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第4節 

1 交通公害の現況

 近年、交通網の拡大や交通量の増大に伴って、交通公害は各地で社会問題となっており、環境保全対策上の課題として、その重要性が高まってきている。
 我が国において交通公害が社会問題として顕在化してきたのは、昭和30年代後半からと考えられる。
 戦後の経済復興期とそれに続く高度成長の時代は、交通機関にとっても極めて高度かつ多様な発達を遂げた時代であり、特にジェット旅客機の就航(35年8月)、東海道新幹線の開通(39年10月)、高速道路東京〜神戸間全線開通(44年5月)等は象徴的な事例である。
 これら交通機関の発達・普及が我が国のような過密社会で、しかも不十分な居住環境のなかで急速になされたことが、今日の交通公害問題を惹起するに至った一つの重要な要因である。しかも、公害防止の観点からの適正な土地利用が必ずしも十分でないままに人口が急速に都市部に集中し、そこに各種交通路線が錯綜したことが交通公害問題の解決を一層困難にしている。
 このような状況は、全国的な傾向であることから、地域住民との間に交通公害問題に関し、紛争等を生じている事例も多く、例えば、環境庁が地方の環境調査官を通じて調査したところによれば、53年12月末現在で140件に上っている。これを交通機関別に見ると、自動車交通に関するものが81件,航空機に関するものが30件、鉄道に関するものが29件となっており、自動車交通に関するものが最も目立っている。
 なお、これらの問題事例の中には訴訟に至っている事例もかなり見られるが、これについては52年2月現在係属中の環境問題に関する訴訟として環境庁がは握した68件のうち、大阪国際空港夜間飛行禁止等請求事件、東海道新幹線騒音振動浸入禁止等請求事件、国道43号線・阪神高速道路騒音排気ガス規制等請求事件など交通公害関係の訴訟が19件挙がっている。
 自動車交通による公害に関して,環境基準の達成状況を見ると、道路に面する地域の騒音の環境基準を満足する測定点数は20%に満たず、二酸化窒素による大気汚染については、大都市地域、幹線道路周辺でなお改善を要する状況にある。また、新幹線鉄道による公害に関して、新幹線鉄道騒音に係る環境基準においては、既設新幹線鉄道沿線のうち80ホン以上の区域については53年7月までを目途として環境基準が達成され又は維持されるよう努めるものとされており、その時点においては、達成は十分とはいえない状況にあったが、その後、障害防止対策はかなりの進展を見ている。更に、航空機による公害に関して、航空機騒音に係る環境基準においては、第1種及びジェット機の就航している第2種空港については53年12月までに中間改善目標を達成することとされており、かなりの空港にういて達成を見たものの、なお、一部の空港については達成は必ずしも十分とはいえない状況にある。

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