2 総量規制
個別排出規制の強化・拡充により、産業公害は全体として改善をみることとなったが、一方で工場又は事業場などの集中した地域や水の交換が悪く汚濁の蓄積し易い閉鎖性水域では、第2章155/sb1.2>でみたように、生活排水など都市・生活型の環境負荷もあって環境基準の達成が困難であった。このような地域や水域では、ばい煙あるいは汚濁負荷の総量に基準をおいたより合理的で実効性のある個別規制水準の目標を設定して、より計画的に汚染を改善することが必要となったのである。大気については、49年に「大気汚染防止法」の改正が行われ、硫黄酸化物について総量制度が導入されるとともに、水質についても53年の「瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法に一部を改正する法律」により総量規制が導入された。
(1) 硫黄酸化物に係る総量規制
ばい煙中の硫黄酸化物の排出については、大気中での煙の拡散を計算に入れて精緻化したK値による規制が行われるとともに、高濃度の汚染が生じている地域については、新増設される施設に特別排出基準が設定されるなど規制の強化が行われてきた。このような個別排出規制はばい煙施設の周辺について高濃度の汚染を局地的に改善する上で効果的であったが、煙突を高くすることで排出基準を達成することも可能で、地域全体としての環境負荷が必ずしも減少しない地域もあった。
このため、通常の排出基準のみによっては環境基準の確保が困難と認められる地域において、その地域で排出される汚染物質の総量を科学的手法を用いて算定された許容総量の範囲に抑え、環境基準の確保を合理的・計画的に行う総量規制が導入されることとなった。具体的には、国が総量規制地域の指定を行い、都道府県知事が削減目標量、達成期間及びその方途を定めた総量削減計画を作成し、それに基づき総量規制基準、燃料使用基準が定められている。
(2) 水質総量規制
瀬戸内海、東京湾、伊勢湾などの広域的な閉鎖性水域は、外洋との水の交換が悪く、汚濁物質が滞留しやすいという条件がある一方、後背地に大工業地帯や人口の集中した都市を抱えているため、産業排水や生活排水などによる汚濁負荷が多く、環境基準を達成することが極めて困難な状況にある。
このため、これらの水域に臨接する都府県では、「水質汚濁防止法」に基づく上乗せ基準を設定するとともに、下水道の整備を進めるなどの努力を重ねてきたが、一つの県で排水基準を強化しても、臨海都府県が全体として汚濁負担量を軽減しなければ、閉鎖性水域の水質を改善することが難しい状況にあった。
このため、まず瀬戸内海の水質汚濁を計画的・合理的に改善するため48年に「瀬戸内海環境保全臨時措置法」を制定し、産業排水に係るCODで表示した汚濁負荷量を3年間で47年当時の2分の1以下にするという統一的な目標を定めた。これに基づき瀬戸内海周辺の府県は、上乗せ基準の設定を行うとともに、特定施設の設置や構造などの変更は府県知事の許可を要することとするなどの措置がとられ、51年には目標を上回る削減が行われた。
しかし、なお、瀬戸内海などの閉鎖性水域における環境基準の達成状況はかんばしいものではなく、従来の濃度規制では汚濁発生源である上流県内陸部の規制が有効に行われないこと、及び生活排水などに対する配慮が十分でないなど制度的な不備があったことから、53年に「瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律」を制定し、広域的な閉鎖性水域について水質の総量規制を導入することとした。
この水質の総量規制制度は、水質環境基準を確保することを目途に、汚濁の著しい広域的な閉鎖性水域を対象として、当該水域に流入する上流県内陸部からの汚濁負荷量を、生活排水などを含め、一定量に抑えようとするものである。現在、瀬戸内海、東京湾、伊勢湾を対象水域、またCODを対象項目とし、各水域について59年度を目標年度として生活排水、産業排水などについて発生源別及び都府県別の削減目標量並びに削減の方途が決定された。その後本年3月18日に関係都府県の総量削減計画が公害対策会議の議を経て策定された。