2 総合研究プロジェクトの推進
53年度に実施した総合研究プロジェクトの数は10で、その内容は次のとおりである。
(1) 光化学スモッグ等都市型大気複合汚染防止に関する総合研究
各種の固定発生源や移動発生源から排出される一次汚染物質である窒素酸化物(NOx)や炭化水素(HC)は、大気中で光化学反応を起こして複雑な二次汚染物質を生成する。大気汚染の被害は、汚染物質の複合作用によって生ずる光化学スモッグをはじめとし、極めて複雑である。そこで、光化学スモッグをはじめとする都市型大気複合汚染の防止対策の確立に資するため、各種の発生源からの大気汚染物質排出防止技術の開発、大気汚染計測技術の確立、汚染機構の解明、大気汚染物質の生体に及ぼす影響の解明、道路交通処理システムの開発、汚染予測手法の確立等に関する研究を総合的に推進する。
ア 各種発生源からのNOx等の排出防止技術開発については、科学技術庁において、ジェットエンジンの最適空燃比の選定及び予混合予蒸発燃焼方式等のNOx排出低減に関する研究に着手し、通商産業省において、焼結炉の装置の改善及び排ガスからNOxを除去するための研究開発を行った。
また、乾式法、アンモニア接触還元によるNOx、SOx同時除去の触媒開発を行った。
生成抑制技術としては、石灰を流動媒体とする流動層燃焼とアンモニア注入の併用による高SN燃料の無公害燃焼システムの研究が進められた。
更に、重質燃料油中の脱窒素技術の開発を進めたほか、重質燃料油中の重金属除去技術に関する研究に着手した。
イ 大気汚染計測技術の開発については、通商産業省において、校正標準ガスを高精度で安定に的発生させるための研究が行われ、また、標準分析法の確立が望まれている燃料中の窒素分析法及びばいじんの測定に関する研究を行った。
一方、厚生省においては、空気中のニトロソアミンの測定法の研究、運輸省においては、成層圏に至る間のハロゲン化炭化水素、NOx等について赤外分光装置、紫外線測定装置を整備し、一部航空機による採集分析法の研究に着手した。
更に、郵政省においては、炭酸ガスレーザレーダによるオゾン検出の研究のほか、上空温度分布の遠隔探知のためのラス・レーダの開発を進めた。
ウ 大気汚染予測手法の開発については、通商産業省において、スモッグチャンバーによって光化学エアロゾルの生成機構の解明を行ったほか、大気汚染実時間予測シミュレーション手法の研究を行った。
エ 生体影響の研究については、厚生省において、特発性自然気胸に関する多数因子及び生活環境因子の分析を行い、大気汚染との因果関係の研究を行った。
(2) 無公害自動車の開発に関する総合研究
自動車は、窒素酸化物と炭化水素、一酸化炭素等の発生源であり、特に窒素酸化物と炭化水素は光化学スモッグの主要な原因物質と考えられている。このため、窒素酸化物、炭化水素等を中心とする排出ガス低減のための基礎的技術開発、エンジン及び排気系の改良を中心とする排出ガス対策システムの技術評価の確立、規制の強化に伴う低濃度領域における排出ガス測定技術の確立、自動車の音響出力と交通流との関連等の解明などに関する研究を総合的に推進した。
ア 排出ガス低減の基礎的技術開発については、通商産業省において、内燃機関の低公害化を進める上で最も重要な、燃料制御のための燃料供給法を研究し、排気の清浄化を図り、更に燃焼パターン解析法の研究を行った。また、還元触媒による排ガス処理の実用化研究を行ったほか、希薄混合気燃焼の助燃剤としての水素の製造における触媒の開発を行った。
イ 排出ガス測定技術については、運輸省において、ガソリン車の排出ガス規制の強化に伴う低濃度領域の排出ガス測定技術の研究を行ったほか、ディーゼル機関から排出される高沸点炭化水素の測定と評価の研究を行った。
ウ 排出ガス対策システムの評価技術については、運輸省において、各種排出ガス対策システムの作動特性等を解析的に明らかにし、実走行使用条件下で長期にわたり使用可能であるかについて信頼性は握のための評価法の確立の研究を行った。
エ 自動車交通流騒音の評価技術については、運輸省において、自動車の騒音特性を音響出力としては握し、これと交通流との関連を解明する。更に自動車騒音試験方法との関連を明確にして、騒音規制強化のための研究を行った。
(3) PCB等新汚染物質の評価並びの汚染防止に関する総合研究
化学工業の進歩に伴い合成、生産に成功した多種多様な化学物質は、そのほとんどが何らかの形で環境中に放出されており、その内の特にPCB等の難分解性物質は、生物濃縮、食物連鎖等を通じて人体内に取込まれ、蓄積し人の健康に影響を与えるおそれがある。また鉱業等に起因する重金属による土壌汚染並びに工場排水及び産業廃棄物中の重金属や船舶からの排出油による海洋汚染も、農作物や魚介類等の食物を通じて人の健康に影響を与えるおそれがある。この総合研究においては、これら環境汚染物質による人体影響を未然に防止することを主眼とし、PCB等の合成化学物質及び重金属等についての人体影響、毒性発見の抑制、排泄解毒作用機構、生態系内における挙動等に関する研究を推進するものである。
ア PCB、重金属等の汚染物質の人体影響については、厚生省において、汚染物質の生体影響をアミノ酸代謝を中心とした代謝機能の面から解明するため、低濃度のカドミウムを連続投与したシロネズミに重窒素
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Nを含むアミノ酸を用い尿中に尿素として排泄される割合や他の代謝産物の排泄パターンにより、カドミウム投与の影響の有無や影響の強さを早期に判定する基礎データをえる研究を実施するとともに、数種の環境汚染物質が共存する場合、個々の物質の生体への作用が相加、相乗、拮抗いずれの形として現われるかを、メチル水銀とPCB、有機リン農薬と有機塩素化合物の組合せで生化学的及び薬理学的手法を用いて解明する研究、乳歯中に蓄積された有害な微量元素を的確には握することにより、人体に対する環境汚染の影響を評価する研究並びにラットにPCBの急性、亜急性投与を行って、中枢、末梢神経に対する影響及び催腫瘍性を病理組織学的、薬理学・生化学的手法により解明する研究を実施した。更に環境汚染物質の動植物体内(バイ貝中の銅・カドミウム・ひじき中のひ素等)における存在形態に関する研究に着手した。
イ PCB、重金属等の汚染物質の毒性発現を抑制する栄養条件、食餌条件については、厚生省において、PCBと農薬の複合汚染による毒性とビタミン、脂質及びたん白質栄養との相関並びに水銀、カドミウム等の重金属による身体、精神発育阻害とミネラルとの相関について、モルモット、妊娠ラットを用いた研究を実施した。
ウ 有害物質に対する解毒、排泄作用機構については、厚生省において、無機及び有機の重金属に対する解毒作用機構を解明するため、人間由来の肝臓の細胞培養を行い、金属の毒性と細胞増殖率の関係を調査し、解毒作用機構に関係ある物質(酸化・還元酵素の補酵素類等)の効果を調べる研究並びに発汗によるカドミウム、マンガン、水銀等の有害重金属の排泄作用機構を解明するため、高温度条件下での汗中金属濃度、汗中排出量と尿中、血中、毛髪中濃度との関係の検討等各種金属の汗中排出量と総代謝量に関する研究を実施した。
エ 汚染物質の生態系における挙動については、厚生省において、海洋における魚介類の油汚染機構を解明するため、汚染物質(パラフィン系炭化水素、硫黄化合物等)の化学指標のは握と分析法の確立を行うとともに、海洋の油汚染成分が魚介類中に蓄積される経路、成分及び量等に関する研究を実施した。また、農林水産省において、重金属類による畜産食品の汚染機構を解明するため、山羊、牛等で飼料中の重金属レベルと畜体に蓄積される重金属レベルとの関係、乳、糞、尿中への移行率及び畜体の各器官への蓄積率等に関する研究を実施した。
(4) 排水処理の高度化に関する総合研究
工業の発展と人口の都市集中化に伴い公共用水域に排出される工場排水及び生活排水は水域の浄化能力を超え、排水中に含まれる汚染物質も多種多様となった。これらの排水の処理は、多量のエネルギー及び薬剤の消費、多量の処理沈殿物の生成並びに工業用水の不足等を考慮した処理技術の開発、改良、更に有用物質の回収再利用、処理水の用水化等に関する技術開発が必要である。この総合研究においては、排水基準及び監視体制の強化に対応して、各種産業排水等に含有する有機性物質及び有害物質の処理を中心とした排水処理の高度化に関する研究を推進するものである。
ア 有機性排水の物理化学的処理については、通商産業省において、無機合成吸着剤及び新合成高分子凝集剤の単独及び併用処理により、スラッジの処分を含めたパルプ・染色廃水等の脱色処理システム確立のための研究、光酸化法、湿式酸化法及び他の物理化学処理法との組合せにより合成有機化学工場から排出される水溶性樹脂、界面活性剤、アルコール類等を含有した廃水の高度処理システムを確立するための研究を実施した。
イ 有機性排水の生物化学的処理については、通商産業省において、中小規模工場に適用性の高いプラスチックろ材を用いた散水ろ床法による高濃度有機性廃水の直接処理法とその高度処理システムの開発研究、微生物を用いた有機物、窒素、リン等の富栄養化成分の処理技術及び活性炭等を担体とする微生物処理法(複合処理)による寒冷地における工場廃水の高度処理技術開発のための研究を実施するとともに、水産加工団地の排水を対象とし、汚泥負荷量の低減化、処理施設の小型化等排水処理の高度化、回収物の有効利用に関する研究に着手した。建設省においては、下水の生物処理過程におけるアンモニア性窒素の硝酸性窒素への転換促進のための物理・化学・生物学的な条件の解明とともに、汚泥中の有機性炭素を用いた下水中の硝酸性窒素の除去技術の研究を実施し、また、大蔵省において、澱粉等多糖類資化能を有する酵母を用いた食品工業廃水の中小規模処理技術開発の研究を実施した。
ウ 重金属含有排水の処理法については、通商産業省において、化学工業、鉱業、窯業などの工場排水に適した電解方式を開発し、有害金属イオンのクローズ化を図るための研究を実施した。
エ 有機物・重金属含有排水の処理法については、通商産業省において、有機、金属粒子を含有する産業排水を低コストかつ高速で処理し得る高勾配磁場による水処理システムを確立し、産業用水の循環使用を可能にするための研究を実施した。
オ このほか、通商産業省において、臨海型産業排水の全体的総量規制方式に対応できる排水自動管理システムと排水放流地域の海水の自浄作用を考慮した海水水質自動管理システムとを一体化した総合的排水自動管理システムを開発する研究、各種工業団地排水を単位処理法の組合せにより総合的に処理し、処理水を再利用できる処理技術の研究並びに工場排水中の金属イオン、有機性イオンの簡易計測用及び各種イオンの高次処理用の高分子材料を開発するための研究を実施した。また、建設省において、下水処理場及び公共用水域における有機汚濁物質の分解過程解明の研究を実施した。
(5) 瀬戸内海等沿岸海域の汚染防止に関する総合研究
わが国の沿岸海域は、産業排水、生活排水の増大及び船舶からの排出油等による水質の汚濁が問題となっている。なかでも瀬戸内海、東京湾、伊勢湾等の閉鎖性海域においては、その汚染は著しい。この総合研究においては、これら海域の浄化対策を究明するため、汚濁現象及び海域生態系における物質の循環と変化の解明並びに汚濁の監視と制御及び汚濁浄化のための技術開発を中心に推進するものである。
ア 汚濁現象の解明については、通商産業省において、大型水理模型実験と拡散数値解析等による瀬戸内海の水質汚濁予測手法を確立するための研究、東京湾をモデルとして、航空機、人工衛生、観測ブイによる観測及び水理模型実験による汚濁現象の再現等を行い、沿岸海域の広域的長期的汚濁予測技術を開発する研究並びに地形、気候、海況によって区分される沿岸堆積環境ごとの汚染底質の堆積機構及び汚染底質の底生動物群に与える影響を解明するための研究を実施するとともに、瀬戸内海底質環境と窒素・リン・重金属等の汚染物質の溶出現象との相関性を究明し、二次汚染機構の解明の研究に着手した。
イ 海域生態系における物質の循環と変化の解明については、厚生省において、海洋の油汚染状況と魚介類の生態との相関、汚染経路、生物濃縮及び生体代謝と汚染との相関解明のための研究を実施し、農林水産省においては、富栄養化物質の内湾生態系における循環機構の解明及び底泥の動態解明を通じて、効果的な内湾浄化力の評価及び富栄養化物質の許容負荷量の理論的検討を行う研究を実施した。また、通商産業省において、工場排水による沿岸海域の生態系がうける影響を評価するための生態系数理モデルによる予測手法の確立のための研究に着手した。
ウ 汚濁防止のための技術開発については、通商産業省において、産業が集中する臨海工業地帯の排水を対象に総負荷量と自然浄化作用と考慮した監視、処理、管理等の組合せによる総合的排水自動管理システム開発の研究を実施した。また、運輸省において、船舶からのビルジ排水の実用的高性能油水分離器の開発のための研究を実施した。厚生省において、海岸埋立の特性に応じた浸透防止工法の研究に着手した。
エ 汚濁監視のための技術開発については、通商産業省において、広域常時監視に適したマイクロ波ラジオメトリー技術を応用し、昼夜、気象条件等に関係なく海面上の油汚染状況を遠方から常時監視できる技術開発の研究を実施し、また、レーザ光等を用いたスペクトル分析により赤潮生物や懸濁粒子の種類識別、濃度分布の実時間計測技術開発の研究に着手した。
オ 汚濁浄化のための技術開発については、運輸省において、海底に堆積したPCB、重金属等を含む汚泥のしゅんせつ埋立における埋立地内の懸濁物質の沈降挙動、有害物質の懸濁物質への付着性を明らかにし、汚泥処理に伴う余水の水質向上のための研究を実施し、また、長期にわたり経時変化した油塊状の各種排出油の識別手法の開発、付着機構の解明を行い、付着油のはく離技術及び回収技術の開発のための研究に着手した。
(6) 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
廃棄物の処理は、その質の多様化、量の増大、二次汚染の発生等のため、最終処分場の確保がますます困難になってきている。このため、省資源の観点も含め、廃棄物の再資源化の必要性が重要視されている。この総合研究は、この様な情勢に対処するため、廃棄物を適切、無害に処理し、最終処分量を減少させ、更に廃棄物を資源として有効に利用するための技術の開発等を推進するものである。
ア 廃棄物処理場からの二次汚染の防止を図るため、厚生省においては、埋立地浸出水の効果的な処理システムの開発を実施するとともに、海面埋立における浸透防止技術の開発に着手した。
イ 各種汚泥の処理と有効利用のための技術開発を行うため、厚生省においては、し尿浄化槽汚泥処理のための濃縮、脱水技術の開発を実施した。
通商産業省においては、赤泥からの埋立材等の製造技術の開発及び各種スラッジ中の有害物質の除去技術の開発を実施するとともに、排煙脱硫石こうの建材等への利用技術の開発に着手した。
また、運輸省においては、タンカー等から発生する油性スラッジ処理のための焼却及び油分離技術の開発を実施するとともに、発生抑制のためのタンクの石油洗浄技術の開発に着手した。
ウ 高分子廃棄物の処理について、通商産業省においては、合成高分子化合物を分解する微生物を汚泥に取組む処理技術及び微生物中の酵素による処理技術の開発を実施した。
また、労働省においては、大気中では燃焼処理の困難なPCB等を酸素中で燃焼する技術の開発を実施した。
エ 都市廃棄物をコンポストとして処理し、農業に利用するために、厚生省及び農林水産省において、農業利用に適したコンポスト化技術、貯蔵、運搬を含む農業利用技術の開発を実施した。
オ 廃棄物の都市内部での処理、再利用システムの構成を図るため、厚生省においては、廃棄物を中心とした都市計画手法の開発に着手した。
(7) 自然環境の管理及び保全に関する基礎的技術開発のための総合研究
自然環境の管理と保全についての基礎的技術の開発を図るため、この総合研究においては、環境の悪化が生物や生態系に与える影響、海域における物質循環機構等の解明、自然生態系の現況は握手法の開発等に関する研究を推進した。
ア 環境悪化の生物への影響については、文部省において、騒音や汚染物質が動物の生理、行動に与える影響、及び障害遺伝子の蓄積等遺伝的影響を解明するための研究を実施した。
イ 大気汚染の植物影響については、農林水産省において、光化学オキシダントが農林作物の生育収量に与える生理、生化学的影響の解明と被害の定量化手法の開発を実施した。
ウ 環境汚染物質や開発行為の生態系への影響については、文部省において、重金属等が水田雑草に与える遺伝的影響の研究及び人為による開発が天然林の生態系に与える影響の予測手法の開発を実施した。
農林水産省においては、都市化による環境悪化が樹林地に与える影響の解明と樹林地の環境保全機能を発揮させるための維持管理手法についての研究及び有機リン殺虫剤が森林、耕地、水系等の動物相に与える影響の解明と環境影響を減少させるための昆虫誘引物質の開発を実施した。
エ 海域の生態系における物質循環機構については、農林水産省において、富栄養化物質の水域と底泥をめぐる物質収支の動態を解明する研究を実施した。
オ 自然環境の調査方法及び監視手法の開発については、農林水産省において、野生鳥獣の生態の解明と適切な保護繁殖を図るために、より有効なセンサス法の開発、摂食量、群集構造の解明等を実施した。
また、建設省においては、樹林の活力度及び水域の透明度を指標として広域の環境変化をリモートセンシング技術により監視する手法の開発に着手した。
(8) 環境汚染の生物に与える慢性影響の解明に関する総合研究
比較的高濃度の環境汚染物質が生物に与える急性、亜急性の影響についてはかなり解明されているが、現実の有害物質の環境濃度は極めて微量であり、この様な微量汚染物質が生物に与える長期的、慢性的影響を解明することは環境行政上重要な課題である。この総合研究においては、微量の重金属や農薬等による環境汚染が各種の動植物に与える遺伝的、生理的、生態的影響や各種環境要因と障害発現との関係等の解明を推進している。
ア 遺伝的な影響の解明については、文部省において、騒音環境が動物の生理、行動に与える有害作用の遺伝的影響及び環境汚染物質による生物集団中への障害遺伝子の蓄積機構の解明に関する研究を実施した。また、環境庁においては、重金属の魚への細胞内分布と遺伝特性との関係及び重金属や化学物質のDNA合成等への障害等の研究を実施した。
イ 生理的な影響の解明については、厚生省において、重金属や殺虫剤が昆虫の量的形質や酵素活性に与える影響の解明及び殺虫剤等の動物の臓器への蓄積と代謝、解毒作用機構に関する研究を、農林水産省においては、PCB等の淡水魚の体内への蓄積と生理阻害作用の検討及びカドミウムが植物の光合成や関連生理作用に及ぼす影響の究明に関する研究を実施した。更に、労働省においては、大気汚染物質の濃度と動物の代謝系の異常との関連から潜在異常を評価する方法の研究を、また、環境庁では、重金属の細胞内への取り込み、生育代謝阻害、適応等の機構の研究を行った。
ウ 生理遺伝的な影響の解明については、農林水産省において、農薬等が昆虫の計量形質や代謝系に与える影響の研究及び大気汚染と果樹の形態異常や代謝機能の変化に伴う生化学反応との関連についての研究を実施した。
エ 生態学的影響の解明については、文部省において、重金属等による土壌汚染が水田雑草の抵抗性等の遺伝的特性に与える影響の究明を行った。
オ 各種環境要因と障害発現との関係の解明については、厚生省において、大気汚染に対する動物の呼吸器系の耐性獲得と慢性影響との関連及び環境汚染が動物の病原菌に対する感染抵抗に及ぼす影響の解明を、農林水産省においては、環境汚染物質がストレス環境下にある動物に対して与える有害作用機構、遺伝特性等の解明を、また労働省では動物について、重金属に対する耐性獲得の有無とその機構、交絡作用等の解明を行った。更に環境庁においては、実験条件の変動が生理や行動に与える影響と汚染物質の暴露による変化との関係についての研究を実施した。
(9) 都市における環境保全計画手法の開発に関する総合研究
都市への人工集中は、無秩序な都市地域の拡大、緑地区間の減少、交通混雑等を招くとともに、都市の拡大、気候、水、動植物等の生活環境や自然環境にも大きな変化をもたらした。また、都市生活、都市活動に伴って排出される廃棄物の処理量は次第に増大し、都市環境保全上大きな問題になっている。この総合研究においては、都市活動の制御や緑地空間の配置、物質流の負荷の低減化による都市環境の保全手法の開発及び廃棄物の処理再利用面からの都市計画手法の開発を推進している。
ア 都市機能の配置計画の制御を主とする環境保全手法については、建設省において、都市活動と環境との関連分析、都市生活価値をも考慮した都市環境指標の設定、空間系配置の効果評価等によりモデルを構築し、都市環境保全手法の開発を実施した。
イ 緑地空間がより効果的な環境保全の役割を果たすために、農林水産省においては、植物集団としての樹林地に及ぼす都市化環境の影響、都市環境下における育成法の検討、より適切な植物の育成等樹林地の維持と管理手法の開発を実施した。
ウ 廃棄物を都市空間の外に排出処分することなく、都市の内部に取り込んで処理し、再利用するシステムを構成するために、厚生省においては、廃棄物の流れを制御し、循環させるのに適した都市空間を形成する廃棄物を中心とした都市計画手法の開発に着手した。
(10) 騒音、振動の防止及び評価に関する総合研究
現代においては、工場機械設備の大型化、新幹線鉄道や航空機等の大型高速輸送機関の普及、モータリゼーションの進展による道路交通量の増大、建設工事の頻繁化と大型化等に伴い、騒音・振動の問題は大きな社会問題となっている。
騒音及び振動の規制については、「騒音規制法」及び「振動規制法」により、工場・事業場・建設作業・道路交通等に伴う騒音、振動の規制が行われているが、騒音・振動が人の心理、生理及び精神等に及ぼす影響についてはまだ、十分に解明が進んでおらず、また、規制の実効を期するためには、各種の発生源に対する騒音、振動防止対策技術及び複雑な特性を持つ騒音・振動の計測及び予測評価技術の改良、開発を積極的に進めねばならない。
このため、この総合研究においては、騒音及び振動の発生源対策技術、伝播防止技術、計測技術、予測評価技術、人間の心理、生理等に及ぼす影響解明等に関する研究を総合的に推進している。
ア 発生源対策については、科学技術庁においては、ジェットエンジン排出側騒音の低減化に関する研究を行った。また、通商産業省においては、プレス機械の騒音及び振動の発生機構を調査解明し、衝撃振動源近傍に伝播振動の低周波成分に近い固有振動数をもった補助振動系を設置し、衝撃振動を吸収、低減する研究を行った。また、建設省においては、道路橋上を大型車が通過する際に発生すると考えられる低周波空気振動の発生機構等の研究に着手した。
イ 伝播防止技術については、通商産業省において、シャモット、パーライト等の安価な未利用資源を利用した騒音防止材料を開発する研究を行った。
また、地盤振動について防振溝を設けてしゃ断する方法を研究したほか、複数の機械から発生する振動について、方向性、位相等を考慮した配慮により、相殺低減する研究を行った。
ウ 計測技術については、通商産業省において、デジタル式騒音計測の標準化の研究を行ったほか、個々の機械の音が複合騒音に与える寄与率を解明し、効果的な騒音防止対策を行うため、騒音源や伝播経路別の騒音を分離定量する研究を行った。
エ 予測評価技術については、運輸省において、自動車の音響出力と交通流との関係を解明し、交通流騒音の評価方法について研究した。また、建設省においては、建設工事に関する単体機械及び組合せ作業による騒音・振動のパワーレベルを計測評価し、工事に伴う騒音・振動の予測・評価を行う手法の研究を行った。また、道路交通振動の予測・評価手法等の研究を進めた。
オ 騒音が人間の心理、生理、精神等に及ぼす影響の研究については、厚生省において、騒音に暴露された人々の大脳活動、自律神経活動等を医学的な観点から検討し、騒音が生体に与える病的状態や失調状態の解明及び、予防や治療のための基礎知識の確立を図った。
また、騒音と振動の複合影響について、物理量と生理的、感覚的な影響等との関係を明らかにし、クライテリアの設定を図った。
53年度においては、以上10の総合研究プロジェクトを推進したほか、次の研究を実施した。
(ア) 悪臭関係
悪臭関係の技術については、通商産業省において触媒燃焼方式による悪臭防止技術に関する研究を実施し、低濃度の悪臭ガス除去のための高効率の脱臭用触媒の開発並びに前処理技術を含めた小型高性能の触媒燃焼装置の開発を行った。また、嗅覚による官能試験に対応しうる悪臭評価方法の開発のため、ガスクロマトグラフィの分析パターンによる臭気計測法に関する研究も引き続き実施した。
(イ) 計測技術関係
大気汚染物の計測技術については、通商産業省において、排ガス流量測定法に関する研究に着手したほか、大気汚染粒子の粒径分布計測法に関する研究を引き続き実施した。また、労働省においては、環境中の芳香族炭化水素、特に発がん関連物質の簡易分析法の開発に着手した。
水質汚濁物質の計測技術については、通商産業省において、多種の金属を同時に簡単な操作で迅速に計測するため、化学反応速度差を利用した計測技術の開発に関する研究に着手したほか、汚染水域の底質分析方法、排水流量の適正な計測法の確立、水質汚濁計測計の標準化を図る研究を引き続き実施した。