1 化学物質の安全性に関する施策の推進
(1) 昭和48年10月に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下,「化学物質審査規正法」という。)が制定され(49年4月施行)、難分解性の性状を有し、魚類等に蓄積し、かつ、人の健康を損なうおそれのある化学物質(特定化学物質)の製造、輸入、使用等の規制を行うとともに、新規化学物質の事前審査を行っている。
この法律に基づき、新規化学物質については、54年2月末現在、805件の化学物質の製造又は輸入の届出があった。そしてこれらについては組成、性状等に関する既知見、微生物分解度試験、魚介類濃縮度試験結果等により審査し、54年2月末までに345物質が難分解性等の性状を有しないものとして公示され、製造及び輸入が認められている。
既存化学物質の安全性の確認については、主として通商産業省において化学物質の微生物分解度、魚介類濃縮度を、厚生省においては動物実験による毒性を、また、環境庁においては環境中における化学物質の存在状況について調査・点検を進めている。
(2) 通商産業省においては、既存化学物質の安全性を総点検する必要から微生物分解度及び魚介類濃縮度の試験を実施している。これまで、PCB代替品、PCB構造類似物、生産量又は輸入量が年間約100トン以上の物質、構造面から見て安全性を確かめる必要がある物質等を中心として,(財)化学品検査協会に事業補助を行い、分解度及び濃縮度の試験を実施している。49年以来毎年度約100物質について点検を行っており、53年12月末現在、約220物質が分解性良好又は濃縮性が低いと判断されており、濃縮性が高いと判断された物質は、PCB以外にポリ塩化ナフタレン、ヘキサクロルベンゼン、酸化第二水銀及び2、4、6-トリブロモフェニル(2-メチル-2、3-ジブロモプロピル)エーテルである。
更に、これらの既存化学物質の点検を迅速かつ有効に進めるため,嫌気性微生物による分解度試験法、揮発性物質等の分析法及び非水溶性物質の魚介類濃縮度試験法の開発を継続的に進めている。嫌気性微生物による分析度試験法においては、微生物種による分解性の違い、化学物質と微生物との共存状況の究明等を通じてこれに関する最適な試験条件の設定を目指している。
53年度には,特にガス状化学物質の分解度及び難水溶性化学物質の濃縮度について試験法の確立を目指して検討を加えた。
(3) また、厚生省においては化学物質のうち、通商産業省における試験の結果,分解性が悪く、かつ濃縮性の高い物質を主として取り上げ,数年間にわたる毒性試験を実施している。
(4) 環境庁においては、49年以来「化学物質審議規制法」に規定する化学物質等を含め広く有害物質を探査するという立場で環境調査を実施してきた。しかし膨大な数の既存化学物質を対象としてこれらを短時間に効率よく点検するため、環境庁では、51年度に化学物質環境安全性総点検体系の構想を立案し、54年度から同構想を体系化し、同体系に基づく調査を実施することを目途としてその準備を進めてきたところである。53年度に実施した各種調査研究は以下のとおりであるが、これらは同構想推進のための準備調査研究のほか、従来から継続している環境調査とから成っている。
? 2万余りに上る既存化学物質について、生産量、用途、毒性から見たプライオリティリストの作成をはじめとし、内外有害化学物質情報の整備を図った。
? 化学物質の環境中で光、微生物等により分解性があるか否かを実験室内で判別するためのスクリーニングテスト手法の開発について、そのテスト結果の評価判断に重点を置いて研究を進めた。
? ガスクロマトグラフー質量分析計を使った環境中に残留している化学物質の検索調査技術の研究を行うとともに、将来のコンピュータ検索技術について準備・研究を始めた。
? 化学物質による環境汚染の実態は握のため、生産量、使用形態等を考慮して46物質を選択し、環境調査を行った。
? これまでの調査結果から、環境汚染の可能性がある物質を対象とし、精度を高めた分析法により、対象地域を広げて精密な環境調査を行った。
? 環境中に残留している化学物質の動植物に与える影響を見るため、ダイズ、イネ、ミジンコ等を使用したテスト手法の開発を行った。
? 検討を要する化学物質について汚染の経過観察を行うため、北海道沖、東京湾、瀬戸内海等に生物指標環境汚染モニタリングネットワークを設け、スズキ、ムラサキガイ等を対象として調査を行った。
(5) 化学物質安全対策は欧米諸国やOECD等国際機関で実施されつつある。53年度にはこれらの機関との間に次のような会議がもたれた。
? 53年9月には、「環境の保護の分野における強力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に基づく第3回合同企画調整委員会が開催され、同委員会の有害物質の識別と規制に関するパネル会合では、日本の「化学物質審査規制法」及びアメリカの「有害物質規制法」の運用状況等に関する討議、化学物質の環境モニタリング、化学物質情報検索システム等の情報の交換が行われた。
? OECDでは環境委員会化学品グループにおいて、53年度からステップシステム(規制手法)に関するグループ等6専門家グループを設け、試験手法等の国際的調和を図る作業を行っている。我が国は積極的にこの作業に参加しており西ドイツとともに分解性・蓄積性グループの共同責任国を務めている。その第1回会合が53年5月東京で、第2回会合が同年10〜11月西ドイツで開かれた。これらの会議において各国の化学物質の分解度及び濃縮度についての試験手法の紹介がなされ、我が国の「化学物質審査規制法」の法定試験を含め、化学物質の分解度・濃縮度試験手法について各国で比較検討することが決定された。これらを踏まえ、今後の化学品行政の充実を図っていくこととしている。