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第4節 

2 化学物質の安全審査

 現在、その存在が確認されている化学物質は、天然に存在するものと人間が造り出したものを含め、400万以上にのぼるといわれている。我が国においては、数万点におよぶ化学物質が生活や生産のために使用されている。具体的には、農薬、洗剤、医薬品、化粧品そしてプラスティック、化学繊維などを製造するための工業用薬品などの形で利用されており、日常生活に深く浸透している。このような化学物質はその生産、利用、廃棄の過程を通じて環境中に拡散することが避けられないが、近年になってその一部のものが長期間にわたって環境中に残留し人体や生態系に好ましくない影響を及ぼす可能性があることが有機塩素系農薬やPCBなどの事例を通じて認識されてきたのである。PCBの事例についてみれば、既に41年にスウェーデンの学者によって魚や鳥の体内に残留することが確認されていたが、43年に我が国で発生した油症事件により直接摂取された場合の人体への影響が明らかになって、PCBによる環境汚染の影響が懸念されるに至り、各方面で調査研究が積極的に推進されることとなった。こうした調査、研究の結果からPCBのような物質は、?環境中において分解されずに存在し、?環境中に存在する量が極く微量であっても、生物体内に蓄積され、食物連鎖により濃縮されそれが生態系に大なり小なりの影響を及ばし、更に?これらを食品として人が継続して摂取した場合には人体に対して脅威を与える可能性があるということが認識されたのである。
 このため、環境汚染の未然防止という観点から、PCBに限らず広く化学物質全般について事前の安全対策を行う必要があることが強く認識されることとなった。
 このため政府は、47年にPCBの生産と使用を中止するよう指導する一方、この問題に対処するには既存の法律のみでは不充分であると判断し、48年に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下「化学物質審査規制法」という。)を制定し、化学物質による環境汚染の未然防止という観点から積極的にこの問題に対処することとなった。
 化学物質審査規制法は、第2のPCB事例の出現防止を目的として、新たに製造、輸入する化学物質については、製造前又は輸入前の厚生大臣及び通商産業大臣への届出を義務付け両大臣は届出に基づいて難分解性、生物濃縮性及び毒性に関して事前の審査を行い、必要があれば所要の規制措置をとり、更にPCBと同様の性状を有する場合には、特定化学物質として指定し、より強力な規制措置がとれることを規定している。特定化学物質としては、49年6月にPCB(ポリ塩化ビフェニル)が、政令指定されたほか、更に54年8月にHCB(ヘキサクロロベンゼン)、PCN(ポリ塩化ナフタレン、塩素数3以上のものに限る)が政令指定されている。
 一方、2万余りの既存化学物質についても、化学物質審査規制法が国会で審議された際の国会の附帯決議に基づき、新規化学物質と同様の趣旨のもとに、国の責任において安全性の点検を行うこととし、通商産業省では分解性及び生物濃縮性、厚生省では毒性の試験を実施し、安全性の点検を進めている。また、環境庁では既存の化学物質の環境安全性について環境調査等を行い点検を進めている。

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