2 化学物質の環境調査結果について
環境庁では、PCBのような化学物質による環境汚染の未然防止の基礎資料を得る目的で、49年度から水質、底質(水底の底質)、魚類等を対象に環境調査を実施している。
52年度調査は、人体に対する影響の強い化学物質という観点から、約600物質を選び、この中から生産量、使用形態などの点から見た優先順位に従って約150物質を選出し、分析技術について実験的検討を行い、91物質について東京湾、大阪湾など10地域の計37地区で調査を行った。なお、本調査は環境中における長期残留性のある化学物質の検索とこれらが異常に存在するかどうかの知見を得るため行うものであり、調査地点は排出口の付近を避けて商工業地域など、環境中での拡散により汚染の伝搬されたと思われる地域を選んでいる。
(1) 52年度調査の結果,52年度にはじめて調査した81物質のうち14物質及び前年度以前に調査した物質について再調査した10物質のすべてが、水質等から検出された。主な検出物質は以下のとおりである。
? PCB代替品であるジイソプロピルナフタレン、1-フェニル-1-(3、4-ジメチルフェニル)エタンは46年頃から使用されてきたものであり、タ-フェニルはPCB関連物質であるが、これらの物質はいずれも、底質及び魚から検出された。これらの物質は毒性や魚類への濃縮性など比較的よく調べられており、いずれもPCBに比してはるかにその影響度は低い。これらについては50年度あるいは51年度に引き続き調査を行ったものであり、現時点では検出濃度が低く、生産・消費量はそれ程多くないところから今後急速に環境残留レベルが高まるとは考えにくい。
? プラスチックスや食用油などの酸化防止剤として使用されているジブチルヒドロキシトルエン(BHT)は、51年度調査で底質から検出されたため、52年度も引き続き調査を行ったところ、底質及び魚から広範囲に検出された。本物質は食品添加物として認められ使用されているものであり、現段階の検出濃度では人体に対する影響という視点から注目すべき段階に至ってはいないと判断される。
? プラスチックスの難燃剤などに用いられているトリブチルホスフェートは、50年度における同種のもの8物質について行った調査結果を勘案し、調査することとしたものであるが、その結果、本物質の残留分布は底質及び魚類とも1桁のppb(十億分の一)単位の検出濃度で全国的に一様な広がりをもっていることが認められた。
? 家庭用洗剤の主成分である直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)については、従来の陰イオン界面活性剤全体としてではなく、当該物質をそのものとして分析する方法により調査を行った。また非イオン界面活性剤については、台所用等の洗剤の成分であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの調査を行った。調査の結果、都市部の河川等でこれらの物質が検出され、生活排水の影響が示唆された。LASは哺乳動物に対する毒性は低く、分解性は良好であると言われているが、その使用形態において環境中に大量に放出されたため分解が追い付かず、検出されたものと思われる。
? ゴム加硫促進剤などに使用されている2-メルカプトベンゾチアゾールが水質及び底質から低濃度であるが検出された。
(2) 52年度の調査結果から明らかになったことは次のとおりである。
? 52年度の調査結果から、化学物質審査規制法等に基づいて、何らかの措置を直ちに採ることを必要とする化学物質は見られない。
? これまでの調査結果から見て以下のことが指摘される。
ア 物理的化学的安定性を要求されるような化学物質(例えば、プラスチックスやゴム製品に添加される酸化防止剤、安定剤、あるいは熱媒体、防炎剤、難燃剤など)は環境汚染上問題がないかどうか注意を必要とする物質群である。
イ 分解性が良いとされる化学物質についても開放系の用途に大量に使用されれば、その結果、供給(製造・使用)と環境代謝との平衡が保持されなくなることもあるので観察を必要とする。
ウ 人体に対する影響の問題とは関係が薄いものではあっても、生態系への影響が懸念される場合における当該化学物質の存在価値の評価、例えば危険と便益をどのように計量的には握するかの問題の検討が必要である。
? 今回の調査結果から見て環境汚染濃度の継続観察が必要な物質としては次のようなものが挙げられる。
ジイソプロピルナフタレン、1-フェニル-1-(3、4-ジメチルフェニル)エタン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トリブチルホスフェート、2-メルカプトベンゾチアゾール、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
また、生物影響等各種テストを早急に実施すべき物質には次のものがある。
トリブチルホスフェート、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなお、53年度においては、従来の環境調査で注目されたヘキサクロルベンゼン、ポリ塩化ナフタレン、2-メルカプトベンゾアゾールなど計56物質について調査を実施し、現在その集計中である。