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第2節 

1 環境影響評価の推進

(1) 環境汚染の未然防止を図るための措置として環境影響評価を行なうことが必要なことは、今日、広く認識されているところであり、効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制の整備を図る必要がある
(2) 我が国においては、昭和47年6月の閣議了解「各種公共事業に係る環境保全対策について」以降、国では港湾法、公有水面埋立法等の個別法又は行政指導等による環境影響評価を実施する一方、地方公共団体でも、条例や要網等による環境影響評価を充実してきており、効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制の整備への努力が続けられている。特に54年度においては、次のような進展が見られた。
(3) 環境影響評価制度のあり方については、50年12月22日、中央公害対策審議会防止計画部会環境影響評価制度専門委員会が「環境影響評価制度のあり方について(検討結果のまとめ)」をまとめ、翌23日、環境庁長官は中央公害対策審議会に対し「環境影響評価制度のあり方について」を諮問し、その後、前期「検討結果のまとめ」を基に、同日発足した同審議会環境影響評価部会において各方面の意見、知見等を聴く等の検討が進められ、その結果54年4月10日、中央公害対策審議会から環境庁長官に対し答申がなされた。
 同答申の要点は、次のとおりである。
ア 我が国においても、環境影響評価の経験が積み重ねられてきており、先進国では国情に応じた制度化が図られてきている。この際我が国においても統一的な準則を示す環境影響評価制度を早急に確立することが必要であること。
イ 環境影響評価制度は、事業者が事業の計画決定に際して環境に及ぼす著しい影響について調査、予測及び評価を行い、その結果等について行政機関、地域の住民の環境保全上の意見を求めるための手続を主として定める制度とすべきであること。
ウ 環境影響評価の技術手法は、その時点において得られている科学的知見に基づき、可能な限り、客観的な調査、予測及び評価を行なうことを基本的な考え方とすること。
エ 関係地域の住民の環境影響評価の過程への関与は、制度の重要な柱であるが、事業そのものに対する賛否の多寡を問おうとするものではなく、環境保全上の意見を事業者の計画決定に反映させるのが目的であること。
オ この制度における地方公共団体の役割は、事業者の行う各種の手続を援助すること、資料の提供、意見の開陳を通じて事業者の行う調査、予測及び評価の内容を補完・充実すること。
カ 答申として述べたことは、現在の実績その他我が国の実績を踏まえたものであり、実現可能なものと考えるので、速やかに環境影響評価の法制度化を図るべきこと。
(4) 次に、国及び地方公共団体の動向としては、まず国においては、54年6月通商産業省資源エネルギー庁が「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の実施について」の方針を定め、発電所の立地における環境保全の万全を期するために行われた省議決定(52年7月4日付通商産業省省議決定「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」)の趣旨の一層の徹底を図った。
 また、環境影響評価法案については、政府部内において鋭意検討が進められ、55年3月28日、環境影響評価法案に関する関係閣僚会議において「環境影響評価法案要網」が了解された。
 他方、地方公共団体においては、既に53年度までに制定された条例(北海道及び川崎市)及び要網等(宮城県、栃木県、三重県、兵庫県、岡山県、山口県、福岡県、沖縄県、名古屋市及び神戸市)のほか、54年度においては新たに横浜市及び尼崎市が要網等を制定した。
(5) 環境影響評価の技術手法の面については、従来から、その開発と精度の向上が図られてきているが、特に40年度からの産業公害総合事前調査その他各種の調査の成果や47年6月の閣議了解等に基づく環境影響評価の実績の積重ね等による知見の集積がある。また、49年6月の中央公害対策審議会防止計画部会環境影響評価小委員会の「環境影響評価の運営上の指針について(中間報告)」、52年7月の「児島・坂出ルート本州四国連絡橋事業の実施に係る環境影響評価基本指針」、「本州四国連絡橋(児島〜坂出ルート)に係る環境影響評価技術指針」等により内容の整備がなされている。
 そして、これらの知見等を踏まえて、53年7月には「建設省所管事業環境影響評価技術指針(案)」が建設省によって作成され、また54年1月には「整備五新幹線に関する環境影響評価指針」が環境庁と連絡調整の上運輸省によって作成され、また54年2月には環境庁において「環境影響評価に係る技術的事項について(案)」が取りまとめられ、更に54年6月には「発電所の立地に関する環境影響調査要網」が環境庁と協議の上通産省によって作成される等、技術手法についての整備、向上が図られている。
 環境影響評価の技術手法については、事業の実施に伴う環境汚染を未然に防止するという観点から、定量的な判断のみならず、不確定性が大きいものについても可能な限り、定性的な判断を行うことが重要であり、その時点において得られている科学的知見に基づき、可能な限り、客観的な調査、予測及び評価を行うということを基本的考え方として、今後ともその整備、向上を図ることとしている。
 なお、関係省庁において、それぞれの所管に係る問題について「環境影響評価予測技術マニュアル」の作成、「計画段階における環境影響評価技法」に関する調査研究が推進されている。
(6) また、環境庁においては、各種公共事業等のうち、法令等により、事業計画の決定又は認可に際し環境庁に協議等がなされることとなっているものについて、環境保全上の観点から所要の意見を述べる等の措置を講じているが、これらについて54年度において関与した主なものは、次のとおりである。
? 特定地域開発計画については、苫小牧東部大規模鉱業基本地域(昭和58年計画)及び大分地域工業開発計画に係る環境影響評価が行われ、環境保全上の意見を述べた。
? 港湾計画については、54年度は港湾審議会計画部会が4回開催され、鹿島港、苫小牧港、北九州港等の港湾計画について審議が行われ、環境保全上の意見を述べた。
? 公有水面埋立計画については、公有水面埋立法の規定に基づく北九州港内(新門司)の公有水面埋立ての免許の認可に当たって、主務大臣に対し意見を述べた。
? 電源開発基本計画については、54年度は電源開発調整審議会が2回開催され、美山火力発電所等の計画に対して、環境保全上の意見を述べた。
? 地域振興整備公団事業については、地域振興整備公団法に基づく宮崎学園都市開発整備事業に係る事業実施基本計画の認可に当たって主務大臣から協議を受け、所要の調整を行った。
(7) 環境汚染の未然防止を図るためには、以上述べた環境影響評価を推進するほか、国土利用の適正化を図る必要がある。すなわち、これまでのような既存の土地利用の下での汚染物質の排出規制等の対策に加え、今後は地域の自然的特性を踏まえて、環境保全に配慮していく必要がある。
 54年度においては、土地利用基本計画の見直しが行われ、同計画に即し、公害の防止、自然環境の保全等に配慮しつつ適正かつ合理的な土地利用が推進されるよう、所要の検討を行った。このほか都市計画法に基づく市街化区域に関する都市計画についても環境汚染の未然防止の観点から所要の調整が行われている。

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