2 化学物質の環境調査等の結果について
(1) 53年度環境調査も前年度に引き続き、主として人体に対する影響という点に着目して、エタノールアミン類、ポリ塩化フェノール類、PCB類似品、有機リン系難燃性可塑性剤、有機ゴム薬品等55物質について分析技術の検討を行いながら、東京湾、大阪湾など10地域の計36地域(第1‐3‐3図)で調査を行った(界面活性剤の一種であるポリオキシレチレンアルキルフェニルエーテルについては、前年度の調査をもとに、特別の調査地域を設定して調査を行った。)。なお、本調査は、環境中の長期残留性化学物質の検索とこれらの濃度が人又は生態系にとって危険なレベルであるかどうかの知見を得るために行うものであり、調査地点は排出口付近を避けて環境中での拡散を経たと考えられる商工業地帯の地域に設定してある。
53年度調査の結果、一般環境調査においては53年度にはじめて調査した47物質のうち4物質、又前年度以前に調査した物質について再調査した精密環境調査においては9物質のうち7物質が水質等から検出された(精密環境調査)。主な検出物は以下のとおりである。
? 精密環境調査
ア PCB類似品であるPCN(ポリ塩化ナフレタン)及びHCB(ヘキサクロロベンゼン)は、分解性、濃縮性及び毒性に係る試験の結果、54年8月14日から化学物質審査規制法に基づく特性化学物質に指定されている。PCN及びHCBはすでに製造されていないが、両物質ともこれまでの調査並びに今回の調査でも検出されたことは両物質の環境中での分解性の悪さ等を反映しているものと考えることができる。しかし、両物質の汚染レベルは、PCB汚染が問題となった時点の汚染レベルに比して全般にかなり低いものであった。
両物質は、すでに製造、使用がなされていないこと、またこれまでの生産量がPCBに比べ少なくかつ特殊な使用形態であったこと、更に今回特定化学物質に指定され、化学物質審査規制法による規制を受けることを考慮すれば、今後環境汚染が進行することはないと考えられるが、今後とも生物モニタリング等により環境中の濃度レベルをは握していくこととしている。
イ PCT(ポリ塩化ターフェニル)は、現在は製造されていないが、PCBと同様の目的に使用されていたものであり、49及び51年度の環境調査を実施している。今回の調査では、水質からは過去の調査と同様に検出されなかったが、底質からは全検体の約半数から検出された。これまでの調査データの推移及びPCTが現在生産されていないことから、水質におけるPCTのレベルは今後ともほぼ現時点のレベルを上回ることはないと考えられる。しかし、底質におけるPCTのレベルは、各年度ごとの最高レベルの地区が同一でないこと、又今回の調査では前回までの調査の結果に比べ高い値を示した地域があることから、今後とも一定期間をおいて環境調査を行うこととしている。
ウ 主として食品用以外の分野で用いるゴム加硫促進剤である2−メルカプトベンゾチアゾールは、52年度の調査で水質及び底質から低濃度ではあるが検出された。今回の調査では、水質及び魚から検出例はなく、底質では1地区から検出された。合成ゴムは、プラスチックと並んで生産量が膨大であり、かつ廃棄過程を通じ化学物質が溶出してくることも考えられるため、今後とも合成ゴムを自然環境下の放置した場合に生ずる化学物質の検索のための研究を進めることとしている。
エ 有機リン系難燃性可塑剤であるりん酸エステルについては、52年度までに計8物質について調査を行った。53年度の調査は、トリブチルホスフェート以外の50年度に検出された4物質について調査を行い、トリクレジルホスエートが底質から、トリス(クロロエチル)ホスフェートが水質及び魚から検出された。今回の調査では2物質とも概して検出率が低く、広範な汚染はみられなかったが、りん酸エステルについては環境上の知見が十分には蓄積されていないこともあり、環境レベルの監視等を今後とも行っていく必要がある。
オ 代表的な非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルは、工業用あるいは家庭用洗剤として用いられている。今回の調査では、全国15地域にわたり、都市河川を主な調査対象として。下水処理水排水口を中心にその上流域と下流域で水質と底質を対象に調査を行った。調査の結果、検出された濃度レベルでは魚や水生生態系の及ぼす影響は直ちに考慮する程ではないと考えられる。しかし底質中から、平均して10ppm程度のレベルで検出されたことや、分解性が良好でないといわれていることから、今後モニタリングを行っていく必要があると考えられる。また、水生動植物への影響や哺乳動物への濃縮性の有無についても確認しておく必要があろう。
? 一般環境調査
殺菌、防腐のために用いられる2.4.6−トリクロロフェノールが底質から、医薬原料等に用いられるジシクロペンタンジエンが底質から、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェートが底質から、それぞれ検出数は少ないが検出された。
(2) 生物モニタリングは魚介類あるいは鳥を指標として定点において汚染の推移を経年的に観察していくものであり、53年度は本モニタリングが初年度にあたることから、調査地点として水域を7か所、陸域を1か所の計8地点、調査対象生物としてシロザケ等の魚類5種、ムラサキイガイ、ムクドリの計7種を設定し、PCB及びその類似物質、BHC系農薬、ドリン系農薬、重金属類についてモニタリングを実施した(第1‐3‐3図)。