前のページ 次のページ

第5節 

2 自然保護の費用負担

(1) 地権者の負担の軽減
 我が国の自然公園制度は、アメリカの国立公園を範として発足したといわれるが、アメリカの国立公園においては、その地域のほとんどが国公有地であるのに対し、我が国の自然公園制度は、土地の所有権の如何にかかわらず景観の質など一定の要件に該当する地域を国又は都道府県が指定し、そこにおける私人の様々な行為を規制するといういわゆる地域性公園の制度をとっている。
 そのため国立公園を例にとれば現在、全国立公園面積約202万haのうち20%以上が私有地であり、そこにおいて多数の人々が生活を営んでいる状況にある。これらの私有地の地権者は、自然保護という公益のため、自らの所有地を自由に利用するという私権を大なり小なり制限されているわけであり、保護の徹底を図ろうとすればするほど公益と私権の間の調整をより積極的に図らなければならなくなっている。
 規制に伴う地権者の負担は、特に国立・国定公園の特別保護地区や第1種特別地域など木竹の伐採、工作物の新築などが原則として禁止されるような強い規制が行われている地域で深刻であった。
 このため、47年度に、まず国立公園の特別保護地区及び第1種特別地域内の民有地を対象として保護の徹底を期し、地権者の負担を解消するため、都道府県が発行する交付公債により土地を買上げ、国は都道府県に対し補助を行う特定民有地買上げ制度が発足した。その後買上げ対象地は、50年に国定公園の特別保護地区及び第1種特別地域、51年には自然公園と同様に自然保護のための行為規制が行われている鳥獣保護区特別保護地区のうち一定の要件に該当する地域へと拡大し、55年3月31日現在、この制度により既に3,292haの土地が都道府県により買上げられている。
 また、「租税特別措置法」によって、国立公園又は国定公園の特別地域内の土地や自然環境保護地域の特別地区内の土地が国又は地方公共団体に買取られる場合には2,000万円の国設鳥獣保護区特別保護地区の一定の要件に該当する土地が国又は地方公共団体に買られる場合には1,500万円の特別控除の適用の対象とすることとされており、54年度からは新たに、都道府県立自然公園の特別地域及び都道府県自然環境保全地域の特別地区内の土地等の譲渡で一定の要件に該当するものについては、、1,500万円の特別控除の適用の対象とすることとされた。
 更に、50年には「地方税法」の改正により国立・国定公園の特別保護地区及び第1種特別地域内の民有地について国定資産税が非課税とされるなど地方税関係での負担の軽減措置も進められることとなった。
 また、いくつかの地方公共団体においては、規制地域内の地権者に対し、自然保護奨励金などの名目で一定額を毎年交付したり、規制という権力的手段によらず、地方公共団体が地権者と契約を締結し、地権者に一定額を支払うかわりに一定期間現状の土地利用の形態を維持することを義務づけるなど、この問題への独自の取り組みも行われている。
(2) 受益者による負担
 自然環境を保全し、適正な利用を確保するためには、植生の維持復元、ゴミ清掃、利用施設の整備などを行う必要があるが、これに要する費用は適正に負担されなければならない。もとより、国民的合意のもとに自然を後代へ伝えるための費用は、国民一般の負担として、原則として、公費をもってまかなわれているが、特定の利用者あるいは事業者の活動によって生じた自然への影響を防止・修復する費用や利用者へのサービスの提供のための費用については、利用者あるいは事業者に応分の負担を求める方向が求められている。
 例えば、自然公園の利用者によって廃棄される自然公園内に散在するごみの清掃については、利用者にその費用の負担が全く求められないことは社会的公正を失するという考え方である。
 このような問題については、その検討がようやく行われつつ段階ではあるが、54年度において国の助成を受けて、自然公園内美化清掃を行う団体として設立された自然公園美化管理財団がその事業に要する費用の一部を自然公園内の駐車場利用者から求めることとした例などにみられるように、検討の成果が一部実施に移され始めたところである。
 また、70年代後半には、英国において民間の寄付により、海浜や史跡などの買取りを広範に行っているナショナル・トラストなどの活動が広く知られるようになったこともあって、知床国立公園において斜里町が全国に寄付を募って自然保護のために土地の買上げを行った「知床100?運動」や財団法人日本野鳥の会が民間の寄付をもとに土地を購入し、バート・サンクチュアリ(野鳥の聖域)を作ろうとする運動など、自然の保護に関心を持つ人々が自らの負担において自然の保護を行おうとする動きも出てきている。

前のページ 次のページ