処法の進展等技術の信頼性も向上した。また無触媒法や無触媒・簡易脱硝法についても、すでに実用化され、経済性や用地等各施設の実情に応じた選択を行えるようになりつつある。
更に石炭燃焼排ガスのようなよりダーティな排ガスについても、触媒方式によるパイロットプラント等の試験研究の成果が畜積され、技術的に向上しつつある。なお、排煙脱硝の実用規模装置は第2-3-7図に示す。
(3) 自動車排出ガス対策
自動車から排出される窒素酸化物については、ガソリン又はLPGを燃料とする自動車に対しては48年度から、ディーゼル車に対しては49年度から、それぞれ規制が開始された。その後、ガソリン又はLPGを燃料とする乗用車については、50年度規制、51年度規制を経て、53年度には、47年10月の中央公害対策審議会の中間答申に示された当初目標値(窒素酸化物平均排出量0.25g/km)に沿った規制(53年度規制)が実施され、世界で最も厳しい基準となっている。なお、53年度規制の輸入乗用車への適用は、56年4月からとされている。この結果、乗用車から排出される窒素酸化物の量は、未規制時に比べ10分の1以下に削減されることとなり、53年度規制適合車の普及に応じ、乗用車からの窒素酸化物排出量は減少していくものと思われる。
また、ガソリン乗用車以外の車両(トラック、バス等)についての排出ガス規制は、48〜49年度に導入された後、軽中量ガソリン車については50年度規制により、また、重量ガソリン車及びディーゼル車については52年度規制により、それぞれ窒素酸化物の排出規制が強化された。
トラック、バス等は、乗用車と比べ、技術的に排出ガスの低減が困難となっており、飛躍的な技術開発により極めて低レベルの規制実施が可能となった乗用車に比し、いまだ緩やかな規制の程度にとどまっている。すなわち、トラック等は、積載を目的として設計されるため、乗用車と異なり、排気量当たりの車両総重量及び車速当たりエンジン回転数が大きく、窒素酸化物の排出量が増加し、更にエンジンの配置が多様であるため、排気ガス対策に伴い発生する熱の処理が困難となるものもある。また、使用条件も一般に乗用車に比べ過酷であり、耐久性が要求される。これらの条件に加えて、運転性、燃料消費率、整備性の悪化等を最小限に抑える必要がある。特にディーゼルエンジンの場合は、ガソリンエンジンと基本的に燃焼方式が異なり、空気過剰率の範囲が広いこと、自己着火の場所が一定でなく数か所で同時に着火することが多いこと、混合気が不均一でありガソリンエンジンのように燃料が十分に気化されないこと等の特性のため、ディーゼル車にあっては、燃焼の過程を制御することにより排出ガスを低減させることが極めて困難となっている。
しかし、トラック等からの排出ガス量は、乗用車からの排出ガス量と比べ、一台当たりの排出ガス量が多いこと等から自動車排出ガス総量全体に占める割合も大きく、このため自動車排出ガスに起因する大気汚染を防止するためには、これらのトラック等に対する一層の規制の強化が必要となっている。
このため約2年半の審議を経て、52年12月26日、中央公害対策審議会より自動車排出ガスの許容限度の長期設定方策について答申がなされた(第2-3-8表)。
答申においては、トラック、バス等の窒素酸化物に係る許容限度の強化の目標値が2段階に分けて示され、第1段階の目標値による規制は54年中、第2段階の目標値による規制は第1段階の規制実施の数年後、遅くとも50年代中に実施する必要があるとされた。この答申を踏まえ、53年1月30日、第1段階の規制が54年規制として告示され、ガソリン車については54年1月、ディーゼル車については54年4月から適用された。
また、答申で示された第2段階の目標をできるだけ早期に実施するため、自動車公害防止技術評価検討会を設け、自動車メーカーからヒアリング等を行い、自動車排出ガス低減技術の開発状況の検討評価を進め、技術開発の促進を図っている。同検討会は、検討結果を第1次の報告としてとりまとめ、54年5月公表した。
この報告を踏まえ、軽量・中量ガソリン車については56年から第2段階規制を実施することとし、54年8月許容限度の改正の告示を行った。
また、重量ガソリン車、ディーゼル車等については、第1次報告では、第2段階目標値達成への技術的見通しを得るには至らなかったが、引き続き低減技術の開発状況について評価検討を進め、技術開発の促進を図ることにより、50年代中のできるだけ早い時期に第2段階目標値を達成することとしている(第2-3-9図)。
なお、トラック、バス等に対する窒素酸化物規制が大きな効果を現わす時期は、対策車の普及及び老朽車の代替に数年間を要するところから、54年規制については60年頃、第2段階の規制については60年代半ば頃になるものと見込まれている。
また、窒素酸化物による、大気汚染に対処するには、自動車に対する個別発生源対策のみでなく、交通管理、道路構造の改善等の諸対策についても併せて実施していくことが必要であり、52年12月の中央公害対策審議会答申においても、「交通の集中に伴う大気汚染が著しい都市において、個々の自動車に対する排出ガス規制に加えて、自動車交通総量の抑制と自動車交通流の円滑化を図る」ための諸対策が提言されている。