2 ケミカルアセスメント
環境庁では、国際機関あるいは欧米諸国等の化学物質対策の動向等を踏まえ、長年使用されてきた全既存化学物質の環境中での存在状況及び環境に与える影響を確かめるべく、テスト、調査及びその評価からなる点検構想(ケミカルアセスメント)を立案し、科学的、組織的に行うべく現在準備を進めている(昭和52年度公害の状況に関する年次報告第1部第3-19図参照)。
(1) 化学物質総点検構想の概要
化学物質総点検構想においては、環境及び人体に及ぼす影響に着目して環境実態調査の必要な化学物質を抽出し、それらの環境中での実態をは握し、その結果環境上注意を必要とされる化学物質について、環境影響度のテスト及び評価を行い、必要がある場合には、水質汚濁防止法や大気汚染防止法、または化学物質審査規制法等による規制を行うことができる基盤を整備することにしている。
本構想は、環境中における化学物質の存在状態を調査する環境調査の段階と、環境調査の結果判明した環境中に残留している化学物質の動物及び植物に与える影響の検討の段階とからなる。
(2) 環境調査対象化学物質
環境調査を行う化学物質を決定するに当たっては、まず、全既存化学物質から毒性面に着目して注意すべき物質を抽出し(有害化学物質リストの作成)、次にこれらの物質について、生産量、環境開放系の用途など環境流出の面から検討を加えて「プライオリティリスト」を作成する。
この段階で一応環境上注意を要する化学物質がリストアップされる。環境調査を行うべき化学物質の決定は、これらリストアップされた化学物質中から難分解性化学物質のスクリーニング、通商産業省で行う分解性、濃縮性試験、内外の有害物質情報の収集及び環境中残留化学物質の検索等の結果を総合的に判断して行うこととしている。
難分解性化学物質のスクリーニング手法の開発を図るため、51年度から化学物質の大気中における光化学的分解、水中並びに土壌中における光化学的分解及び微生物分解モデル試験法の開発を51年度から着手し、53年度においても更にこれを進めることとしている。
また、環境中に残留する化学物質の検索は、水質、底質、魚類等の試料の中にどのような化学物質が含まれているかを検索するシステムであり、分解性のテスト手法と同様51年度に着手し開発研究を更に進めることとしている。
(3) 環境調査
環境調査は、環境中における残留化学物質の確認のために行われるが、第一次の環境調査及びその結果に基づくより重点的な精密環境調査からなっている。
環境調査は、49年度から始められているが、調査体制は必ずしも十分ではなかった。53年度においては、(2)により多数の中から合理的に選択された化学物質について工業地域、消費地域等に定点を設け調査すべく検討することとしている。
(4) 環境残留性化学物質の生物影響の検討
(3)でその環境中における残留の確認された環境残留性化学物質についてはその生物影響の検討が行われる。
動物及び植物に及ぼす影響テスト手法に関する調査研究としては、植物の発芽、生長阻害、植物体への濃縮についての実験室テスト手法の確立を図るとともに、他に、水中生物としてミジンコ、ゾウリムシの生長・増殖影響、あるいは、フナ、コイのえら呼吸数への影響を指標とする生物反応の試験手法の開発研究を52年度に引続き進めていくこととしている。
また、魚類や微生物に濃縮しても哺乳類に対しては消化系構造の相違から体内で分解される化学物質の存在が考えられるため、人体への影響を哺乳類を用いた試験及び消化管を経由した時の変化をモデル化する試験法の開発を進めている。51年度からの研究により、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)あるいはクロルベンゼンなどの化合物は哺乳類では分解される性質をもっていることが分り、この試験は人体への影響を考える場合の前段階のテストとしての位置付けとなりうるものである。今後とも哺乳類における化学物質の代謝、分解、排泄についての多くの知見を求めていく必要がある。
(5) 環境調査及び生物影響テストを経て選別された要注意化学物質はこれらの情報をもとに関係行政機関によって、規制のための検討対象となることになる。
(6) 環境庁としては、ケミカルアセスメントの体系の中で要注意化学物質については更に継続して、環境モニタリングを行うこととしている。その一環として、これら成分の動態を継続的に観察するため、魚を指標生物とする生物指標定点モニタリングネットワークを53年度から全国3か所に発足させることとしている。このため、52年度においては魚の部位によって含有化学物質がどのように変化するか、適切な検査対象部位は何処かをは握する目的で調査研究を行っている。なお、この生物指標定点モニタリングは、1976年11月に開催されたOECD環境政策レビュー東京会合において提起されたEWS構想(EarlyWarning System 早期警報システム)の主旨に沿っているものであり、長期にわたる生物中の重金属レベルの消長等についても観察を加えていくこととしている。
また、生物試料の継続的観察に関連しての試料長期保存技術の開発は、新たな汚染物質を過去に逆上って探索するための有力な手段であり、今後更に拡充を図っていくこととしている。