1 公害紛争の処理状況
公害紛争については、「公害紛争処理法」により、国の紛争処理機関である公害等調整委員会が裁定並びに特定の紛争(いわゆる重大事件、広域処理事件等)についてのあっせん、調停及び仲裁を行い、それ以外の紛争については都道府県に置かれている都道府県公害審査会等(審査会を置かない都道府県にあっては、公害審査委員候補を委囑することとされている。以下同じ。)が、あっせん、調停及び仲裁を行うこととされている。公害に係る民事上の紛争については、被害者は、裁判所による司法的救済のほか、公害等調整委員会による裁定並びに公害等調整委員会又は都道府県公害審査会等によるあっせん、調停及び仲裁の中から、紛争の実情に応じて最も適切なものを選んで、紛争処理を求めることができる。
(注) 裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及びその数額を判断する責任裁定と、被害と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の2種類がある。
(1) 概況
公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等が受理したあっせん、調停、仲裁及び裁定の申請(参加の申立て、移送、引継ぎ及び裁定から職権で調停に移行した事件を含む。以下同じ。)の件数は、昭和45年11月の公害紛争処理制度発足から53年12月末までに468件に達している。53年中に係属した事件は、53年中に申請があった72件と前年から繰り越した114件の合計186件であり、このうち104件が53年中に終結している。
なお、中央、地方別の紛争処理状況は第10-2-1表、公害及び手続の種類別件数は第10-2-2表のとおりであり、水質汚濁関係の調停申請が半数以上を占めている。
(2) 公害等調整委員会に係属した事件
53年中に公害等調整委員会に係属した公害紛争事件は、調停事件137件、裁定事件3件(いずれも責任裁定事件)の計140件であり、その内訳は、次のとおりである。
ア 調停事件
(ア) 不知火海沿岸における水質汚濁による水俣病事件 113件
(イ) 大阪国際空港周辺の騒音による生活環境被害事件 23件
(ウ) 大阪国際空港周辺の騒音対策として防音工事を求める事件 1件
イ 責任裁定事件
(ア) 富山県富山市におけるビル建築工事に伴う地盤沈下による建築物損傷事件 2件
(イ) 東京都新宿区における地下鉄工事に伴う騒音、振動等による賃料等損害責任裁定事件 1件
このうち、88件が前年から繰り越されたものであり、52件が53年に新たに申請のあったものである。新たに受理した52件は、すべて調停事件((ア)の水俣病事件の51件、(ウ)の大阪国際空港防音工事請求事件1件)である。
53年度中に終結をみた事件は82件で、調停事件は79件((ア)の水俣病事件72件、(イ)の大阪国際空港生活環境被害事件6件、(ウ)の大阪国際空港防音工事請求事件1件)、責任裁定事件は3件((ウ)の富山市建築物損傷事件2件、(イ)の新宿賃料等損害事件1件)である。
このうち、水俣病事件は、水俣病と認定された患者に対するチッソ株式会社の損害賠償について、患者一人ごとに会社との間に調停が成立したものであり、大阪国際空港生活環境被害事件は、大阪国際空港において発着する航空機の騒音のため、生活妨害その他各種の被害を被っているとして、伊丹市、宝塚市、大阪市及び尼崎市の住民が、国(代表者運輸大臣)を相手方として、損害賠償等を求める調停を申請したもので、申請人は、9グループに分かれている。このうち、宝塚グループは、申請人らが要望していた共同利用施設が完成したこと等により、申請を取り下げた。また大阪国際空港防音工事請求事件は、大阪国際空港周辺に居住する住民が騒音対策として家屋に防音工事を求める調停を申請したものであるが、公害等調整委員会において、当事者間に合意が成立する見込みがないと認め、調停を打ち切ったものである。
責任裁定事件のうち、富山市建築物損傷事件は、富山市におけるビル建築工事に伴う地盤沈下により亀裂、雨漏り等の被害を生じたと主張する建築物の所有者及び入居者が、ビルの注文主及び建築工事施工者を相手方として損害賠償を求めたものであるが、公害等調整委員会は、ビル建築工事と申請人所有の建築物の損傷との間に因果関係が認められないとし、53年7月、請求棄却の裁定をした。また、新宿賃料等損害事件は、新宿区における都営地下鉄10号線建設工事による振動のため、家屋に亀裂等の損傷を生じ、営業(貸室業)不能に陥ったこと等を主張するビルの所有者が、同工事の起業者東京都及び施行者の建設業者を相手方として損害賠償を求めたものであるが、その後申請人と建設業者との間に自主的に解決しようという気運が生じたため、公害等調整委員会は、積極的に当事者間を仲介し、紛争解決に努めた結果、53年2月和解が成立し、申請が取り下げられ、終結したものである。
(3) 都道府県公害審査会等に係属した事件
53年中に都道府県の公害審査会等に係属した事件は、53年中に新たに申請のあった20件と前年から繰り越された26件の計46件である。
この46件の内訳は、あっせん事件2件、調停事件44件となっている。
これらを都道府県別に見ると、大阪府19件、千葉県、兵庫県各4件、埼玉県、東京都各3件、愛知県、広島県、山口県、熊本県各2件、宮城県、茨城県、群馬県、京都府、和歌山県各1件である。また、請求事項別に見ると、発生源対策のみを求めるものが24件、金銭の支払のみを求めるものが8件、発生源対策と金銭の支払を求めるものが14件となっている。
一方、これらを公害の種類別に見ると、最も多いのが騒音関係の38件、次いで振動関係22件、大気汚染関係21件、悪臭関係8件、地盤沈下関係4件、水質汚濁関係3件、土壌汚染関係2件となっている。
53年中に終結をみた事件は、22件であり、その内訳は、調停等が成立したもの11件、打切りとなったもの7件、申請が取り下げられたもの4件となっている。
(注) 公害の種類別件数は、同一事件について公害の種類が重複しているため係属事件数より多くなっている。