2 取締りの状況
(1) 増加を続ける公害事犯
公害事犯の検挙件数は、第10-3-1図のとおり依然として増加の傾向を示しており、53年中の公害事犯の総検挙件数は5,383件で、前年に比べ556件(11.5%)の増加となっている。
(2) 態様別及び法令別検挙状況
53年中に警察が検挙した公害事犯を態様別に見ると第10-3-2表のとおりで、廃棄物が3,120件(58.0%)と過半数を占め、次いで水質汚濁1,247件(23.2%)、悪臭511件(9.5%)の順であり、この3態様で公害事犯全体の約90%を占めている。
また、公害事犯の検挙に適用した法令について見ると第10-3-3表のとおりで、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」が4,596件(85.4%)で大部分を占め、次いで「水質汚濁防止法」340件(6.3%)、「河川法」149件(2.8%)の順となっている。
新たに排除基準違反に直罰規定が設けられた「下水道法」違反は33件を検挙している。
(3) 検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況
最近5年間の全国検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況は、第10-3-4表のとおりである。53年の通常受理人員は6,299人で前年より275人の減少となっており、起訴人員も前年より405人減の4,231人となっている。
次に、53年中における通常受理人員を罪名別に前年と対比してみると、第10-3-5表のとおり「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の4,072人が最も多く、受理総数の64.6%を占め、以下「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」違反、「水質汚濁防止法」違反、「港則法」違反の順となっている。52年に比して受理人員が減少したのは、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」違反(144人減)、「河川法」違反(129人減)、「港則法」違反(74人減)等が減少したためであり、反面、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反が135人、「水質汚濁防止法」違反が47人、「下水道法」違反が46人と増加していることが注目される。
53年中における公害関係法令違反事件の処理状況は、第10-3-6表のとおりで起訴人員は4,231人、不起訴人員は2,057人、起訴率は67.3%となっている。起訴人員のうち、公判請求されたものは78人で、前年と同数であり、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反が48人と最も多い。略式命令を請求されたものは4,153人で、総起訴数の98.2%を占めている。53年中に起訴された公害関係法令違反事件の中で注目されるものとしては、地方公共団体がし尿を河川等にたれ流した事件等が挙げられる。
良好な環境を保全するためには、まずもって適正な行政施策による公害の未然防止が必要であり、刑事司法の関与する分野はおのずから限界があるのみならず、この種事犯の検挙には、種々の法律的、技術的な困難があることも否定できないところであるが、公害関係法規の罰則の適正な活用がこの種事犯の防止のために有効な一つの手段であることにかんがみるとき、今後ともこの種事犯に対する実効ある取締りが期待される。
(4) 公害事犯の傾向
取締りを通じて見られた事犯の特徴的な傾向は次のとおりである。
ア 公害防止に対する事業者の自覚の不徹底に起因する事犯が多い。
検挙事例を見る限りにおいては、公害防止に対する事業者の自覚は、まだ必ずしも十分であるとはいえず、これが事犯の多発する一つの要因となっているものと認められる。例えば処理施設の老朽化、機能低下を故意に放置して未処理汚水を排出する事犯が多く、また産業廃棄物に係る事業者の委託基準違反が前年に比べ大幅に増加しているのもその一つの現れと見ることができる。
イ 産業廃棄物の不法投棄事犯が多い
建材廃材、廃タイヤ、汚泥等産業廃棄物の不法投棄(不法埋立処分を含む。)事犯が依然として多く、なかでも廃タイヤの大規模な不法埋立処分等が表面化して業界に対する警鐘となった事犯や、環境保全上特に大きな影響を与える廃油、廃酸、廃アルカリ等の不法投棄事犯が多く見られた。
ウ 下水道法違反に高濃度の有害物質を排出する事犯が多い
下水道の排除基準違反は、直罰規定の新設に伴い新たな捜査対象となったが、人目につかない暗きょ内への排出という下水道の特性を悪用し、高濃度の有害物質を含む未処理の下水を排除する事犯が多く見られた。
エ 犯行の手段、方法が悪質化している
行政監視や警察取締りの強化に伴い、その間隙を狙う犯行の手段、方法も年々悪質化する傾向が見られ、届出以外の隠し排水口を利用する事犯、見張人を置いて夜間ひそかに排出する事犯、苦情を持ち込んだ住民を暴力で脅かす事犯等悪質な事犯が増加しつつある。