1 環境影響評価の推進等
(1) 環境汚染の未然防止を図るための措置として環境影響評価を行うことが必要なことは、今日、広く認識されているところであり、効果的な環境影響評価の実施のための制度等の体制の整備を図る必要がある。
(2) 現在我が国においては、第1部第2章第3節154/sb1.2.3>で述べたとおり、国において、港湾法、公有水面埋立法等の個別法又は昭和47年6月の閣議了解「各種公共事業に係る環境保全対策について」の行政指導等により事業の種類別に環境影響評価を実施している。
これらは、事業が異なることもあり、環境影響評価を行うべきか否か、地方公共団体の位置付けをどのようにするか、誰が住民の意向を反映する措置を講ずるか等について、必ずしも統一されていない。
例えば、前記閣議了解においては、「各種公共事業」の定義がなされていないこともあり、どのような事業についてどのような手続を行えばよいのか明らかでないので、事業の種類に応じて関係省庁において手続等を定めているところでもある。
また、地方公共団体の位置付けについても、52年7月の通商産業省省議決定においては「地方公共団体との連携」とし、53年7月の建設事務次官通達においては「地方公共団体との連携等」とし、54年1月の運輸大臣通達においては「関係道府県知事の協力」となっているように、事業別に異なっている。
更に、住民の意向を反映するための手続や措置についても、閣議了解においては定められておらず、通商産業省省議決定においては、電気事業者等が地元住民等の意向を反映するための措置を講ずることとし、建設事務次官通達においては、関係都道府県知事が説明会等を行う場合に地方建設局等が必要な協力を行うこととしている。また、運輸大臣通達においては日本国有鉄道等が関係地域の住民の意見を反映させた関係道府県知事の意見を求めることとし、この場合、日本国有鉄道等は、関係道府県知事と協議して説明会の開催等を行うこととしている。
(3) 次に,地方公共団体においても、47年6月の前記閣議了解に基づき、国又は政府関係機関等の場合に準じて所要の措置が講ぜられるよう政府は要請することとしている。そして、その後、54年3月までの間において制定された条例(北海道及び川崎市)及び要綱等(宮城県、栃木県、三重県、兵庫県、岡山県、山口県、福岡県、沖縄県、名古屋市及び神戸市)に基づく環境影響評価がある。特に53年度においては、北海道が条例を制定したことをはじめとして、三重県等5団体が要綱を制定した。
なお、最近における条例又は要綱の内容を見ると、国等の行う事業の取扱いについては、国等と協議して環境影響評価の実施を求めることとする等の配慮がなされている。
(4) このような状況のもとで、環境影響評価の制度的なあり方について、50年12月22日、中央公害対策審議会防止計画部会環境影響評価制度専門委員会が「環境影響評価制度のあり方について(検討結果のまとめ)」をまとめ、翌23日、環境庁長官は中央公害対策審議会に対し「環境影響評価制度のあり方について」を諮問し、その後、前記「検討結果のまとめ」を基に、同日発足した同審議会環境影響評価部会において各方面の意見、知見等を聴く等の検討が進められた。
(5) 環境影響評価の技術手法の面については、従来から、その開発と精度の向上が図られてきているが、特に40年度からの産業公害事前総合調査その他各種の調査の調査研究の結果や47年6月の閣議了解等に基づく環境影響評価の実績の積重ね等による知見の集積がある。また、49年6月の中央公害対策審議会防止計画部会環境影響評価小委員会の「環境影響評価の運用上の指針について(中間報告)」、52年7月の「児島・坂出ルート本州四国連絡橋事業の実施に係る環境影響評価基本指針」、「本州四国連絡橋(児島〜坂出ルート)に係る環境影響評価技術指針」等により内容の整備がなされている。
そして、これらの知見等を踏まえて、53年7月には「建設省所管事業環境影響評価技術指針(案)」が建設省によって作成され、また54年1月には「整備五新幹線に関する環境影響評価指針」が環境庁と連絡調整の上運輸省によって作成され、更に54年2月には環境庁において「環境影響評価に係る技術的事項について(案)」が取りまとめられる等、技術手法についての整備、向上が図られている。
環境影響評価の技術手法については、事業の実施に伴う環境汚染を未然に防止するという観点から,定量的な判断のみならず、不確定性が大きいものについても可能な限り定性的な判断を行うことが重要であり、その時点において得られている科学的知見に基づき、可能な限り、客観的な調査、予測及び評価を行うということを基本的考え方として、今後ともその整備、向上を図ることとしている。
なお、関係省庁において、それぞれの所管に係る問題について「計画段階における環境影響評価技法に関する調査研究」をはじめとして、環境影響評価についての技術手法の向上のための調査研究が推進されている。
(6) また、環境庁においては、各種公共事業等のうち、法令等により、事業計画の決定又は認可に際し環境庁に協議等がなされることとなっているものについて、環境保全上の観点から所要の意見を述べる等の措置を講じているが、これらについて53年度において関与した主なものは、次のとおりである。
? 港湾計画については、53年度は港湾審議会計画部会が4回開催され、神戸港、横浜港、大阪港、志布志港等の港湾計画について審議が行われ、環境保全上の意見を述べた。
? 公有水面埋立計画については、公有水面埋立法の規定に基づく広島港内(海田湾)、阪南港内等(二色の浜)、北九州港内(響灘)の公有水面埋立ての免許の認可に当たって、主務大臣に対し意見を述べた。
? 交通計画については、前述の本州四国連絡橋(児島・坂出ルート)に係る環境影響評価が行われ、環境保全上の意見を述べた。
? 電源開発基本計画については、53年度は電源開発調整審議会が4回開催され、俣野水力発電所、今市水力発電所、知内火力発電所、富山新港火力発電所、敦賀原子力発電所、福島第二原子力発電所等の計画に対して、環境保全上の意見を述べた。
(7) 環境汚染の未然防止を図るためには,以上述べた環境影響評価を推進するほか、国土利用の適正化を図る必要がある。すなわち、これまでのような既存の土地利用の下での環境因子の排出規制等の対策に加え、今後は地域の自然的特性を踏まえて、環境保全に配慮していく必要がある。
53年度においては、53年12月に国土庁から土地利用基本計画の見直しを行う旨地方公共団体に通知したが、その際、環境庁からも環境汚染の未然防止の観点から、土地利用の転換についての計画的な調整等を行うよう通知した。このほか、都市計画法に基づく市街化区域に関する都市計画について環境汚染の未然防止の観点から意見を述べた。