1 環境影響評価
(1) 環境影響評価の体制整備の努力
環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施に際し、公害の防止及び自然環境の保全について適正な配慮がなされることを期するため適切な環境影響評価を行うことの必要性は、今日広く認識され、その制度的確立についての国民の関心も強いものとなっている。
52年11月に策定された第三次全国総合開発計画では、「この計画に基づき実施される事業については、その具体化に当たって、住民の意向を反映するとともに、適切な環境影響評価等を実施することとし、環境影響評価の技術手法の開発を促進するとともに、効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制の整備を図る必要がある。」と述べられているほか、54年8月に閣議決定された新経済社会7か年計画でも同趣旨の記述がなされている。
今日まで国、地方公共団体において環境影響評価の制度等の体制の整備を図る努力がなされてきたが、その状況を簡単にふり返ってみよう。
国においては48年に港湾法、公有水面埋立法及び工場立地法の一部改正、瀬戸内海環境保全臨時措置法(53年に瀬戸内海環境保全特別措置法と改称)の制定等を通じて法令の整備が行われた。例えば、港湾法の一部改正により重要港湾の港湾計画については、計画の策定に際し、環境に与える影響について事前に評価することとされた。また、公有水面埋立法の一部改正により、公有水面の埋立てについては、環境保全に対する配慮が免許基準として明文化され、環境影響評価が義務付けられた。
これらの法律による環境影響評価が行われる一方で、行政指導などによる環境影響評価も行われてきた。
既に40年度からは大規模工業開発予定地域を対象として産業公害総合事前調査が実施されてきているが、47年6月には「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解が行われ、国の行政機関は所掌する公共事業について事業実施主体に対し「あらかじめ必要に応じ、その環境に及ぼす影響の内容及び程度、環境破壊の防止策、代替案の比較検討等を含む調査研究」を行わしめ、その結果に基づいて所要の措置をとらしめる等の指導を行うものとし、地方公共団体においても、これに準じて所要の措置が講じられるよう要請することとされた。
特に、大規模な開発プロジェクトについては、51年9月に環境庁から提示された指針に従い、むつ小川原総合開発計画第二次基本計画に係る環境影響評価が行われ、更に52年7月に環境庁から提示された基本方針、運輸省、建設省から提示された技術指針に従い、児島・坂出ルート本州四国連絡橋事業の実施に係る環境影響評価が行われた。
これらの知見などを踏まえて、公共事業では、53年7月から「建設省所管事業に係る環境影響評価に関する当面の措置方針について」(建設事務次官通達)により、環境影響評価が実施され、また、54年1月から整備五新幹線では、「整備五新幹線に関する環境影響評価の実施について」(運輸大臣通達)により、日本国有鉄道及び日本鉄道建設公団に環境影響評価を行わせることとした。公共事業以外でも、発電所の立地について、通商産業省は、52年7月に「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」の省議決定を行い、電気事業者などの環境影響調査及び通商産業省の環境審査の強化を図り、これを受けて54年6月には、通商産業省資源エネルギー庁長官から「環境影響調査及び環境審査に伴う地元住民等への周知等の措置要網」等を定めた「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の実施について」が通達として出され、電源立地に際しての環境アセスメントについて、より具体的な行政指導が行われることとなった。
一方、地方公共団体では、川崎市が51年10月に「川崎市環境影響評価に関する条例」を、北海道が53年7月に「北海道環境影響評価条例」を定めたほか、55年1月現在において、宮城県、栃木県、三重県、兵庫県、岡山県、山口県、沖縄県、横浜市、名古屋市、神戸市及び尼崎市がそれぞれ独自の環境影響評価に関する要網などを定めている。
このように前記閣議了解に沿って環境影響評価の体制が整備されてきたが、この閣議了解では、対象となる事業の範囲や調査の手法、住民の意向を反映するための手続などを具体的に定めていないこともあり、事業の種類に応じて、また地域に応じてそれぞれ異なった措置が講ぜられているのが現状である。そのため、制度面から見れば、その評価手順等が十分整備されていないものなどもある。
(2) 環境影響評価制度の確立
このような状況のもとで53年7月には「建設省所管事業環境影響評価技術指針(案)」が建設省によって作成され、また54年1月には整備五新幹線に関する環境影響評価指針が環境庁と連絡調整の上運輸省によって作成された。更に、54年6月には「発電所の立地に関する環境審査指針」等が通商産業省によって作成され、また54年2月には環境庁において「環境影響評価に係る技術的事項について(案)」が取りまとめられるなど、技術手法についての整備、向上が図られている。制度面においては、環境影響評価制度のあり方について、50年12月以来、中央公害対策審議会環境影響評価部会において3年有余鋭意調査審議された結果、54年4月、環境庁長官に対し、答申がなされた。
この答申では環境影響評価制度の確立の必要性、環境影響評価制度の内容について述べているほか、環境影響評価の制度化の方法として、「環境影響評価の制度の確立を図り、統一的準則を示すことが必要である。その方法としては種々のものが考えられるが、(中略)、法律によることが最も適当である」とし、「速やかに法制度化を図るべきである」と述べている。
環境影響評価法案については、政府部内で鋭意検討が進められたが、55年3月28日に環境影響評価法案に関する関係各寮会議において環境影響評価法案要網が了解され、引き続き検討が行われた。
なお、国際的に見れば、環境影響評価制度の運営について既に10年の実績を持ち、制度の改善を図りつつより適切な制度運営を目指すアメリカをはじめとして、スウェーデン、オーストラリア、フランスなどの諸国において、それぞれの国情に応じ、環境影響評価の実施又は制度の確立を見ている、また49年にはOECDにおいて環境影響評価の手続、手法の確立について理事会勧告、54年5月には各寮レベル会議で、「環境に重要な影響を与える事業の評価」についての理事会勧告が採択されるなど、環境汚染の未然防止を図ろうとする環境影響評価は、国際的にも共通した課題となっている。